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第十話 唯一の長所

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 目の前には三体の狼、それに対しこちらには一本の鉄パイプのみ。これで一体どうしろと言うのか、全く無茶にもほどがあるだろう。

 さっきまでは倒さなければと意気込んでいたが、とにかく生き残ることを優先して立ち回ろう。無理して一体倒したところで、残りの二体にやられたら本末転倒だからな。

 ジリジリと距離を詰められていく。相手は俺の鉄パイプを警戒してくれているのか、すぐに襲ってくる気配はない。ただ、それがいつまで持つのか、と言う話だ。くそ、これはモードを切り替えて新しい武器を生み出した方がいいのか?

 ……いや、とりあえずはこれで行くしかない。鉄パイプで厳しかったらその時は潔くモードを変更しよう。

「クッソー! どっからでもきやがれこのクソ犬ども!!」

 俺の言葉の意味がわかったのか、それとも偶然か、一匹の狼が俺に向かって突進してきた。

 かなりの迫力、かなりの速度だ。だが、俺は引っかからない。これは陽動だ、バレバレ過ぎるぞ。

 一体目が俺に突進してきた瞬間、残りの二体はすぐさま横方向に移動を始めたのを俺は確認している。つまり、俺がこの一体目の狼にかまっている間に横から刺されると言うわけだな。

「なら、こうしてやるっ! ふんっ!」

 俺は、こっちに向かってきている狼に対して鉄パイプを槍のように使い、思いっきり突き刺した。本当の槍ではないため、威力はそれほどないが、それでも狼が突っ込んできているそのスピードを逆に利用して突いてやった。

 一帯目の狼が、俺の思わぬ先制攻撃に面食らっているうちに俺はすぐさま距離をとる。あくまで相手を倒すことよりも自分が死なないことを優先する。残りの二体から挟まれては絶対に死ぬ。

「【ランダム武器生成】!」

 俺は再び武器を生み出した。もちろん鉄パイプだ。このスキルは出てくる武器は武器というより道具だが、この何度でも生成できるという点に関しては優秀だ。今回みたいに少しでも良い武器が出てきてくれた時には、さらに化ける。

 俺は二本の鉄パイプを装備し、そのまま距離を撮り続けた。おそらく、二体の狼が俺を狙ってきているのだろう。まずい、二本生成したのはいいものの、これをどうすればいいのか、全くビジョンが思い浮かばない。

 足も確実に俺より早いだろうし、この森の中を走るということに慣れているという点でも劣っている。どうにかして撃退する方法はないのか……? 

 もう、もはや鉄パイプを使って狼を撃退までは行かなくとも、どうにかスピードを落とすことだけでもできたらいいのに。

 ん、スピードを落とす……? ってことは足止め? ってことは足を止めさせる? 

「はっ!」

 足を止めさせたいのなら、別に狼たちに何か干渉する必要もないのか。そう。俺が逃げるから終われるのだから、俺はもう逃げない。

 ガウ、ガウッ!

 ふっ、ここまではこれないだろう。確かにお前らは地上を走るのは得意かもしれないが、それだけじゃないんだぜ?

 そう、俺は木の上に登ったのだ。狼には登る術はない。

 だが、三体目が合流した時、予想していたことが起きた。そう、木を倒そうとしてきたのだ。まあ、これくらいは誰でも予想できるだろう、そして俺がすべきことはただ一つ。

「【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】…………」

 俺は俺に使えることを許された唯一の攻撃スキルを無限に唱え続けた。その結果、

 ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンっ!!

 狼は文字通り下敷きになった。
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