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二章
#42 ある優しい妖精の物語5
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「......っく、ひっく......ぅう、馬鹿、馬鹿だよ。何でもっと......早く、森を出なかっだのよ......」
「......お願いがあります。私達をその魔力の溜まる場所に連れて行って下さい。どうか、私達の道案内をお願いします」
「ぐずっ......何を、ずる気なの? どうにか、っ出来るの?」
「します。必ずどうにかしてみせます。このままにしてはおけません。どうかお願いします」
「うん......うん。どうにか、して。どうにかしてあげてよ。お願い、連れて行くからどうにかしてっ!」
マリーは力強く頷き、妖精と共に《魔力溜まり》へと全員で歩いてゆく。
全ての悲劇の元凶へと、確たる自身の心と共に一歩一歩しっかりと歩いてゆく。
......そして、目的の場所へと辿り着く。
「ここが全ての元凶。世界に多数ある《魔力溜まり》の一つ......。これがあるから、悲しみが増えて命が沢山消えていく」
「うん......うん。お願い、どうにか、して。救ってあげてよ......。このままじゃ、悲し過ぎるよっ」
「消してみせます。せめてこれから先が平和である様に。せめてあの方達の魂が安らかに眠れる様に」
マリーは一人歩み出て、目の前で禍々しく渦巻く《魔力溜まり》へと近付いてゆく。悲劇しか起こさぬその神々の傷痕を真っ直ぐに見据えて手を伸ばす。
そして、主神へと祈りを捧げ先程の老人の最後を思い出す。
ーーまた《魔力溜まり》のせいで悲しむ人々が増えてしまいました。主神様、どうか私にこの悲しみを払う力をお授け下さい。これでは余りにも悲し過ぎます。悲しみに満ちた魂に安らぎと救いの手を差し伸べて下さいーー。
マリーは一筋の涙を流し《魔力溜まり》を主神の力を再び借り受け浄化してゆく。少しづつ禍々しい気配は薄れ、神々しい光が満ちてゆく。
その優しい光が悲劇を癒してゆく様に見えて、マリーはその光の元に膝を折る。
「主神様の許可の元、私マリーが閲覧を申請します。《名も無き英霊の書》よ、応えて下さい。悲しき魂に、安らぎと救いを授ける為に」
マリーが言葉を紡ぐとその背には金色に光る大きな《書物》が表れる。その余りにも神々しい輝きに、リエメルは自然とその場に膝を折り、リードは自身の胸へと右手を当てる。それを見ていた妖精は涙を流し見守っていた。
「お願いします。悲しき魂よ、私の呼び掛けに応えて下さい。貴方は許されていいのです。貴方は家族と共に居るべきです。......さぁ、いらして下さい《クルト·フィルム》さん」
「っ......ああ、お爺さん! お爺さん!!」
「ここは......? 何故ここに? 私は確か......」
家族の墓標の前で先程亡くなった誰にも知られぬ《英雄》、クルト·フィルムが本の中からゆっくりと出て来た。
七十代後半だったその容姿は、今は三十代前半となって現れたクルトは、周囲を見渡し漸く自身に起こっている事象を知る。そして優しく笑い瞳を閉じる。
「何と言う事だ......。私を看取ってくれたのは......神の御使い様であったのか。貴女の声が聞こえて来てみれば、まさかこんな事が起ころうとはな」
「お爺さん、お爺さん!!」
「我が友よ。再び#謁__まみ__える#事が出来ようとはな」
「うんっ、うん!!」
「しかし、今度こそお別れだ」
え。と、妖精は小さく声を漏らし瞳一杯に涙を溜めて叫ぶ。
「どうして、どうしてそんな事言うのよ!? また一緒に居られるのよ!? どうしてお別れなの!?」
「それはな、そこに居られる天の御使い様が示してくれておるよ。ほれ、紹介しよう。我が妻と息子だ」
いつの間にかクルトの両隣には寄り添う二人の姿があった。二人は深々と妖精へと頭を下げ笑顔を向ける。
「私の家族だ。そして君もな、我が友よ。私達はまた旅立つ身だが、最後に君に贈りたいものがある」
「......いや、いやだよ。最後なんて......嫌だよっ!!」
「今までありがとう。君が居たから私は生き長らえて来れた。君に会えて、話せて本当に幸せだった。そして、どうか泣かないでくれ。笑顔を見せてはくれないか」
「無理だよ、笑えない! 笑えないよっ! お友達でしょ!? 初めてのお友達なのっ!! 行かないでよ......!」
「友よ......。惜しんでくれてありがとう。しかしな、私の夢は今叶った。長年夢見続けてきた事が今叶ったんだ。祝福をしておくれ」
悲しそうなクルトの顔を見て、妖精は初めて悟る。きっともう時間がないという事に。だから、最後に精一杯の強がりをして送り出してやろうと心に決める。必死に胸を締め付ける痛みに絶えて、精一杯の笑顔を向ける。
「っ、ぅぅ......っ! 分か、った、よ。......ごめん、ね、我が儘言って。良かったね、お爺さん」
「ありがとう。......友よ、名の無い君へと私達の《フィルム》の名を贈りたい。どうか受け取ってはくれまいか? 友であり私達の家族となっておくれ」
クルトの贈り物の意味を妖精はしっかりと理解した。《フィルム》家は既に途絶えた。しかし、残る友へとせめて自身の名を残し、繋がりを形として保つ為に譲ると言っているのだと。だから、涙を溢さぬ様に必死に笑う。
「《フィルム》......フィルム。うん、いい名前。とても、っ気に入ったわ。今日から、っ私はフィルムと名乗るよ。そしてっ......クルト達の家族になるよ。ありがとう、クルト、エリン、バリー」
涙を止める事はやはり出来ず大粒の涙を流しながらも、精一杯の笑顔を佇む三人へと送り一生懸命に強がってみせる。
「だからさっ、クルトはさ、幸せに暮らしなよ! 天の国でさ、皆と幸せに暮らしなよっ! 私は大丈夫、だって......クルト達の家族だから、っ寂しく、っないよっ!!」
「......ありがとうフィルム。我が友フィルム。我が家族フィルム。君を見守っている。君を愛している。だから、ゆっくりとこっちにおいで。決して置いてはいかない。待っているよ」
「うん、うんっ!! その時までっ、お別れだねっ!! たがらっ、元気でねっ、私の愛する家族達っ!!」
その言葉を最後にクルト達の姿が消え始める。そして、今まで見守っていたマリーへと向き直り、深く深く頭を下げる。
マリーは優しく微笑み、小さく頷き家族を見送る。妖精も小さな身体一杯に元気に手を振り続ける。
そして、光と成って天へと消える。
「ひぐっ、もう、我慢、しなくていい、よね? 泣いて、っもいいよ、ね?」
クルト達の姿が完全に消えた時、妖精は涙をぽろぽろと溢し小さな顔も徐々に悲しみに歪んでゆく。マリーが妖精に大きく頷きを返すも、その顔も既に涙に濡れていた。
そして、その場にはどちらともなく二人の大きな泣き声が響き渡る。
崩れ落ちる様に地に落ちてひたすらに泣き叫ぶ優しく小さな妖精と、最後まで堪えた涙が決壊し、わんわんと大声で泣き叫ぶマリー。二人をリエメルが優しく介抱し、リードは夜空を見上げ祈りを捧げる。
優しい鳴き声は止まることなく暫く夜の森へと響き渡り、空が白み始めるまで二人は泣き続けるのであった......。
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