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二章
#43 ある優しい妖精の物語6
しおりを挟む《カレンス王国》領の外れにある長閑かな自然が周辺を囲み、豊かで静かな小さな村。名を《ダレス村》という。その村の外れには、とても美しい色鮮やかな花達が咲き誇り、妖精が多く住むと言われている《聖域》と呼ばれる場所がある。
その《聖域》には、清い心を持つ者のみが訪れる事を許され、悪しき者が訪れようとすると不思議と辿り着く事は出来ずに森をさ迷う事になると言われている。
その《聖域》に訪れた者は皆一様に、余りの美しさと妖精が舞うその地の神聖さに膝を折り、祈りを捧げてしまうという。
旅の途中に訪れた貴族のご令嬢からそのお伽話の様な噂が広まり、今では《聖域》を一目見ようと連日観光客が押し掛け一躍有名な観光地となっていた。その《聖域》がある森には、かつてこの村に住んでいたあるハンターの名前が付けられている。そして、家族と共に《聖域》内に墓標が建てられ、今でも静かに森を見守っていると言われている。
その森の名は......
「もう行っちゃうんだね......本当にありがとう。皆がいなかったら、きっとクルト達......ううん、私の家族達は悲しい結末を迎えていたと思うの。だから、本当にありがとう。私は、っと、私達は、ね。絶対に三人の事忘れないからね。いつでも遊びに来てよ! 待って、るっがらっ!」
「なか、泣かないっで言っだのにっ!! うわぁーん!!」
別れを惜しみ、仲良くわんわんと泣き喚くフィルムとマリーを少し離れて見守っていたリエメルが優しく引き剥がす。
数日を共に過ごした事でお互い妙に仲良くなってしまったらしい......。
マリー達がこの《ダレス村》の森にある《魔力溜まり》を浄化し、フィルム一家を天の国へと送り出した後、その地はやはり妖精達が生まれる神聖な場所、《聖域》へと昇華してしまった。そこで、先にこの地に生まれていた妖精フィルムを代表としてこの地を守っていくと宣言した。
マリー達一行は、村へと戻り村の村長を含む代表者数名を連れて再び《聖域》へと戻り、今までのクルトの事と妖精の事を説明した。村長達は話を聞くと、その場で泣き崩れクルトの事を想い涙を流した。
その際に、村長達の提案で《フィルム家》の墓標をこの《聖域》へと移そうと進言される。すると、妖精の代表者であるフィルムはこれを快く了承し、妖精達は見えるらしいが声は聞こえないとの事なのでマリーが変わりに声を伝えた。
そうして、村人達が総出でクルトの葬儀をこの《聖域》にて執り行う運びとなった。クルトに謝罪をする者、クルトに礼を述べる者、皆一様に涙を流してクルトを称えた。後に、司祭同伴の元に《フィルム家》の遺骨が《聖域》へと運ばれ、リエメルが魔法にて墓標を作り、フィルムがその墓標に祈りを籠める。すると、その墓標の周囲には色鮮やかな花達が一斉に咲き誇り、見るも美しい場所へと変化した。
その後は、妖精達を交え村人達が故人を偲ぶ小さな祭を催した。その際、村に滞在中の旅人も交え盛大に騒ぎ楽しんだ。
マリーも大はしゃぎでフィルムと共に妖精達と舞い踊り、笑顔で《フィルム家》を送り届けた。リエメルは《聖域》周辺を調査し、リードは村人と共に酒を交わす。
そして、《フィルム家》が天の国へと旅立った後から数日、マリー達一行もまた旅立つ運びとなり今に至る。
「うぅ、絶対にまた来ますから! その時までお元気で、フィルムさん!」
「ぐすっ、うん! ずっとずっと、私がこの場所を守っていくよ! 私に《フィルム》の名前をくれたクルトの分まで、今度は私が皆とこの《クルトの森》を守っていくからっ! それに、今はこんなに沢山の仲間が居るんだもん、全然っ寂しくないよ! 私達皆で待ってる! いつでも、いつまでも待ってるから! だから......気を付けて行ってらっしゃい!!」
「うぅ、ぐすっ。......はい! 行ってきます! また絶対に戻ってきますから、だから......お元気でっ!」
沢山の妖精と小さな《友達》に後ろ髪を引かれつつも別れを告げ、マリー達一行は再び自身達の旅路に着く。
《魔法都市グラメル》はまだまだ遠く、マリーは暫く馬車の中でリエメルの膝を涙で濡らすのだった。そうして、再び一行を乗せた馬車はゆっくりと進み行く。
その馬車の中で今だ泣き続けるマリーの頭を撫でつつも、リエメルが優しく声を掛ける。
「お疲れ様でしたマリーさん。再び《魔力溜まり》を浄化し、《聖域》へと昇華させてしまうとは。その奇跡に立ち会えた事を幸せに思います」
「そうだね。神々の戦闘の傷痕とも呼べる《魔力溜まり》を浄化する事が出来るのは、この世界を見渡してもマリーちゃんだけだろうね」
「......ぐすっ。っその事で、お二人にお話かあります。宜しいでしょうか?」
リエメルの膝から涙を拭い起き上がったマリーは、しっかりと決意の籠った瞳で語り出す。
「王都で起こった《魔物集団暴走》といい、今回のダレス村の件といい、全ての原因は《魔物溜まり》にあると言えます。そして、それを浄化する事が出来るのは恐らく私だけ。ならば、私は出来る限りこの世界から《魔物溜まり》を浄化して、少しでも悲しみを減らしていきたいと思いました。それはきっと途方もない事だとは思います。しかし、絶対に放ってはおきたくないのです! お願いします。どうかこの私に力を貸して頂きたいのです。勿論、主神様より賜る神託が最優先です。それでも......」
「ええ、勿論ですマリーさん」
「うん。僕も賛成するよ」
突然、自身の言葉を遮り二人が了承の意を示した事にマリーは少し狼狽える。
「あ、え? ほ、本当に......宜しいのですか? 私の我が儘ですよ? それに、もしかしたら迷惑を掛けてしまうかも」
「それでも、だよ。それでも構わないよ。だって、僕の役目はマリーちゃんを守る事だから。僕の行く先は常に君の進む道だ。大丈夫、絶対に守ってみせるから。だから、マリーちゃんは安心して進むといい。どんな道だろうと着いていく。そして君を守り抜いてみせるから。だから安心してね」
「私もリードちゃんに同意します。マリーさんは常に私の知識欲を満たしてくれます。私の知識欲をここまで刺激してくれる人はこの世にはおりません。なので、もっともっと私を楽しませて下さい。貴女の身の安全はこの《叡智の書庫》こと、《大賢者リエメル·ヴァンドライド》と《勇者リード·カレンス》が保証します。なので、マリーさんが信じる事を成して下さい。何処までもお供致します」
二人の真っ直ぐな返答を聞き、再びマリーの表情はくしゃりと歪み、リエメルの胸へと飛び込み泣き始める。
リードはその光景をちらりと見やり、笑顔で手綱を握り直す。リエメルは再び優しくマリーの頭を撫でてやる。
そうして、喜びの泣き声を響かせ馬車はゆっくりと進んでゆく。一路《魔法都市グラメル》を目指し、ゆっくりと進んでゆく......。
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