機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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幕間⑥

忠義の裏切り

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■オリバー=グロウスター視点

「ご報告します! アイザックの街へと進軍していたヨーク伯爵の部隊は、その近郊にて消息を絶ちました!」
「宰相閣下! マザーウィン侯爵から救援要請が!」
「大変です! リードホルムの街が壊滅しました!」

 ブラムスの街にある私の屋敷に仮設置した対策本部に、騎士達が次々と飛び込んでくる。
 この国の各所で発生している、“神の眷属”による被害を報告しに。

「いやはや……これは防ぎようがないねえ……」

 ライラ=カートレットの忠告を受け、私はすぐさまアイザックの街に兵力を結集し、『天国への階段』から湧き出てくるという“神の眷属”に対処しようと考えたが、その兵力が揃い切らないうちに“神の眷属”による襲撃を受け、既に壊滅状態となっている。

 その後、“神の眷属”達は各地へと足を延ばし、次々と街を……人を襲っていた。

 だが。

「……“神の眷属”とやらは、何匹・・いるんですかねえ……」

 私はポツリ、と弱音を吐く。
 だが、それも仕方あるまい。

 ただでさえジリ貧な状況もさることながら、騎士達が持ち帰った“神の眷属”の死骸を見た時、思わず戦慄が走った。

 その“神の眷属”は、ニンゲンの顔と手足を持ったムカデのバケモノの姿をしてたのだから。

「一体……“神の眷属”というのは何なのでしょうか……」

 普段見慣れている魔物とはまるで違う、“神の眷属”というニンゲンの顔を持つ生物……。

 そんなバケモノが、どうして『天国への階段』から溢れ出したのか。
 しかも『天国への階段』とは名ばかりで、地の底へとらせん階段が続いていたと聞く。

 これじゃまるで……。

「……いずれにせよ、『天国への階段』もさることながら、アイザック王の伝説そのものも、調べ直す必要がありますねえ……」

 とはいえ、それも無事この難局を乗り切ることができれば、ですが……。

 報告書を眺めながら溜息を吐く。

 その時。

「ほ、報告します!」

 はあ……次はどんな悪い報告なんでしょうかねえ……。

「それで……どうしました?」
「ハ、ハッ! そ、その……ノ、“ノードン山”が動き出しましたあっ!」
「? 山が?」

 報告に来た騎士の言葉が理解できず、私は思わず聞き返す。

「ほ、本当です! アルビオニア島東部のノードン山から亀のような頭部と四本の脚が突如現れ、ゆっくりと西へ向かって進んでおります!」
「っ!?」

 西……………………まさかっ!?

「アイザックの街を目指しているのか……!」

 “ア=ズライグ”の時も、『天国への階段』が発見された際にその封印が解け、アイザックの街へ向かう途中にある街や王都を破壊して向かっていた。

 つまり。

「“ベヘ=モス”……」

 そう……考えるのが妥当だろう。
 アイザック王の伝説に出てくる、二匹の“神の眷属”の一柱が、ここにきて封印が解けたか……!

「ど、どうしますか……?」
「……どうしようも、ないねえ……」

 私達には、“神の眷属”を止める術はない。
 ただ……蹂躙されるのを待つだけ、だ……。

 だが。

「……まだ、希望はある」

 そう……ベルネクス王国には、エリオット殿下とエリザ殿下がいる。
 そこへ、“ア=ズライグ”を倒した立役者、ライラ=カートレット伯約とその侍女であるハンナ、そして……。

「……あの“アデル”という男が復活すれば、あるいは……」

 先の“ア=ズライグ”との戦いで見せた、アデルという男の規格外の能力・・可能性・・・
 それにあの男には、カートレット卿やハンナだけでなく、あの[聖女セイント]、ソフィア=アルベルティーニさえも心酔している。

 もし……もし、このアルグレア王国が復活するとすれば、アデルという男こそが鍵だ。

「あとは……エリオット殿下とエリザ殿下が、そのアデル君を丁重に扱ってくれるといいんですけどねえ……」

 エリオット殿下もエリザ殿下も、良くも悪くも王族なので、ただの平民でしかないアデルに対し、不遜な態度をしてしまう可能性が非常に高い。
 そうなってしまえば、アデルはおろかカートレット伯爵、ハンナ、それに[聖女セイント]すら敵に回すこととなり、ひいてはファルマ聖法国の協力を得ることも困難となってしまう。

「はあ……せめて、お目付け役となる者を同行させるべきでしたねえ……」

 といっても、二人の殿下に物申すことができる者など、この私を除けば国王陛下とアーガイル卿、それに数人くらいでしょうが……私を除いて、全て死んでしまっていそうですしねえ……。

 私はこめかみを押さえながらかぶりを振る。

 ——コン、コン。

「入りたまえ」
「失礼いたします」

 執事長が静かに扉を開け、一礼をしてから部屋の中へと入ってきた。

「お茶でございます」
「ああ、すまないねえ……」

 執事長の心遣いに、私は思わず口元を緩めると、カップを持って紅茶を口に含んだ。

 すると。

「う……!?」

 突然、めまい、が……!?

「し、執事……!?」
「……それでは、お館様をよろしくお願いします」
「か、かしこまりました……」

 執事、長と……き、騎士が、会話……して……。

 ——私の意識は、ここで途絶えた。
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