ムク犬の観察日記

ばたかっぷ

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三冊目

にじゅうに•たいが

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ビュッフェの話に、調理部の奴らが食い付いてきてくれたおかげで、俺はチケットを餌に料理を試食する権利を手に入れた。ルール違反にはならないらしいし、ムク犬との接点が増える上、旨い飯が食えるんだ。一石二鳥。

俺を警戒していたちびっこ達も、ビュッフェチケット効果で、さっきまでの警戒心が嘘みたいに、一様にキラキラした目で見上げて来ながら、質問を投げ掛けてくる。

……なんだか雛に餌をねだられる親鳥の気分だ。もしくは、保育園の保父さん的気分。

ちびっこ達を連れて、ビュッフェに行くことになったら、確実に引率者ポジションだな。
でもまあ、しっかり者の母親的ポジションの卯月がいるから大丈夫だろう。そんな事を思いながら、雛鳥達のさえずりを聞いてると、いきなり調理室の外の方から声がした。


「え~、それってルール違反じゃないの~?ずるくなぁい?」


突然聞こえてきた声に、調理室にいた全員が、声のした方を向く。すると、さっき俺が廊下から様子を伺っていた場所に、一人の男が窓枠に凭れかかりながら、部屋を覗きこんでいた。

ウェーブのかかった少し長めの明るい茶色の髪、垂れた目の下にある泣きボクロが目を引く、形の良い唇は楽しげに微笑んでいるが、笑っているわけではなさそうだ。


「むっくん~、そいつバスケ部の奴でしょ~。そんなえこ贔屓していいの~?」

「お前には関係ない。何をしに来た、熊谷」


いきなり現れた男を卯月が熊谷と呼んだ。…こいつが熊谷充くまがいみつるか。

陸上部の花形スプリンター、掴みどころのない性格で人を食ったような態度だが、不思議と反感を持たれない。そんな奴だと鷹取から聞いてたが、確かにそんな感じだな。


「だあってぇ、賄賂渡して取り入るなんてズルくなぁい?」

「わっ、賄賂なんかじゃないよっ!宍倉くんは厚意で言ってくれただけだもん!そんな風に言うなんて、ミツくんひどいよっ」


必死になって俺を弁護する、ムク犬の姿に愛を感じるが、コイツも“ミツくん”呼びか…。


「そーだよっ!ミツ先輩!この人、凄くいい人だぞっ!」

「…ミツ先輩…帰って…」

「熊谷くんこそ、またご飯強請りに来たんでしょう?いい加減にしないと、生徒会に報告しちゃうよー?」


おおっ!ちびっこ達が俺を庇って、一斉に熊谷を責め立ててる。


「え~、俺が悪者ぉ?も~、すっかり餌付けされちゃって駄目じゃなぁい」

「人を動物扱いするな。それ以上余計な事を喋るなら、ガスバーナーでその口を焼き上げてやるぞ」

「りっくん、怖~いっ」

「先輩に向かってりっくん言うな!」


卯月の殺気を、熊谷はケラケラ笑ってやり過ごしている。


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