109 / 139
三冊目
ろくじゅう•たいが
しおりを挟む
ムク犬が余計な事を言いだす前に、俺は九条からムク犬を奪い返した。
どんなお願いでも聞くだとか、マジで何を言い出していやがるんだ!
まあ、お陰で九条の手が緩みムク犬を奪還する事が出来たわけだが、本っ当にコイツは目が離せねえ。
小さなムク犬の体を姫抱きにしたまま、ゴールまで駆け出して行く。チラッと九条を見遣るとさっき置いてきたB組の獲物に捕まっていた。
…どっちがハンターか分かんねえな。
「…し、宍倉くん…」
腕の中のムク犬が戸惑った声で俺を呼んだ。
やっと取り戻せた大事な温もりを大切に抱え直し、俺は前を向く。
「河合、このまま行くよっ!」
その呼びかけにムク犬は俺の首に手を回し、キュッと抱き付いてきた。久し振りに感じるムク犬の柔らかい髪と甘い香り。
この獲物は俺だけの獲物だ!
『白熱したレースも終盤を迎えようとしています!現在トップを走るのはA組の宍倉、河合のペア。それをB組の九条ペアが追いかける展開です!』
『途中、A組の宍倉選手からB組の九条選手が獲物を奪うという一幕もありましたが、また宍倉選手が奪い返し同チームでのペアでゴールに向かっていますね』
『はい、いきなり宍倉選手から獲物の河合選手を奪って行ったのには驚きましたが、あれはポイントよりも河合選手を捕まえたいと言う欲望が勝まさったのでしょうか』
『そうですね。確かに河合選手のワンココスは破壊力がありますから、本能が勝っても仕方がないのかも知れません』
『ですが、これはチームの勝利が掛かった大事な最終レースですからね。私情は挟むのは良くありません』
『まあまあ、彼等も本能と日々闘う高校生男子ですからね。そこは大目に見ましょうよ椛島さん』
『こほん、失礼。私も少々私情が入ってしまったようです。では改めてレースに目を向けましょう。
後続のペアもスパートを掛けていますが、宍倉、九条ペアとはその差が30mはありますね。猿渡さん、これはもうこの二つのペアの争いと見て良いでしょう』
『そうですね椛島さん。さあ一着でゴールテープを切るのは果たしてどちらのペアなのか!』
『因みに、一着のペアにはハントのポイントに加えて更に100ポイントが加算されます!』
『おや、そんなルールもあったんですね』
『はい。何しろ急な変更でしたので通達の不備が色々とあったようで申し訳ないと、実行委員会から謝罪の言葉を頂いております』
『いやいや。この盛り上がりですから多少の事には目を瞑るべきですよ!はあ~、それにしても獲物達の愛らしいこと』
『本当に尊いですね…!』
『私情ただ漏れですね!さあ、野太い声援が巻き起こる会場をハンターと獲物達が駆け抜けて行きます!勝利をその手に治めるのは宍倉ペアか、それとも九条ペアなのか!』
あいにくゴールはもう目の前だ。
俺の腕の中にすっぽり収まったこの温かくて小さな生き物を大事に抱え直し、ハイテンションなアナウンスが聞こえる中、最後のスパートをかけた。
どんなお願いでも聞くだとか、マジで何を言い出していやがるんだ!
まあ、お陰で九条の手が緩みムク犬を奪還する事が出来たわけだが、本っ当にコイツは目が離せねえ。
小さなムク犬の体を姫抱きにしたまま、ゴールまで駆け出して行く。チラッと九条を見遣るとさっき置いてきたB組の獲物に捕まっていた。
…どっちがハンターか分かんねえな。
「…し、宍倉くん…」
腕の中のムク犬が戸惑った声で俺を呼んだ。
やっと取り戻せた大事な温もりを大切に抱え直し、俺は前を向く。
「河合、このまま行くよっ!」
その呼びかけにムク犬は俺の首に手を回し、キュッと抱き付いてきた。久し振りに感じるムク犬の柔らかい髪と甘い香り。
この獲物は俺だけの獲物だ!
『白熱したレースも終盤を迎えようとしています!現在トップを走るのはA組の宍倉、河合のペア。それをB組の九条ペアが追いかける展開です!』
『途中、A組の宍倉選手からB組の九条選手が獲物を奪うという一幕もありましたが、また宍倉選手が奪い返し同チームでのペアでゴールに向かっていますね』
『はい、いきなり宍倉選手から獲物の河合選手を奪って行ったのには驚きましたが、あれはポイントよりも河合選手を捕まえたいと言う欲望が勝まさったのでしょうか』
『そうですね。確かに河合選手のワンココスは破壊力がありますから、本能が勝っても仕方がないのかも知れません』
『ですが、これはチームの勝利が掛かった大事な最終レースですからね。私情は挟むのは良くありません』
『まあまあ、彼等も本能と日々闘う高校生男子ですからね。そこは大目に見ましょうよ椛島さん』
『こほん、失礼。私も少々私情が入ってしまったようです。では改めてレースに目を向けましょう。
後続のペアもスパートを掛けていますが、宍倉、九条ペアとはその差が30mはありますね。猿渡さん、これはもうこの二つのペアの争いと見て良いでしょう』
『そうですね椛島さん。さあ一着でゴールテープを切るのは果たしてどちらのペアなのか!』
『因みに、一着のペアにはハントのポイントに加えて更に100ポイントが加算されます!』
『おや、そんなルールもあったんですね』
『はい。何しろ急な変更でしたので通達の不備が色々とあったようで申し訳ないと、実行委員会から謝罪の言葉を頂いております』
『いやいや。この盛り上がりですから多少の事には目を瞑るべきですよ!はあ~、それにしても獲物達の愛らしいこと』
『本当に尊いですね…!』
『私情ただ漏れですね!さあ、野太い声援が巻き起こる会場をハンターと獲物達が駆け抜けて行きます!勝利をその手に治めるのは宍倉ペアか、それとも九条ペアなのか!』
あいにくゴールはもう目の前だ。
俺の腕の中にすっぽり収まったこの温かくて小さな生き物を大事に抱え直し、ハイテンションなアナウンスが聞こえる中、最後のスパートをかけた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
嫌がらせされているバスケ部青年がお漏らししちゃう話
こじらせた処女
BL
バスケ部に入部した嶋朝陽は、入部早々嫌がらせを受けていた。無視を決め込むも、どんどんそれは過激なものになり、彼の心は疲弊していった。
ある日、トイレで主犯格と思しき人と鉢合わせてしまう。精神的に参っていた朝陽はやめてくれと言うが、証拠がないのに一方的に犯人扱いされた、とさらに目をつけられてしまい、トイレを済ませることができないまま外周が始まってしまい…?
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる