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10話 チュートリアル
しおりを挟むチュートリアルを始めるなり俺を脅かしてきた猫は長靴だけでなく、シルクハットにオシャレなタキシード、更にはステッキまで持った全部盛りセットだった。
「ふふービックリした? 僕はチュートリアル案内人のソレイユだよ、よろしくね!」
ソレイユって、、、まあ良い。それに向こうが自己紹介してきたのなら、こちらもそれに応えねばだな。
「お……ゴホン、私はパピィよよろしくね」
くっ、いざ女のフリをするとなると流石に恥ずかしいな。しかも俺の女性像が正解がどうかすら分からない。
ええい、もうここまで来てしまったのだ、今さら引き返せないんだぞ! ウジウジ言ってる暇はない! それに今は慣れていないだけで直に馴染む筈だ。それまでの間我慢すれば良いだけのこと!
「パピィ、って言うんだね、よろしく!」
クソ、ゲームでは定番のセリフも一々俺の羞恥心を煽ってきやがる。我慢我慢、変な反応をした方が負けだ。
「パピィはVRゲームは初めて?」
「えぇ、そうよ。ゲーム自体は何度かしたことあるんだけど」
まあ、本当は何度も、の間違いだが。
「そっかー! じゃあ基本的な操作について説明するね! まず、基本的な歩き方から!・・・
そこからソレイユによる基本的事項の確認が行われた。俺は見た目と違いゲームに関する経験は多いので難なく理解し実行することができた。だが、
「おー! 操作はバッチリだね! じゃあ次は戦闘訓練をしてみようか!」
そうこの戦闘訓練こそが俺の鬼門となった。なんせ、俺はそもそも運動神経が良い方ではなく、更には俺よりも何倍も軽い女性の体ということで操作が難しすぎたのだ。
この訓練で召喚されたモンスターはスライムなのだが、スライムに意識を向ければ足元が疎かになり、足元に意識を向けると、今度はスライムを追えなくなり攻撃をモロに食らってしまう。
まさか、ここまでは戦闘ができないとはな……想定外も想定外だ。
「あちゃー、ここまで苦手だったら案山子相手の練習にする?」
と言われてしまう始末だった。
「いえ、大丈夫よ。このままやらせてちょうだい」
だが、それは俺のコンセプトに反する。この身体は現実の俺とは違って完璧なのだ。顔も性格も、才能も。パピィは絶対に諦めない子なのだ。
才能に溺れず努力もできる美少女、惚れない理由はないだろう?
俺は一度距離を取り深呼吸をし、自分に意識を向けて精神統一をする。右手にはソレイユに渡された木の棒、そして五メートル先には目標のスライム。
走って殴る、それだけだ。それだけに集中しろ。俺ならできる、いやパピィならできる!
俺は目を見開き、スライムを視界の中心に捉えながら両足を右、左と進めていく。そして遂に……
ブチャ
「やったーーー!! 倒せたーー!」
「ふふっ、おめでとうパピィ! 君がチュートリアルで一番時間をかけてスライムを倒した人だね! でも安心して、これは君が一番劣ってるってことじゃなくて、君が一番成長した、ってことなんだから!」
うっ、今の俺にはその臭い言葉が響くぜ。だが、同時にありがたくもあった。俺の努力が認められている気がして。
「じゃ、次はゴブリンを倒してみよっか! スライムよりも殺意が強いから気をつけてね?」
「え?」
困惑している俺を置いてけぼりに、目の前にゴブリンが召喚された。
あぁ、異世界ファンタジーでよくゴブリンに襲われてた女性ってこんな気持ちだったんだな。
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