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幕間⑥
アイザックの街の末路
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■サラ視点
「あー……暇ですねー……」
ギルドのカウンターに突っ伏しながら、私はポツリ、と呟く。
領主様であるカートレット伯爵が突然この街に要塞を築いて以来、街の住民の多くがモーカムの街へと移住してしまった。
当然、冒険者達もこんな寂れた街なんかより、賑やかで良い条件の依頼を受けられるモーカム街へと移って行った。
といっても、モーカムの街も同じカートレット伯爵領なので、領主様的にはあまり変わらないんだろうけど。
「はあー……私もモーカムの街に移りたかったなー……」
マスターにはモーカムの街への転属申請を出したけど、領主様に粗相をした罰として、私の希望は一番後回しにされてしまった。
だ、だけど、あのアデルさん……いえ、アデルが領主様と懇意にしてるだなんて知らなかったし、不可抗力ですよあんなのー……。
「ホントにもー……それもこれも、結局はアデルのせいですよー! アイツ、“役立たず”のくせに領主様の腰巾着に収まるなんてー!」
あの時の怒りが沸き上がり、私はバシバシとカウンターを叩く。
もー! アイツのせいで私の人生設計がメチャクチャです!
“黄金の旋風”もこの街から去ってしまったし、そのせいでエリアル様に永久就職できなくなっちゃったしー……。
「……オイ」
「もー! 何ですかー! ……って、ゲッ!?」
「『ゲッ!?』じゃない……はあ、そんなんじゃモーカムの街への転属も相当先だな」
「そ、そんなー……」
マスターの心無い言葉に、私はガックリと肩を落とした。
その時。
「た、大変だっ!」
突然、冒険者の一人がギルドに飛び込んできた。
「? どうした?」
「バ、ババ……!」
「「ババ?」」
「バケモノが現れたんだよおおおおおおおお!」
はあ? バケモノ?
この冒険者は一体何を言ってるんでしょうか?
「バケモノ? 魔物じゃなくてか?」
「ちち、違う! あんな……あんな魔物がいてたまるかよ! ニンゲンの顔してやがるんだぞ!?」
「「ハア?」」
この冒険者の言っていることの意味がサッパリ分からず、私もマスターも呆けた返事をしてしまった。
「だだ、だったら見て来いよ! と、とにかく! 俺は今すぐこの街を脱出するからな!」
そう言うと、冒険者は焦るあまりよろめきながらギルドを出て行った。
「……何だったんだ?」
「……さあ?」
私とマスターは顔を見合わせ、首を傾げた。
すると。
「ギャアアアアアアアアア!?」
突然、ギルドの外から男の悲鳴が聞こえた。
でも、この声……さっきの冒険者!?
「……ちょっと、様子を見てくる」
ただ事じゃない雰囲気を感じたマスターは、執務室からマスターの武器であるバトルアックスを持ってくると、そのままギルドを出た。
私も気になってしまったので、マスターの後に続いて外に出る……けど。
「アレー? 悲鳴を上げた冒険者の方、いませんねー……」
私はキョロキョロと辺りを見回すが、やっぱり冒険者の姿は見当たらない。
「……おい、サラ。今すぐギルドの馬に乗って、この街から逃げろ」
「へ?」
真剣な表情で呟くマスターの指示に、私は気の抜けた返事をした。
だけど……こんな表情の時は、マスターは冗談を言わない。
つまり。
「走れえええええええええええええ!」
「はいいいいいいいいいいいいいい!」
マスターと一緒にギルドへと全力で走る。
何があるのかは分からない。
だけど、この私にも背中越しにハッキリと伝わってくる。
何か、ヤバイモノがある、と。
「ハアッ……ハアッ……!」
息を切らしながらも、そんなことお構いなしに走り続ける。
得体の知れないナニカから逃げ出すために。
「うおおおおおおおおお!?」
「っ!? マスター!?」
突然マスターが転げ、叫び声と共に私の隣から姿が消える。
私は慌てて後ろへと振り返ると……。
『キチキチキチキチ……!』
ニンゲンの顔をした巨大なクモのバケモノが、その口から糸を吐いてマスターを捕え、前足で器用に手繰り寄せていた。
「サ、サラ! 逃げ……っ!?」
——ぼり。
「グアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!?」
マスターの脚がクモのバケモノにかじられ、マスターは絶叫した。
そして、その光景を見たこの私も。
「ア!? ギ!? グベ……!?」
——ぐちゅ、ずる、ぺき。
マスターはクモのバケモノの口の中へゆっくりと入って行き、クモのバケモノが咀嚼するたびにマスターが奇声を上げる。
「あああああ……イヤ、イヤアアアアア……!」
腰を抜かした私はいつの間にか失禁をしており、それでもバケモノから逃げようと、ずりずりと後ずさる。
だけど。
「イヤアアアアアアアアアアアア!?」
「ヤメ!? ヤメテ!?」
「コッチ来るな!? 来るなアアアアアアア……あえ!?」
気づけば、街中の住民がバケモノ達に捕まり、その身体を食べられていた。
「ヒイ……ヒイ……!?」
私は顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら、ギルドへ向かって這いずる。
馬……馬に乗って早くこの街から……っ!?
『ブルルルル……』
ギルドの前で、ニンゲンの顔をした馬のバケモノが、ギルドの馬をかじっていた。
「いいいいいいいいやあああああああああああああ……たしゅ……たしゅけ……」
全身を振るわせて命乞いをする私を、その馬のバケモノはキョトン、としながら眺めている。
あ……い、今なら逃げ……。
——ぼり。
「あー……暇ですねー……」
ギルドのカウンターに突っ伏しながら、私はポツリ、と呟く。
領主様であるカートレット伯爵が突然この街に要塞を築いて以来、街の住民の多くがモーカムの街へと移住してしまった。
当然、冒険者達もこんな寂れた街なんかより、賑やかで良い条件の依頼を受けられるモーカム街へと移って行った。
といっても、モーカムの街も同じカートレット伯爵領なので、領主様的にはあまり変わらないんだろうけど。
「はあー……私もモーカムの街に移りたかったなー……」
マスターにはモーカムの街への転属申請を出したけど、領主様に粗相をした罰として、私の希望は一番後回しにされてしまった。
だ、だけど、あのアデルさん……いえ、アデルが領主様と懇意にしてるだなんて知らなかったし、不可抗力ですよあんなのー……。
「ホントにもー……それもこれも、結局はアデルのせいですよー! アイツ、“役立たず”のくせに領主様の腰巾着に収まるなんてー!」
あの時の怒りが沸き上がり、私はバシバシとカウンターを叩く。
もー! アイツのせいで私の人生設計がメチャクチャです!
“黄金の旋風”もこの街から去ってしまったし、そのせいでエリアル様に永久就職できなくなっちゃったしー……。
「……オイ」
「もー! 何ですかー! ……って、ゲッ!?」
「『ゲッ!?』じゃない……はあ、そんなんじゃモーカムの街への転属も相当先だな」
「そ、そんなー……」
マスターの心無い言葉に、私はガックリと肩を落とした。
その時。
「た、大変だっ!」
突然、冒険者の一人がギルドに飛び込んできた。
「? どうした?」
「バ、ババ……!」
「「ババ?」」
「バケモノが現れたんだよおおおおおおおお!」
はあ? バケモノ?
この冒険者は一体何を言ってるんでしょうか?
「バケモノ? 魔物じゃなくてか?」
「ちち、違う! あんな……あんな魔物がいてたまるかよ! ニンゲンの顔してやがるんだぞ!?」
「「ハア?」」
この冒険者の言っていることの意味がサッパリ分からず、私もマスターも呆けた返事をしてしまった。
「だだ、だったら見て来いよ! と、とにかく! 俺は今すぐこの街を脱出するからな!」
そう言うと、冒険者は焦るあまりよろめきながらギルドを出て行った。
「……何だったんだ?」
「……さあ?」
私とマスターは顔を見合わせ、首を傾げた。
すると。
「ギャアアアアアアアアア!?」
突然、ギルドの外から男の悲鳴が聞こえた。
でも、この声……さっきの冒険者!?
「……ちょっと、様子を見てくる」
ただ事じゃない雰囲気を感じたマスターは、執務室からマスターの武器であるバトルアックスを持ってくると、そのままギルドを出た。
私も気になってしまったので、マスターの後に続いて外に出る……けど。
「アレー? 悲鳴を上げた冒険者の方、いませんねー……」
私はキョロキョロと辺りを見回すが、やっぱり冒険者の姿は見当たらない。
「……おい、サラ。今すぐギルドの馬に乗って、この街から逃げろ」
「へ?」
真剣な表情で呟くマスターの指示に、私は気の抜けた返事をした。
だけど……こんな表情の時は、マスターは冗談を言わない。
つまり。
「走れえええええええええええええ!」
「はいいいいいいいいいいいいいい!」
マスターと一緒にギルドへと全力で走る。
何があるのかは分からない。
だけど、この私にも背中越しにハッキリと伝わってくる。
何か、ヤバイモノがある、と。
「ハアッ……ハアッ……!」
息を切らしながらも、そんなことお構いなしに走り続ける。
得体の知れないナニカから逃げ出すために。
「うおおおおおおおおお!?」
「っ!? マスター!?」
突然マスターが転げ、叫び声と共に私の隣から姿が消える。
私は慌てて後ろへと振り返ると……。
『キチキチキチキチ……!』
ニンゲンの顔をした巨大なクモのバケモノが、その口から糸を吐いてマスターを捕え、前足で器用に手繰り寄せていた。
「サ、サラ! 逃げ……っ!?」
——ぼり。
「グアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!?」
マスターの脚がクモのバケモノにかじられ、マスターは絶叫した。
そして、その光景を見たこの私も。
「ア!? ギ!? グベ……!?」
——ぐちゅ、ずる、ぺき。
マスターはクモのバケモノの口の中へゆっくりと入って行き、クモのバケモノが咀嚼するたびにマスターが奇声を上げる。
「あああああ……イヤ、イヤアアアアア……!」
腰を抜かした私はいつの間にか失禁をしており、それでもバケモノから逃げようと、ずりずりと後ずさる。
だけど。
「イヤアアアアアアアアアアアア!?」
「ヤメ!? ヤメテ!?」
「コッチ来るな!? 来るなアアアアアアア……あえ!?」
気づけば、街中の住民がバケモノ達に捕まり、その身体を食べられていた。
「ヒイ……ヒイ……!?」
私は顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら、ギルドへ向かって這いずる。
馬……馬に乗って早くこの街から……っ!?
『ブルルルル……』
ギルドの前で、ニンゲンの顔をした馬のバケモノが、ギルドの馬をかじっていた。
「いいいいいいいいやあああああああああああああ……たしゅ……たしゅけ……」
全身を振るわせて命乞いをする私を、その馬のバケモノはキョトン、としながら眺めている。
あ……い、今なら逃げ……。
——ぼり。
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