機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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幕間⑥

地の底より来たりて

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■???視点

「ふむ……久方振りの地上、であるな」

 おびただしく重なる“使徒”達の上に立ち、“崇高なるしゅ”は静かに呟いた。

「はい……この私めも、非常に懐かしく存じます」
「フ……“お主”にとっては、高々五百年の時など、あくびをする程度の時間に過ぎないであろうが」

 恭しく一礼しながら私はそう告げると、“崇高なる主”は口の端を持ち上げ、揶揄からかうようにそう言った。

「それで、“使徒”達はどうなっておる?」
「はい、既にこの街にいるニンゲン達で空腹を満たし、次の土地を目指しております」
「ふむ……で、あるか」

 “崇高なる主”は、その金色の顎髭をさすった。

「それで……この後・・・はどうなさいますか?」

 私は“崇高なる主”に尋ねる。
 五百年振りに『常世の門』の封印が解け、“崇高なる主”が久方振りにこの地上へと召されたのだ。

 あの時の恨み・・・・・・、ここで晴らすべきではあるのですが……恐らく、“崇高なる主”はそれをお求めにはならないでしょう……。

「フ……五百年前も今も、余の望みは変わらぬ」

 やはり……それでもなお、求めますか・・・・・
 もはや、そのようなものに何の価値もないというのに。

「承知しました。このアルビオニア島も一月のうちに全てのニンゲンが“使徒”の腹に収まることでしょう」
「む……それは困るな」

 私がそう話すと、“崇高なる主”はほんの僅かに顔をしかめた。
 ニンゲンのような下等なる生物に、まだ未練があるとでもいうのでしょうか……。

「……と、申しますと?」

 ですが、私はあえてそのことには触れ、平静を装って尋ねる。
 それを問い掛けてしまったら、この私のこれまでの想いが否定されてしまうと思ったから。

「うむ……“使徒”達の腹を満たすためにも、今後の供給のことを考えねばならん。そうなると、“家畜”として飼育することも視野に入れねばならぬからな」

 “崇高なる主”のそのお言葉を聞き、私は歓喜に震えた。
 まさか、“崇高なる主”が我々のためにそこまでお考えくださっていただなんて……!

「承知いたしました。でしたら、“使徒”達には、全体の一割程度は確保・・しておくように指示いたします。それと」

 私は“崇高なる主”の前へと出ると、その場で跪き。

「“家畜”の飼育につきまして、この私にお任せいただけますでしょうか」

 左胸に手を当て、そう願い出た。

 だが。

「いや、それは“ステノー”に任せるとしよう」
「……どうしてでしょうか。そのような大役、“ステノー”には難しいのでは……」

 私の申し出を断られてしまい、思わず“崇高なる主”に問いただしてしまった。
 ……いえ、これは“ステノー”への嫉妬、ですね。

「なに、簡単な話だ。そのような小事をわざわざお主に任せる程、余は愚かではない」
「っ!」

 “崇高なる主”の言葉に、私は思わず胸を詰まらせる。
 だって……今のお言葉は、この私めが“崇高なる主”にとって特別・・だとおっしゃっていただいているようなものなのだから。

「フ……近う」
「は、はい!」

 口元を緩めた“崇高なる主”に手招きされ、私は上ずった声で返事をするとそのお傍へと寄った。

 すると。

「ん……ちゅ……」

 “崇高なる主”は私を抱き寄せ、その高貴なるお口でこの私の口を塞がれた。

「ちゅ……ちゅく……ちゅぷ……」

 舌を絡め、私は“崇高なる主”を堪能する。
 それだけで、私は昇天してしまいそうになった。

「む……フフ、お主は余の大切な右腕なのだ。それを忘れぬように、な」
「はい……!」

 ああ……“崇高なる主”……!
 あなた様は、この私のでございます……!

「ところで……余が地上に遺した“戦術級使徒”はどうなっておる」
「は……」

 “崇高なる主”の問い掛けに、私は思わず言い淀んでしまう。

 “ベヘ=モト”に関しては、ゆっくりではあるがこの『常世の門』へと向かっているとの報告があった。
 一方……“ア=ズライグ”は……。

「申せ」
「ハ、ハッ! “ベヘ=モト”はこの『常世の門』を目指している最中でございます」
「そうか」

 そう言うと、“崇高なる主”は空を見上げた。

「“ア=ズライグ”は?」

 やはり、言わない訳にはいかないか……。

「ハ……“ア=ズライグ”は、“白銀の四肢を持つ者”によって葬られたようです……」
「ほう?」

 “崇高なる主”の眼光が鋭くなる。
 その視線に、私は俯いたまま唇を噛んだ。

 そもそも、ただの“使途”に蹂躙されるニンゲン共だ。
 本来であればあの“ア=ズライグ”が、ニンゲンがいくら束になってかかったところで、傷一つすらつけることはできない筈。

 だが……“ア=ズライグ”は倒されてしまった。
 それが、事実だ。

「フハハハハ! 面白い! 面白いではないか! 五百年の時を経て、ニンゲンは“戦術級使徒”を葬ることができる程の力をつけたか!」

 “崇高なる主”は嬉しそうに高らかに笑った。

「しゅ……主様?」
「ああいや、すまん。あまりにも嬉しくてな。それで、その“白銀の四肢を持つ者”とやらは?」
「イ、“イシュカ”からの報告によりますと、この島を既に出てしまったとのことです……」
「ふうむ……それは残念、であるな」

 “崇高なる主”は、がっかりした表情を浮かべ、肩を落とす。

「まあ、もうしばらくすれば大陸へと渡るのだから、その時の楽しみにしておくか」
「ハ……」

 私は“崇高なる主”に、改めて一礼する。

「うむ……では“ティティス”よ。引き続きアルビオニア島の制圧に取りかかるのだ」
「ハハッ!」

————————————————————————

お読みいただき、ありがとうございました!

お陰様をもちまして、これにて「機械仕掛けの殲滅少女」は第一部完結です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

今後は、チョコチョコと閑話を入れつつ、夏ごろを目途に第二部「人魔大戦」編を再開予定です!

どうぞお楽しみに!
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みんなの感想(64件)

花鳥風月(元オーちゃん)

アデルー!!(´;ω;`)
限界超えてまでやりおった(´;ω;`)
そして1度死に直面しての懸命な介護での帰還良かったヽ(;▽;)ノ

サンボン
2021.05.16 サンボン

オーちゃんさん、コメントいただき、ありがとうございます!
はい、限界を超え、お嬢様に翼を、ハンナさんに弾丸を託しました!
さらに、聖女様と幼馴染まで魅せてくれました!
次回はいよいよア=ズライグ戦、決着!どうぞお楽しみに!
今後とも、どうぞよろしくお願いします!

解除
花鳥風月(元オーちゃん)

ソフィアさんマジでストーカー
最後の夜?•́ω•̀)?

サンボン
2021.05.11 サンボン

オーちゃんさん、コメントいただき、ありがとうございます!
ストーカーではないと思いますが、ヤンデレなのは間違いありませんw
最後の夜の意味は、この国で過ごす最後の夜という意味です。
今後とも、どうぞよろしくお願いします!

解除
龍牙王
2021.05.06 龍牙王

ソフィア最後までつきまとうんかい

サンボン
2021.05.06 サンボン

龍牙王さん、コメントいただき、ありがとうございます!
はい、結局つきまといますw
というか、物語のラストまでつきまとってくる予定ですwww
今後とも、どうぞよろしくお願いします!

解除

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