41 / 43
二章
#41 ある優しい妖精の物語4
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇◆
ーー儂はな、元々この村でハンター業を生業として暮らしておったんじゃ。嫁のエリンと息子のバリーと共にな。見ての通り、あの村にゃ何もありゃしねぇ。けどな、それで良かったんじゃ。ただ静かで平和で、それだけでよかったんじゃよーー。
「おとーさん! 気を付けてね!」
「いってらっしゃい貴方。はいお弁当。......気を付けてね」
ーー《あの日》の朝、儂はいつも通りに息子と嫁に見送られて村を出た。そして、魔物を狩るために通い馴れた森へと入ったんじゃ。しかし、少し森に入った頃じゃ、森の様子が少しおかしい事に儂は気が付いたーー。
「ん......? 妙だな。静か過ぎる。......偶然か、何かが起こっているのか。用心に越した事はないな」
ーーその時じゃった。其奴は唐突に表れたーー。
「っ!? な、なんだこいつは! 一体何処から......いや、それよりも今はこいつを!」
「グルルルル......」
ーーそれは、ゴブリンと呼ぶには様子がおかしく、通常緑色の外皮は赤く赤熱し熱を放ち、筋肉すら膨脹して既にゴブリンとも呼べんものになっておった。長年この土地でハンターをしてきた儂じゃが、あのゴブリンは初めてじゃった。そして、其奴を逃がすと不味いと判断した儂は、その場で仕止める事を選んだーー。
「ぬおおおおお!!」
「ギイィィィ!!」
ーー兎に角強かった。身体は限界を迎え、片腕は折れ、満身創痍で必死に戦った。そしてーー。
「はぁっ、はぁっ、ゲホッ!! っくそ! 何なんだお前は、畜生が!」
「ギ......ギギ」
「流石、にっ、もう立てん、だろうがっ! くそっ!」
ーーどれ程の時間戦っていたのか、朝の内に森に入った筈が、既に陽は傾き掛けていてな。それでも、妙な胸騒ぎがして儂は村へと急ぎ引き返したんじゃ。しかし、満身創痍の身で思ったよりも時間が掛かった。そして、陽が落ちた村へとたどり着いた儂が見たものはーー。
「お、おおお......何だ、何だこれは。一体何が起こっている!!」
ーー何者かに襲撃を受け、煙を上げ悲鳴が響く村が飛び込んできた。何が起こっているのかは理解出来んがただ急いだ。急いで家族の待つ家へと向かったんじゃ。そこで家族と会った。会えたんじゃーー。
「お......おおおお!!!! 貴様等ああああ!!!! 何を、何をしてやがる!!」
「ギギッ、グギッ」
「放せ!! 今すぐ息子の腕をその口から放せえええぇぇぇ!!!!」
「グギャッ!? ......ギッ」
「死ねっ! 死ねっ! 死ねえええぇぇぇ!!」
「......ギ」
「はぁっ、はぁっ......バリー、バリー!! 嘘だっ、嘘だと言ってくれっ! はぁっ、はぁっ、はっ、エリン......? エリン、エリン! エリーン!! どこだ! どこにいる!?」
ーー変わり果てた息子を置いて、儂は妻を探したんじゃ。そして見つけた。見つけてしまったんじゃーー。
「あな......た。逃げ、て。うっ、あ」
「ギギ......ギギッ......ギッ?」
「ギギ! ギイイイイイ!!」
「エリ、ン? 貴様......貴様等っ!! 貴様等ああああぁぁぁ!!!!」
妻は両肩に太い木の枝を刺され、身動きを封じられゴブリン共に弄れておった......。それを見た儂は、怒りに我を忘れひたすらにゴブリン共をぶち殺した。そして、何も居なくなった部屋には、儂と妻しか居なくなった。両肩を木の枝で刺され......喉にも木の枝を刺された、血を吹く妻がーー。
「うっあ、ああああ!!!! ああああ!! エリン、エリン!! 頼む、死なないでくれ! エリン!!」
「ゴボッ......はっ、はっ、あな......ゴホッゴボッ」
「いい、喋るな! 喋るんじゃない!! 誰か、誰でもいい!! 助けてくれ、助けてくれ!!」
「きい、て......殺して、っゴボッ、っ、苦し、い、のっ。ゴフッ、ゴホッ......バ、リーをっ、守れなゴホッ」
「いい、いいんだ! いいから......済まなかった、守れなかった! 守ってやれなかった!! だから、だからっ!!」
「ね......も、楽にゴフッゴフッ、してっ。おねが、コブッガフッ!」
「駄目だ、駄目だ、諦めるな、頼むから......諦めるな!! ......くそっ、誰かーっ!! 頼む、っ、助けてくれよ......助けてくれよおっ!! うおああああああああ!!!!」
ーー儂はただひたすら泣き叫び、妻が既に事切れている事にすら気が付かなかったんじゃ......。どれ程の時間が立ったのか、村には静けさが戻っておって、儂は血塗れになった部屋で他のハンター達に発見されたよ。冷たくなった妻を抱き締めたままな。......そこからじゃ、儂は森へと移り住み、ひたすらに森の魔物を殺して殺して殺し尽くす日々を始めたのは。恨んだ、呪った、ひたすらに殺した。自身の無力を隠す様に、死に場所を探す様に毎日毎日殺したんじゃーー。
「くたばれえええぇぇぇ!!」
「ギッ!? ......ギギャッ!?」
「ギギャッ! ギギィィィ!?」
ーー当然、村の連中は心配して何度も儂の元を訪れた。しかし、その尽くを追い返し、儂は森に残り魔物を殺す日々を選んだ。......そうして、いつの頃か誰も訪れん様になった。そんな時、おっちょこちょいのお節介焼きな、小さな《友達》と出会ったんじゃーー。
「ねぇねぇ? 毎日毎日沢山魔物を殺してて楽しいの?」
「......」
「むっ、なんで無視するのよ!? 聞こえてるでしょ!? 絶対聞こえてる筈だっ! ねぇってば!!」
ーー毎日毎日飽きもせず、儂の元を訪れ喚いてな......いつしか、儂の小屋にまで居着く様になり、儂も気付けば話す様になっておったよ。......きっと救われたんじゃよ、その小さな《友達》になーー。
「ねぇ、そういえばまだ名前聞いて無いわよ? なんて言うの、お爺さん?」
「儂は儂じゃ。名は捨てた。爺でも何でも好きな様に呼ぶといい」
「何よそれ! ま、私も名前なんて無いんだけどね。いいじゃん、お互い名無しで! お揃いね私達!」
ーーその屈託のない笑顔に救われておった。あの日守れなかった、大切な家族を重ね合わせて救われておったんじゃ......。ありがとう、我が小さな《友達》よ。そんなお主に、儂の名を聞いて欲しいんじゃ。愚かで弱い、この儂の名を、どうしても......っ! ゴホッ、ゴボッ!! ゴフッ......、はっ、はっ、よく、聞いてくれ、儂の、儂の名はっーー!
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる