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三冊目
よんじゅうろくてんご•たいが
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「それにしてもさっきのレース!3人とも本っ当にスゴかったねぇ!」
腹が満たされて人心地ついた俺達は、デザートを味わいながらゆっくりと昼休憩を過ごす事にした。
すると当然、話題はさっきの激闘のレースの事になる。
「最後の最後まで誰が勝つかわかんなくって、僕もう息が止まりそうだったよっ」
興奮気味に話すムク犬の可愛らしさに場が和む。
「あ~あ、手加減なんてしなかったのに同着なんて、陸上部の面目丸つぶれだよ~」
台詞とは裏腹に熊谷にはちっとも悔しがった様子はない。
「俺もあれだけマジになったのは、中学の全国大会のとき以来だな」
九条も何処かスッキリした顔でそう言った。
確かにあれだけ必死になったのはいつ振りだろう。九条も熊谷も体育会系らしい潔さなのかあっさりとしていた。…ムク犬の事で不機嫌になっていた俺が何だか小さい奴のようだ。
「あ…ふぅ」
欠伸をしたムク犬が眠そうに目を擦っていた。
「眠いのか?ムク」
「んん~、だいじょう…ぶ…あふぅ」
そう言いながらも頭がユラユラしている。
「むっくん、早起きして頑張ってくれたんでしょ~。起こしてあげるから少し寝なよ~」
「んんー、…う、…ん…」
返事と共にコテンと横になったかと思えば、すぐにくぅくぅと寝息が聞こえてきた。ムク犬の子供のような寝付きの良さに3人から笑いが漏れた。
眠りに就いたムク犬を眺めながらお茶を飲む俺と九条と熊谷。暫く続いたこの場の沈黙を熊谷が発したひと言が崩す。
「ね~。王子とぉ九条はぁむっくんの事が好きなんだよねぇ~」
「好きだぜ?熊谷だって好きだろ。ってか、ムク犬を嫌いな奴の方が珍しいだろ」
いきなりの質問に返事に躊躇う俺の横で九条があっさりと答えた。
「ん~、そうじゃなくってぇ。九条と王子はぁlikeじゃなくてloveでしょ~?」
「そうだよ。俺は恋愛感情で、ムクの事が大好きだよ」
ムク犬の寝顔を優しげに見つめながら、九条はあっさりと言い切った。
「そう言うお前は違うのか?熊谷」
九条が熊谷に問い返す。
「ん~、俺もむっくんは大好きだよ。むっくんといると優しい気持ちになれるし楽しいし~。
でもそれがloveなのかlikeなのか、自分でもまだよく分かんないんだよね~」
少し前の俺同様、熊谷もムク犬に対しての感情がただの庇護欲なのか、恋愛感情から来る物なのか、判別しかねてるのか…?
「ただむっくんが大事な子だって事は変わんないから、興味本位なだけの奴はむっくんに近づけたくないんだよねぇ~」
そう言って熊谷は、笑みを消して俺の方へ目を向けて。
「宍倉は、椋をどう思ってる?」
いつもの温い笑顔と喋り方を引っ込めた熊谷は真剣な眼差しでそう聞いて来た。
「…きっかけは正直、興味本位だった。…だが今は俺も真剣だ。本気でムク犬が…椋が大好きだ!」
「…そう。分かった~」
熊谷はそう呟いて、いつもの緩い笑みを浮かべた。
「ふたりの気持ちは分かったけど~、むっくんはまだまだお子様だからね~。ふたりとも苦労するだろうね~?」
愉し気にケタケタ笑いながら熊谷は席を立った。
「じゃあ、俺はもう行くね~。むっくんが起きたらご馳走様って伝えておいて~」
この場を何とも言えない空気にしておいてさっさと居なくなる熊谷。
残された俺と九条は、すぴすぴと言うムク犬の寝息を聞きながら、残りの休憩時間を過ごしたのだったーー。
腹が満たされて人心地ついた俺達は、デザートを味わいながらゆっくりと昼休憩を過ごす事にした。
すると当然、話題はさっきの激闘のレースの事になる。
「最後の最後まで誰が勝つかわかんなくって、僕もう息が止まりそうだったよっ」
興奮気味に話すムク犬の可愛らしさに場が和む。
「あ~あ、手加減なんてしなかったのに同着なんて、陸上部の面目丸つぶれだよ~」
台詞とは裏腹に熊谷にはちっとも悔しがった様子はない。
「俺もあれだけマジになったのは、中学の全国大会のとき以来だな」
九条も何処かスッキリした顔でそう言った。
確かにあれだけ必死になったのはいつ振りだろう。九条も熊谷も体育会系らしい潔さなのかあっさりとしていた。…ムク犬の事で不機嫌になっていた俺が何だか小さい奴のようだ。
「あ…ふぅ」
欠伸をしたムク犬が眠そうに目を擦っていた。
「眠いのか?ムク」
「んん~、だいじょう…ぶ…あふぅ」
そう言いながらも頭がユラユラしている。
「むっくん、早起きして頑張ってくれたんでしょ~。起こしてあげるから少し寝なよ~」
「んんー、…う、…ん…」
返事と共にコテンと横になったかと思えば、すぐにくぅくぅと寝息が聞こえてきた。ムク犬の子供のような寝付きの良さに3人から笑いが漏れた。
眠りに就いたムク犬を眺めながらお茶を飲む俺と九条と熊谷。暫く続いたこの場の沈黙を熊谷が発したひと言が崩す。
「ね~。王子とぉ九条はぁむっくんの事が好きなんだよねぇ~」
「好きだぜ?熊谷だって好きだろ。ってか、ムク犬を嫌いな奴の方が珍しいだろ」
いきなりの質問に返事に躊躇う俺の横で九条があっさりと答えた。
「ん~、そうじゃなくってぇ。九条と王子はぁlikeじゃなくてloveでしょ~?」
「そうだよ。俺は恋愛感情で、ムクの事が大好きだよ」
ムク犬の寝顔を優しげに見つめながら、九条はあっさりと言い切った。
「そう言うお前は違うのか?熊谷」
九条が熊谷に問い返す。
「ん~、俺もむっくんは大好きだよ。むっくんといると優しい気持ちになれるし楽しいし~。
でもそれがloveなのかlikeなのか、自分でもまだよく分かんないんだよね~」
少し前の俺同様、熊谷もムク犬に対しての感情がただの庇護欲なのか、恋愛感情から来る物なのか、判別しかねてるのか…?
「ただむっくんが大事な子だって事は変わんないから、興味本位なだけの奴はむっくんに近づけたくないんだよねぇ~」
そう言って熊谷は、笑みを消して俺の方へ目を向けて。
「宍倉は、椋をどう思ってる?」
いつもの温い笑顔と喋り方を引っ込めた熊谷は真剣な眼差しでそう聞いて来た。
「…きっかけは正直、興味本位だった。…だが今は俺も真剣だ。本気でムク犬が…椋が大好きだ!」
「…そう。分かった~」
熊谷はそう呟いて、いつもの緩い笑みを浮かべた。
「ふたりの気持ちは分かったけど~、むっくんはまだまだお子様だからね~。ふたりとも苦労するだろうね~?」
愉し気にケタケタ笑いながら熊谷は席を立った。
「じゃあ、俺はもう行くね~。むっくんが起きたらご馳走様って伝えておいて~」
この場を何とも言えない空気にしておいてさっさと居なくなる熊谷。
残された俺と九条は、すぴすぴと言うムク犬の寝息を聞きながら、残りの休憩時間を過ごしたのだったーー。
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