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第1章 ヤトノカミ編
第19話「戦闘開始」
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社務所にたどり着くと神主を修達が泊まった部屋に寝かせた。体を調べるとわき腹に刺し傷を発見した。出血が派手なので血をふき取り、シーツを裂いて応急処置に巻きつけた。一通りの止血処置が終わると千祝が部屋に入ってきた。修と辰子が救護をしている間に救援の電話をかけてきてもらったのだ。
しかし、
「駄目! 電話線を切られてるみたい! つながらなかった!」
「何? 携帯は?」
「圏外なの!」
修も自分の携帯電話を見ると確かに圏外の表示だった。辰子も携帯電話を見ているがこちらも同じようだ。
「中継アンテナでも壊したっていうのか? ご丁寧なことだぜ」
「これからどうするの?」
「辰子さん。宝物館の鍵を貸してくれ。武器になりそうな物はあそこにある」
「宝物館の鍵なら入口の事務机の前にかかってるけど……戦うの? もう逃げた方がいいんじゃない?交番かどこかへいきましょ?」
「さっきみたいな奴が今でも増え続けているんだ。町にあんなのを行かせるわけにはいかない。すぐにでも手を打たなくちゃならない。もちろん通報も重要だ。俺が戦って食い止めている間に千祝と一緒にお父さんを連れて脱出して警察に助けを求めてきてくれ」
鍵を回収し、表に停めてあったリアカーに神主を乗せ、宝物館に入る。
「刀は一杯あるけどほとんど展示用だからな……これとこれと、これか」
宝物館の刀は展示のため刀身のみの状態であり、すぐ戦いに使えそうなのは柄がついて展示してあった薙刀と短刀、そして弓矢が一組だけだった。
薙刀は千祝に渡し、修は矢を入れた箙を身に着け短刀をベルトに手挟む。
「すぐに助けに戻ってくるからそれまで持ちこたえてね」
「ああ。そっちも他に敵が待ち構えていないとも限らないから辰子さん達の護衛、頼んだぜ」
修は弓の弦の張り具合を確かめながら千祝と言葉を交わす。今生の別れとかそんな悲壮感は感じなかった。これから待っているのは生まれて初めての実戦、町の不良や道場の立会とは違う生死をかけた戦いであるはずなのにそんな気はしない。なぜか不安でも高揚でもなく怪物たちにたいする憎悪を感じる。逃げるのではなく踏みとどまって戦う選択をしたのはそのせいかもしれない。辰子には町を守るためと言ったが、実際のところあまりそこは気にしていないのだ。
(まるで親の仇にでも出くわしたみたいだ)
と、修は思ったが、そんなはずはないとその考えを打ち消して、姿形が生理的嫌悪を生んでいるのだろうと結論付けた。
「さあ、かかってきな」
千祝達を送り出した時、闇の中から聞こえてきた足音に向かって修はそう言いながら弓に矢をつがえて構える。弓懸はいつも使っている弓道専用のものではなく親指の部分に固い角が入っていないので弦が食い込んでくる。
闇の中からヤトノカミの姿が見えた瞬間矢を放った。しかし、矢は相手に命中せず闇の中に消えてしまった。いつもとは引分けに要する力が違う上にずっと展示していたため癖がついているようだ。外れたことに動揺することなく二の矢をつがえる。襲いかかってくるヤトノカミが二体であることを確認し、一歩ばかり先に進んでくる個体を目標に定めて、放つ。
「グギャ」
修の前方三歩位の地点で眉間に矢を突き立てたヤトノカミは倒れ伏した。一射目の経験から加えた修正がうまくいったらしい。しかし、修は命中したことに囚われず二体目のヤトノカミに対処するため短刀を抜いた。親指の部分が柔らかい弓懸は弓を引く分には不利だが刀を使う分には有利になる。
「ハッ!」
修を引き裂こうと突き出してきた鉤爪を切り払い、怯んだところで喉に短刀を気合いとともに刺し貫く。
初戦でのように急所を捉えたからといって、油断することなく短刀を引き抜くと素早く間合いをとり残心をする。
しばらく警戒し監視していたが倒れた二体のヤトノカミはピクリとも動かず、うめき声をあげることもなかった。どうやら矢も短刀もヤトノカミに止めをさすのに足る武器らしい。少し安心した。
倒れているヤトノカミから矢を引き抜き、短刀とともに布で拭った。普通の生き物のような赤い血ではなくどろりとした粘液がついている。これから戦って行く時こまめに拭っていかないとすぐに切れなくなってしまいそうだ。
これからの戦いについて考えながら、闇の中から聞こえてくる新たな足音に気を集中させた。
長期戦になることを修は覚悟した。
しかし、
「駄目! 電話線を切られてるみたい! つながらなかった!」
「何? 携帯は?」
「圏外なの!」
修も自分の携帯電話を見ると確かに圏外の表示だった。辰子も携帯電話を見ているがこちらも同じようだ。
「中継アンテナでも壊したっていうのか? ご丁寧なことだぜ」
「これからどうするの?」
「辰子さん。宝物館の鍵を貸してくれ。武器になりそうな物はあそこにある」
「宝物館の鍵なら入口の事務机の前にかかってるけど……戦うの? もう逃げた方がいいんじゃない?交番かどこかへいきましょ?」
「さっきみたいな奴が今でも増え続けているんだ。町にあんなのを行かせるわけにはいかない。すぐにでも手を打たなくちゃならない。もちろん通報も重要だ。俺が戦って食い止めている間に千祝と一緒にお父さんを連れて脱出して警察に助けを求めてきてくれ」
鍵を回収し、表に停めてあったリアカーに神主を乗せ、宝物館に入る。
「刀は一杯あるけどほとんど展示用だからな……これとこれと、これか」
宝物館の刀は展示のため刀身のみの状態であり、すぐ戦いに使えそうなのは柄がついて展示してあった薙刀と短刀、そして弓矢が一組だけだった。
薙刀は千祝に渡し、修は矢を入れた箙を身に着け短刀をベルトに手挟む。
「すぐに助けに戻ってくるからそれまで持ちこたえてね」
「ああ。そっちも他に敵が待ち構えていないとも限らないから辰子さん達の護衛、頼んだぜ」
修は弓の弦の張り具合を確かめながら千祝と言葉を交わす。今生の別れとかそんな悲壮感は感じなかった。これから待っているのは生まれて初めての実戦、町の不良や道場の立会とは違う生死をかけた戦いであるはずなのにそんな気はしない。なぜか不安でも高揚でもなく怪物たちにたいする憎悪を感じる。逃げるのではなく踏みとどまって戦う選択をしたのはそのせいかもしれない。辰子には町を守るためと言ったが、実際のところあまりそこは気にしていないのだ。
(まるで親の仇にでも出くわしたみたいだ)
と、修は思ったが、そんなはずはないとその考えを打ち消して、姿形が生理的嫌悪を生んでいるのだろうと結論付けた。
「さあ、かかってきな」
千祝達を送り出した時、闇の中から聞こえてきた足音に向かって修はそう言いながら弓に矢をつがえて構える。弓懸はいつも使っている弓道専用のものではなく親指の部分に固い角が入っていないので弦が食い込んでくる。
闇の中からヤトノカミの姿が見えた瞬間矢を放った。しかし、矢は相手に命中せず闇の中に消えてしまった。いつもとは引分けに要する力が違う上にずっと展示していたため癖がついているようだ。外れたことに動揺することなく二の矢をつがえる。襲いかかってくるヤトノカミが二体であることを確認し、一歩ばかり先に進んでくる個体を目標に定めて、放つ。
「グギャ」
修の前方三歩位の地点で眉間に矢を突き立てたヤトノカミは倒れ伏した。一射目の経験から加えた修正がうまくいったらしい。しかし、修は命中したことに囚われず二体目のヤトノカミに対処するため短刀を抜いた。親指の部分が柔らかい弓懸は弓を引く分には不利だが刀を使う分には有利になる。
「ハッ!」
修を引き裂こうと突き出してきた鉤爪を切り払い、怯んだところで喉に短刀を気合いとともに刺し貫く。
初戦でのように急所を捉えたからといって、油断することなく短刀を引き抜くと素早く間合いをとり残心をする。
しばらく警戒し監視していたが倒れた二体のヤトノカミはピクリとも動かず、うめき声をあげることもなかった。どうやら矢も短刀もヤトノカミに止めをさすのに足る武器らしい。少し安心した。
倒れているヤトノカミから矢を引き抜き、短刀とともに布で拭った。普通の生き物のような赤い血ではなくどろりとした粘液がついている。これから戦って行く時こまめに拭っていかないとすぐに切れなくなってしまいそうだ。
これからの戦いについて考えながら、闇の中から聞こえてくる新たな足音に気を集中させた。
長期戦になることを修は覚悟した。
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