いつか世界が眠るまで

紫煙

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一章

#13 ある不器用な騎士の物語8

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「......マリーちゃん。何と言うか、全力で露店を堪能してるね」

「はい! 今なお全力で堪能中です! こんなに沢山のお店に見たこと無い物に食べたこと無い物。全てが新鮮で楽しいです!」

「うん、それは良かった。さ、今買った物を渡して。持ってあげるよ」


 満面の笑顔を携えて、上機嫌で歩くマリーと手を繋いで歩くリード。
 空いたもう片方の腕には山の様な荷物を抱えている。どういうバランスで保てているのだろうか。それらは全てマリーが買い漁った戦利品とも呼べる商品達だ。

 小さな身体でよく食べてよく動く。成る程、神の力を宿すという事はこれ程の事なのか。と、的外れな事を考えるリードは、それでも周囲に気を配る事を怠たりはしない。

 周囲の人が小さなマリーに気付かずぶつかりそうになろうものなら、自身の身体を自然と間に滑らせ壁となり、押され踏まれぬ様にと然り気無く誘導している。

 まるで、壊れやすい繊細な物を扱う様にごく自然とその身を以て守ってあげていた。
 そんな甲斐もあってか、マリーの買い食いは止まる事なく今も荷物となって増え続けている。


「さて、と。そろそろ真面目に動いてみようかと思うんだけど。先ずは買い食いを止めようか。これ以上は流石に僕でもきついかな」

「え? ......っと、あ、あはは。少しやり過ぎました。反省します」

「いいよ、大丈夫。生前妻達の買い物で鍛えられたからね。それこそ、これの比じゃない程に多くて重い物ばかりだったんだ。それに比べたら......ね」


 片方の目を軽くぱちりと閉じ優しい笑みを向けるリード。

 生前複数いる妻達に散々いいように扱われ手懐けられてきた過去があり、女性の扱いは完璧という程に上手くなり、小さな気遣いも当然忘れない。正に完全完璧な紳士然とした堂々たるたたずまいである。

 やがて、結構な距離を歩き回ってきた二人は露店の建ち並ぶ大通りから少し離れ、適当な座れる場所を見付けて漸くその腰を落ち着かせる。


「ふぅ。じゃあ、一先ずこの荷物を一旦宿に置きに戻るのは確定として......。その後に顔を出しておきたい場所があるんだ。どうだろう?」

「はい、それで構いません。私はその辺は全く分からないのでお任せします。やっぱりリードさんが居てくれて良かったです! 親子に見られるのはちょっとあれなのですが......」


 マリーはリードと会話を交わしながらも、小動物の様に先程買ったであろう焼きトウモロコシを両手でちょこっと摘まみ、小刻みに口を動かし食している。
 その小さな身体で一体どれ程食べるのか。リードは今後の食費を考えると軽い目眩を覚えるのであった。




◆◇◆◇◆◇◆




 予定通りに二人は一旦宿に戻り、再びある場所を探して街に繰り出す。端から見れば仲の良い兄妹か、極希に親子に見られ温かい視線を向けられるが気にもせず、二人は並んで歩いてゆく。そうして、偽者の勇者の銅像が誇らしげに自身を称えるかの如く立つ、噴水が綺麗に水華を咲かせる中央広場に辿り着く。


 やがてリードが見つけた場所は......。


「ここが、多くの物語やお伽噺に必ずといって良いほど出てくる場所......。」

「うん。世界中を旅して周り、まだ見ぬ秘境や歴史に名を残す遺跡を見付けたり、魔物やその他の驚異に対して敢然と立ち向かい人々を救う。そんな周囲の夢や希望を携えて、自由を愛し人を愛する国境なき自由騎士とも呼べる《ハンター》達が集い、色々な仕事を斡旋してくれる場所。それがここ《ハンターズギルド》だよ」


 リードは何処か誇らしげに胸を張り、瞳をきらきらと輝かせるマリーへと説明を始めた。

 ここは世界中の都市や大きな街、それなりの村に辺境に至るまで、国境や垣根を越えて数多く顕在する《ハンターズギルド》の総本山。

 その顕在する場所により、本当に様々な依頼が貼り出される。時には命をも賭けざるを得ない程の危険な依頼をその身の全てを持って全うする。そんな危険な仕事を斡旋する場であり、《ハンター》達にある程度の支援や優遇を図り依頼人と《ハンター》との間に入る仲介業。それが《ハンターズギルド》である。


「実はね、ここ《ハンターズギルド》には僕もよくお世話になっていたんだよ。いやー、本当に懐かしいな。外観は変わってはいるけどこの看板と独特の雰囲気はまるで変わってないんだなー。いつから在るのか誰が設立したのかは昔からの謎だったんだけど、どうなのかな? 何だかわくわくするよね」

「はい! 感激です! 沢山の冒険記や英雄譚、伝説とまで謳われた物語の発祥の場所! わくわくしない訳がありません!」


 全身で喜ぶマリーにも負けず劣らず瞳を輝かせ、リードは今は過去の様々な冒険や出逢いを思い返す。何とも言えない昂りに胸が熱くなるのを感じ、それを大切に己に留めるかの如く優しく強く胸に掌を当てそれを握る。


 ーーみんな、僕は再び帰ってきたよ。この世界に、この王都に、この場合に。僕の《始まりの場合》に帰ってきたんだーー。


 過去の様々な出来事が頭を過り目頭が熱くなる。そんなリードを見上げるマリーもまた、思いも寄らない冒険や出逢いと別れを繰り返したであろう《勇者》を想い、そっと握られた掌に少しだけ力を込める。

 その見上げる顔は銅像にもなり広く知られる洗練された顔立ちではない。しかし、それ以上に美しく英雄然としていてとても輝いて見えた。

 沢山の哀しみと後悔と、数えきれぬ苦しみと覚悟と決意。それらが手に取るように伝わり来る遥か遠くを想う瞳。これが本物の《勇者》なのか。と、マリーも目頭を熱くする。しかし、決して反らさず己に刻み込む様にしっかりと見届けるのであった。




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