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4話 女性の温度
しおりを挟む落ち着いて深呼吸をし、冷静になって顔をあげるとそこには一瞬だけ見えた綺麗な街並みが広がっていた。つまるところ、どうやら俺はこの世界に降り立ってすぐに顔面から倒れ、床ペロをしたようだ。
な、何故俺は転んで、いや倒れてしまったんだ? 確かに俺が運動不足であることは認めよう。なぜなら崇高なる自宅警備員なのだから。しかし、それでも日常生活を遅れないほどではない。ましてや立つこともままならないまま倒れるなんて以ての外だ。
これは由々しき事態に違いない。俺という素晴らしき人材を前にゲームが萎縮してしまったのだろう。全く困った話だ。
立ち上がろうとしても上手く体を動かせないし、これはどんなバグなんだ? サービス開始から一ヶ月も経っているのにこんなに深刻なバグが残っているとは。いや、俺のせいでこのバグが引き起こされてしまったというわけなら申し訳なさすら感じるな。
「……」
だが、この状況はなんとかだはせねばならない。なぜなら俺は開始早々ぶっ倒れて立つこともできないからだ。周りのプレイヤーからは俺のバグなど知ったこっちゃないだろうし、ただただおかしな人に見えることだろう。
全く選ばれた人間というのは得てして苦労する運命《さだめ》なのだな。
だが、心配には及ばない。主人公に試練は付き物だ。そして、越えられない壁は無い。
「お、お兄さん大丈夫ですか!?」
ふっ、当然主人公には頼もしい仲間も必要だ。そして、そんな仲間との出会いはいつも運命的だと決まっているのだ。
「どうやら深刻なバグが発生したみたいで、立つこともままならないんだ。どうか肩を貸していただけないだろうか」
「え!? そりゃ大変! さ、私の肩を使ってください!」
あぁ、なんて素晴らしんだろうか。初対面の私にここまでしてくれるとは。これが主人公補正というやつか。それに、顔も綺麗で、完璧すぎる! い、いや俺にはヘヴィちゃんがいるが、これは決して浮気ではないぞ? 断じて違うからな、俺がただ好意に応えているだけなのだ!
未だ違和感の残る体をなんとか動かし、綺麗な女性の肩へ手を回した。そして、
「よっこらしょ!」
なんとか立ち上がることに成功した。それにしてもあぁ、なんて可愛い声なんだ。素晴らし過ぎるぞ。そしてそんな女性を無意識に寄せ付けてしまう自分が憎い!
周りの目も嘲笑だった視線が今となっては羨望の眼差しへと変わっているのが手に取る様に分かる!
「お兄さん、ではとりあえず移動しましょうか。そこで話を聞きます! ここは人目が多いですからね」
「ありがとう、私もちょうどそうしたいと思っていたところだった」
女性に肩を借りながら歩いてみると新たな新事実を発見した。それは私がまるで竹馬に乗っているような感覚である、ということだ。まさかここまで酷いバグだったとはな、これは後で運営にしっかりと言っておかなければならないな。
もちろん、この後で、だがな。ムフフ。
俺たちは人目を避け、人気のない路地裏へと歩みを進めていった。そして、どれくらい歩いただろうか。竹馬感覚であるから距離感が狂っているのだが、もう俺の目には誰一人プレイヤーが見えなくなった所で、
ドサッ、
俺は肩を外された。
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