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一章
#30 ある不器用な騎士の物語25
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「ねぇ、お母さん! あの部屋に飾ってあるカッコいい鎧と大きな槍! あれは誰のなの?」
「......ラヴェル? あの部屋には入るな、と散々言い聞かせた筈よね? 誰が入って言いと許可したの?」
「た、たまたま開いてたんだよ! それでその、えぇと」
「開いてたから入った、と? 私は入るなと言ったの。分かる? 入、る、な、よ? 他の言い訳があるなら聞きます」
「え!? ちょ! ご、ごめんなさい! もう入りません! だから、だから!」
「謝るのが遅い」
「ぎゃー!!」
......ああ、懐かしい。これは確か、ラヴェルが初めて私の装備を飾っておいた部屋に入った時の記憶。
「母さん! 俺、将来は騎士団に入る! 絶対入る! 入って母さんや皆を守るんだ!」
「貴方に守られる程弱くありません。断固反対し絶対認めません。諦めなさい」
「早っ!? せめて理由くらい聞いてくれてもいいじゃないか! なんでダメなんだよ!?」
「ダメなものはダメです。そうね、どうしても騎士団に入るなら私を倒してみなさい。そうすれば認めてあげなくはないわよ?」
「無理だよ! 絶対無理! 勝てる筈無いじゃん!」
「じゃあ諦めなさい。貴方は騎士になんてならなくていいの。もっと別の事を探して、普通の生活を送りなさい」
「なんだよ! 母さんのバーカ!」
「ちょっと来い」
「ぎゃー!!!!」
そうそう。この時は本気で怒ったわね。それに、薄々は感じていた。いずれラヴェルも騎士団に入り騎士に成りたい。と言い出す事を。けど、あの時の私は到底受け入れられなかった。あの人を亡くした悲しみを、もう二度と味わいたくはなかった。だから私は拒絶したんだったわね......。
「ふん! ふん!」
「飽きもせずによく毎日毎日木剣を振ってるわね? それで私に勝つ気でいるのかしら?」
「母ちゃんは関係ない! 俺はもう騎士になるって決めたんだ! だから、母ちゃんに反対されようがいつか絶対騎士になってやるんだ!」
「私にすら勝てないのに? そんなんじゃ魔物にやられてすぐ死んじゃうわよ? それでもいいの?」
「死なない為に頑張ってんだろ! それに、俺にはどうしても成りたい理由があるんだ! それだけは絶対曲げないからな!」
「生意気ね。いいわ、私が貴方の剣を見てあげる。さぁ、しっかりと振りなさい」
「いいって! あっちいっててよ! 邪魔するなよ!」
「やれ」
「......はい」
そうそう。この位の時だったわね。急に私に反抗的になってきたのは。最初はいつ根を上げるか面白半分で付き合ってたのに、いつになっても弱音を吐かなかったっけ。......結局、どうしてもなりたい理由が何なのかは言わなかったのよね。
「見ろ! 見事合格したぞ! 俺だってやれば出来るんだ!」
「合格おめでとうラヴェル。これで一先ずは入口に立った訳ね。けど、調子に乗らない事。ここからが大事なんだからね」
「わかってるよ! けど、今日位は素直に喜んでくれてもいいじゃねーかよ!」
「はいはい。喜んでるわよ? だからこんなケーキを焼いて待っていた訳だけど」
「おお!? すげぇ! これ食っていいのか!? 食っていいんだよな!?」
「いいけど、先ずはお父さんに報告してきなさい? きっと喜んでくれるわよ」
「わかってるよ! 絶対食うなよ!?」
そう、王立騎士養成学部に合格した時のラヴェルの顔ったら。本当に嬉しそうだったっけ。あの時の笑顔がきっと一番いい顔をしていたわね。そして、ここから先は緩やかにやる気を無くして不貞腐れて行くのよね......。さて、そろそろ起きなきゃ。懐かしい思い出も良いけれど、今の私にはやらなきゃいけない事があるから。
「もうその辺で良いだろう? お前はよく頑張った。そして、よく一人でラヴェルを育てあげた」
......ふざけないで。私の愛した人は絶対にそんな事を言わない。......お前は誰だ? その顔とその姿で言葉を口にするな。殺すぞ?
「......やれやれ。昔と何も変わらないな。少し試しただけだろう? そんなに怒るな、私は本当にお前の夫だよ。死にかけているお前の意思を聞きに来たんだ。本当に私だ、信用しろ」
......まさか、本当に? 本当にフォルクスなの?
「ああ、間違いなく私はフォルクス·ハルケイン本人だとも。こうして再び会えた事を幸せに思う。よく頑張ったな、ヴァレリア」
ああ、ああ! 本当に貴方なの? 近くでその顔を良く見せて頂戴? 私をまた強く抱きしめて頂戴!
「......いや、今は遠慮しておこう。その握り拳を解いてくれたなら考えるが......」
はぁ!? ふざけないで!! 一発殴らせなさいよ! なんであの時勝手に死んだのよ!? 絶対帰るっていったのに!?
「し、仕方ないだろうに。どうしようもなかったんだ。私が残る他なかったんだ。それが騎士の務めというものだろう?」
分かってるわよ! けど許せないの! だから、一発でいいから殴らせなさい!
「無茶苦茶だな......。やれやれ、これではまともに話しも出来んぞ? 私が来たのは失敗だったか」
いいえ。話も何も、私の気持ちは決まっているわ。生きる。絶対に生きて戻る。ラヴェルを守ってあげないと。あの子はきっと苦しんでいるから。
「ふむ。既に心は決まっているか。だが、いいのか? お前の身体ではもう戦えんぞ? 辛い思いをする。ならばいっそ」
舐めないで頂戴。私も騎士の誇りを持つ者よ。例え足が千切れようと、例え腕が無くなろうと関係ないわ。必ず仕留めてみせる。それが私の使命よ。
「......いいや、どうやらその使命は果たす事は出来ん様だぞ? ほら、迎えだ。私達の自慢の息子がお前を迎えにきた様だ」
......え? そんな、馬鹿な。だってあの子は!
「人とはあっという間に成長を果たすものだ。そうだろう? ヴァレリア、会えて良かった。どうか、これより先も健やかであれ。愛してる。お前達二人を愛しているぞ」
待って! まだ、まだ言いたい事は山程あるの! だから......だから!!
「......どうか、行かないで」
「お袋、ここにいる。ここにいるぞ」
「......ラ、ヴェ、ル? 貴方な、の?」
「ああ、俺だ。すまねぇ、待たしちまったよな。悪い、悪かった。すまねぇ、本当にすまねぇ」
ーーああ、もう少しだけ貴方と一緒に居たかった。けど、今はまだいいわ。次はゆっくり会いましょう、フォルクス。そして覚悟しておいてね? 必ず一発は殴らせてもらうからーー。
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