いつか世界が眠るまで

紫煙

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二章

#41 ある優しい妖精の物語4

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◆◇◆◇◆◇◆




 ーー儂はな、元々この村でハンター業を生業として暮らしておったんじゃ。嫁のエリンと息子のバリーと共にな。見ての通り、あの村にゃ何もありゃしねぇ。けどな、それで良かったんじゃ。ただ静かで平和で、それだけでよかったんじゃよーー。


「おとーさん! 気を付けてね!」

「いってらっしゃい貴方。はいお弁当。......気を付けてね」


 ーー《あの日》の朝、儂はいつも通りに息子と嫁に見送られて村を出た。そして、魔物を狩るために通い馴れた森へと入ったんじゃ。しかし、少し森に入った頃じゃ、森の様子が少しおかしい事に儂は気が付いたーー。


「ん......? 妙だな。静か過ぎる。......偶然か、何かが起こっているのか。用心に越した事はないな」


 ーーその時じゃった。其奴は唐突に表れたーー。


「っ!? な、なんだこいつは! 一体何処から......いや、それよりも今はこいつを!」

「グルルルル......」


 ーーそれは、ゴブリンと呼ぶには様子がおかしく、通常緑色の外皮は赤く赤熱し熱を放ち、筋肉すら膨脹して既にゴブリンとも呼べんものになっておった。長年この土地でハンターをしてきた儂じゃが、あのゴブリンは初めてじゃった。そして、其奴を逃がすと不味いと判断した儂は、その場で仕止める事を選んだーー。


「ぬおおおおお!!」

「ギイィィィ!!」


 ーー兎に角強かった。身体は限界を迎え、片腕は折れ、満身創痍で必死に戦った。そしてーー。


「はぁっ、はぁっ、ゲホッ!! っくそ! 何なんだお前は、畜生が!」

「ギ......ギギ」

「流石、にっ、もう立てん、だろうがっ! くそっ!」


 ーーどれ程の時間戦っていたのか、朝の内に森に入った筈が、既に陽は傾き掛けていてな。それでも、妙な胸騒ぎがして儂は村へと急ぎ引き返したんじゃ。しかし、満身創痍の身で思ったよりも時間が掛かった。そして、陽が落ちた村へとたどり着いた儂が見たものはーー。


「お、おおお......何だ、何だこれは。一体何が起こっている!!」


 ーー何者かに襲撃を受け、煙を上げ悲鳴が響く村が飛び込んできた。何が起こっているのかは理解出来んがただ急いだ。急いで家族の待つ家へと向かったんじゃ。そこで家族と会った。会えたんじゃーー。


「お......おおおお!!!! 貴様等ああああ!!!! 何を、何をしてやがる!!」

「ギギッ、グギッ」

「放せ!! 今すぐ息子の腕をその口から放せえええぇぇぇ!!!!」

「グギャッ!? ......ギッ」

「死ねっ! 死ねっ! 死ねえええぇぇぇ!!」

「......ギ」

「はぁっ、はぁっ......バリー、バリー!! 嘘だっ、嘘だと言ってくれっ! はぁっ、はぁっ、はっ、エリン......? エリン、エリン! エリーン!! どこだ! どこにいる!?」


 ーー変わり果てた息子を置いて、儂は妻を探したんじゃ。そして見つけた。見つけてしまったんじゃーー。


「あな......た。逃げ、て。うっ、あ」

「ギギ......ギギッ......ギッ?」

「ギギ! ギイイイイイ!!」

「エリ、ン? 貴様......貴様等っ!! 貴様等ああああぁぁぁ!!!!」


 妻は両肩に太い木の枝を刺され、身動きを封じられゴブリン共にもてあそばれておった......。それを見た儂は、怒りに我を忘れひたすらにゴブリン共をぶち殺した。そして、何も居なくなった部屋には、儂と妻しか居なくなった。両肩を木の枝で刺され......喉にも木の枝を刺された、血を吹く妻がーー。


「うっあ、ああああ!!!! ああああ!! エリン、エリン!! 頼む、死なないでくれ! エリン!!」

「ゴボッ......はっ、はっ、あな......ゴホッゴボッ」

「いい、喋るな! 喋るんじゃない!! 誰か、誰でもいい!! 助けてくれ、助けてくれ!!」

「きい、て......殺して、っゴボッ、っ、苦し、い、のっ。ゴフッ、ゴホッ......バ、リーをっ、守れなゴホッ」

「いい、いいんだ! いいから......済まなかった、守れなかった! 守ってやれなかった!! だから、だからっ!!」

「ね......も、楽にゴフッゴフッ、してっ。おねが、コブッガフッ!」

「駄目だ、駄目だ、諦めるな、頼むから......諦めるな!! ......くそっ、誰かーっ!! 頼む、っ、助けてくれよ......助けてくれよおっ!! うおああああああああ!!!!」


 ーー儂はただひたすら泣き叫び、妻が既に事切れている事にすら気が付かなかったんじゃ......。どれ程の時間が立ったのか、村には静けさが戻っておって、儂は血塗れになった部屋で他のハンター達に発見されたよ。冷たくなった妻を抱き締めたままな。......そこからじゃ、儂は森へと移り住み、ひたすらに森の魔物を殺して殺して殺し尽くす日々を始めたのは。恨んだ、呪った、ひたすらに殺した。自身の無力を隠す様に、死に場所を探す様に毎日毎日殺したんじゃーー。


「くたばれえええぇぇぇ!!」

「ギッ!? ......ギギャッ!?」

「ギギャッ! ギギィィィ!?」


 ーー当然、村の連中は心配して何度も儂の元を訪れた。しかし、その尽くを追い返し、儂は森に残り魔物を殺す日々を選んだ。......そうして、いつの頃か誰も訪れん様になった。そんな時、おっちょこちょいのお節介焼きな、小さな《友達》と出会ったんじゃーー。


「ねぇねぇ? 毎日毎日沢山魔物を殺してて楽しいの?」

「......」

「むっ、なんで無視するのよ!? 聞こえてるでしょ!? 絶対聞こえてる筈だっ! ねぇってば!!」


 ーー毎日毎日飽きもせず、儂の元を訪れ喚いてな......いつしか、儂の小屋にまで居着く様になり、儂も気付けば話す様になっておったよ。......きっと救われたんじゃよ、その小さな《友達》になーー。


「ねぇ、そういえばまだ名前聞いて無いわよ? なんて言うの、お爺さん?」

「儂は儂じゃ。名は捨てた。爺でも何でも好きな様に呼ぶといい」

「何よそれ! ま、私も名前なんて無いんだけどね。いいじゃん、お互い名無しで! お揃いね私達!」


 ーーその屈託のない笑顔に救われておった。あの日守れなかった、大切な家族を重ね合わせて救われておったんじゃ......。ありがとう、我が小さな《友達》よ。そんなお主に、儂の名を聞いて欲しいんじゃ。愚かで弱い、この儂の名を、どうしても......っ! ゴホッ、ゴボッ!! ゴフッ......、はっ、はっ、よく、聞いてくれ、儂の、儂の名はっーー!




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