いつか世界が眠るまで

紫煙

文字の大きさ
上 下
30 / 43
一章

#30 ある不器用な騎士の物語25

しおりを挟む




◆◇◆◇◆◇◆




「ねぇ、お母さん! あの部屋に飾ってあるカッコいい鎧と大きな槍! あれは誰のなの?」

「......ラヴェル? あの部屋には入るな、と散々言い聞かせた筈よね? 誰が入って言いと許可したの?」

「た、たまたま開いてたんだよ! それでその、えぇと」

「開いてたから入った、と? 私は入るなと言ったの。分かる? 入、る、な、よ? 他の言い訳があるなら聞きます」

「え!? ちょ! ご、ごめんなさい! もう入りません! だから、だから!」

「謝るのが遅い」

「ぎゃー!!」


 ......ああ、懐かしい。これは確か、ラヴェルが初めて私の装備を飾っておいた部屋に入った時の記憶。


「母さん! 俺、将来は騎士団に入る! 絶対入る! 入って母さんや皆を守るんだ!」

「貴方に守られる程弱くありません。断固反対し絶対認めません。諦めなさい」

「早っ!? せめて理由くらい聞いてくれてもいいじゃないか! なんでダメなんだよ!?」

「ダメなものはダメです。そうね、どうしても騎士団に入るなら私を倒してみなさい。そうすれば認めてあげなくはないわよ?」

「無理だよ! 絶対無理! 勝てる筈無いじゃん!」

「じゃあ諦めなさい。貴方は騎士になんてならなくていいの。もっと別の事を探して、普通の生活を送りなさい」

「なんだよ! 母さんのバーカ!」

「ちょっと来い」

「ぎゃー!!!!」


 そうそう。この時は本気で怒ったわね。それに、薄々は感じていた。いずれラヴェルも騎士団に入り騎士に成りたい。と言い出す事を。けど、あの時の私は到底受け入れられなかった。あの人を亡くした悲しみを、もう二度と味わいたくはなかった。だから私は拒絶したんだったわね......。


「ふん! ふん!」

「飽きもせずによく毎日毎日木剣を振ってるわね? それで私に勝つ気でいるのかしら?」

「母ちゃんは関係ない! 俺はもう騎士になるって決めたんだ! だから、母ちゃんに反対されようがいつか絶対騎士になってやるんだ!」

「私にすら勝てないのに? そんなんじゃ魔物にやられてすぐ死んじゃうわよ? それでもいいの?」

「死なない為に頑張ってんだろ! それに、俺にはどうしても成りたい理由があるんだ! それだけは絶対曲げないからな!」

「生意気ね。いいわ、私が貴方の剣を見てあげる。さぁ、しっかりと振りなさい」

「いいって! あっちいっててよ! 邪魔するなよ!」

「やれ」

「......はい」


 そうそう。この位の時だったわね。急に私に反抗的になってきたのは。最初はいつ根を上げるか面白半分で付き合ってたのに、いつになっても弱音を吐かなかったっけ。......結局、どうしてもなりたい理由が何なのかは言わなかったのよね。


「見ろ! 見事合格したぞ! 俺だってやれば出来るんだ!」

「合格おめでとうラヴェル。これで一先ずは入口に立った訳ね。けど、調子に乗らない事。ここからが大事なんだからね」

「わかってるよ! けど、今日位は素直に喜んでくれてもいいじゃねーかよ!」

「はいはい。喜んでるわよ? だからこんなケーキを焼いて待っていた訳だけど」

「おお!? すげぇ! これ食っていいのか!? 食っていいんだよな!?」

「いいけど、先ずはお父さんに報告してきなさい? きっと喜んでくれるわよ」

「わかってるよ! 絶対食うなよ!?」


 そう、王立騎士養成学部に合格した時のラヴェルの顔ったら。本当に嬉しそうだったっけ。あの時の笑顔がきっと一番いい顔をしていたわね。そして、ここから先は緩やかにやる気を無くして不貞腐れて行くのよね......。さて、そろそろ起きなきゃ。懐かしい思い出も良いけれど、今の私にはやらなきゃいけない事があるから。


「もうその辺で良いだろう? お前はよく頑張った。そして、よく一人でラヴェルを育てあげた」


 ......ふざけないで。私の愛した人は絶対にそんな事を言わない。......お前は誰だ? その顔とその姿で言葉を口にするな。殺すぞ?


「......やれやれ。昔と何も変わらないな。少し試しただけだろう? そんなに怒るな、私は本当にお前の夫だよ。死にかけているお前の意思を聞きに来たんだ。本当に私だ、信用しろ」


 ......まさか、本当に? 本当にフォルクスなの?


「ああ、間違いなく私はフォルクス·ハルケイン本人だとも。こうして再び会えた事を幸せに思う。よく頑張ったな、ヴァレリア」


 ああ、ああ! 本当に貴方なの? 近くでその顔を良く見せて頂戴? 私をまた強く抱きしめて頂戴!


「......いや、今は遠慮しておこう。その握り拳を解いてくれたなら考えるが......」


 はぁ!? ふざけないで!! 一発殴らせなさいよ! なんであの時勝手に死んだのよ!? 絶対帰るっていったのに!?


「し、仕方ないだろうに。どうしようもなかったんだ。私が残る他なかったんだ。それが騎士の務めというものだろう?」


 分かってるわよ! けど許せないの! だから、一発でいいから殴らせなさい!


「無茶苦茶だな......。やれやれ、これではまともに話しも出来んぞ? 私が来たのは失敗だったか」


 いいえ。話も何も、私の気持ちは決まっているわ。生きる。絶対に生きて戻る。ラヴェルを守ってあげないと。あの子はきっと苦しんでいるから。


「ふむ。既に心は決まっているか。だが、いいのか? お前の身体ではもう戦えんぞ? 辛い思いをする。ならばいっそ」


 舐めないで頂戴。私も騎士の誇りを持つ者よ。例え足が千切れようと、例え腕が無くなろうと関係ないわ。必ず仕留めてみせる。それが私の使命よ。


「......いいや、どうやらその使命は果たす事は出来ん様だぞ? ほら、迎えだ。私達の自慢の息子がお前を迎えにきた様だ」


 ......え? そんな、馬鹿な。だってあの子は!


「人とはあっという間に成長を果たすものだ。そうだろう? ヴァレリア、会えて良かった。どうか、これより先も健やかであれ。愛してる。お前達二人を愛しているぞ」


 待って! まだ、まだ言いたい事は山程あるの! だから......だから!!



「......どうか、行かないで」

「お袋、ここにいる。ここにいるぞ」

「......ラ、ヴェ、ル? 貴方な、の?」

「ああ、俺だ。すまねぇ、待たしちまったよな。悪い、悪かった。すまねぇ、本当にすまねぇ」


 ーーああ、もう少しだけ貴方と一緒に居たかった。けど、今はまだいいわ。次はゆっくり会いましょう、フォルクス。そして覚悟しておいてね? 必ず一発は殴らせてもらうからーー。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...