136 / 146
第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編
最後の夜
しおりを挟む
「……では明日の正午までに港に集合してください。ベルネクス王国行きの船団はこちらで用意しておきますので」
グロウスター公爵は明日の段取りについて詳細を説明していく。
ライラ様もハンナさんも、そしてこの僕も集中して聞く中、ソフィアとカルラは真面目に聞いている様子は見受けられなかった。
カルラは全く興味がないといった感じで、つまらなそうにワインを口に含む。
そしてソフィアは、どこか悔しそうだった。
「? ソフィア様、どうされました?」
そんなソフィアの様子に気づいたグロウスター公爵が声を掛ける。
「……いえ、別に」
言いたくないのか、ソフィアがプイ、と顔を背けた。
まあ、どうでもいいか。
「それで……話はこれで終わりでしょうか?」
ライラ様が、グロウスター公爵に尋ねる。
「え、ええ、これで話は終わりです。執事長を船に搭乗させますので、不明な点等があれば、船上で尋ねてください」
「分かりました」
ライラ様は頷くと、ス、と席を立つ。
それを見た僕とハンナさんも、同じように席を立った。
「では、私達はこれで失礼します」
「はい……今日はありがとうございました……」
結局、僕達は料理もワインもほぼ手をつけることもないまま、部屋を出た。
グロウスター公爵も、これ以上話をしても無駄だということを悟っているのだろう。僕達のこの失礼な態度に、何も言うことはなかった。
「では、馬車を回してきます」
僕は二人から離れ、侍女に声を掛けて馬車の場所まで連れて行ってもらうと、馬車は屋敷の玄関から少し離れたところに控えていて、馬達が水を飲んでその身体を休めていた。
「……さあ、帰るよ」
馬首をポンポン、と優しく叩いて合図すると、御者席に座って手綱を手に取る。
そして、玄関へと馬車を回すと、僕の姿を見た二人が手を振ってくれた。
「ライラ様、ハンナさん、お待たせしました」
「アデル様……さあ、帰りましょう」
行きとは異なり、二人は公爵家の従者達の前でもはばからずに、社内ではなく御者席に乗った。
まあ、もう別に気を遣う必要もないし、それに……。
「ライラ様……」
僕は、ライラ様の肩をそっと抱き寄せた。
グロウスター公爵の前では気丈に振舞っていたけど、ライラ様は悔しい筈、つらい筈なんだ。
だから……せめて、僕達だけでもライラ様に寄り添いたいから……。
「ふふ……アデル様、あったかいです……」
ライラ様が僕の肩に頬を寄せる。
そして。
「……少しだけ……少しだけ、この、ままで……っ!」
……ライラ様が肩を震わせながら、声を殺して……泣いた。
◇
「それでは、おやすみなさい……それと、二人共明日があるんですから、程々にしてくださいね?」
ライラ様が少しおどけながら、僕とハンナさんにそう告げる。
「お嬢様、今日はこの国で最後の夜です。せっかくですから、この三人で一緒にいませんか?」
ハンナさんが眼鏡をクイ、と持ち上げながら提案した。
「あはは、そうですよ。最後の夜は、この三人で少し夜更かしをしましょう。これからの話をたくさんしながら」
「アデル様……! ハンナ……!」
ライラ様が、顔をくしゃくしゃにしながら僕の胸に抱きついた。
「さあ……部屋に入りましょう」
僕達は、ライラ様の部屋に一緒に入る。
「うふふ……では、下に行ってお酒とおつまみでも貰ってきますね」
ハンナさんが優雅にカーテシーをすると、部屋を出て行った。
「ハンナに……申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「そんなこと、ないと思いますよ……? だって、ハンナさんも“妹”であるライラ様が気掛かりで、とても僕と二人でいられなかったと思いますし……」
それに……僕だって、ライラ様を一人にしたくなかったし……。
「ふふ……本当に、私は幸せです……」
涙ぐみながらも微笑むライラ様に、僕も微笑み返す。
「うふふ♪ お待たせしました♬」
ハンナさんがご機嫌な様子で扉を開けて部屋に戻ってきた。
右手にはワインのボトル、左手にはチーズや生ハム、それにバゲットの入ったカゴを持って。
「あ、じゃあグラス用意しますね」
僕は部屋に備え付けられているグラスを三つ取り出し、テーブルに並べる。
するとハンナさんがワインの栓を開け、グラスに注いだ。
「では、乾杯しましょう。ライラ様」
僕達はグラスを手に取ると、ライラ様に乾杯の音頭をお願いした。
「はい……二人共、これまでお疲れさまでした。今日はこのアルグレア王国で過ごす、最後の夜です」
「「…………………………」」
「この国での私達三人の過去は、決して良いものではありませんでした。ですが……この僅か数か月の間に、私達はこれ以上ない幸福を手にすることができました……」
そう言うと、ライラ様とハンナさんが僕のほうを見る。
僕も、二人を見つめた。
「私はこの幸せを、新しい地ではぐくんで行きたい。この、三人で……」
「「はい……」」
「その、私達の未来を祈念して……乾杯!」
「「乾杯!」」
僕達はグラスを掲げると、ワインを一気に呷った。
「ふふ……絶対に、幸せになりましょうね?」
「うふふ……お嬢様、きっとなります。だって」
「あはは……僕達三人、これからもずっと一緒なんですから」
僕達は、その日の夜遅くまで飲み明かした。
グロウスター公爵は明日の段取りについて詳細を説明していく。
ライラ様もハンナさんも、そしてこの僕も集中して聞く中、ソフィアとカルラは真面目に聞いている様子は見受けられなかった。
カルラは全く興味がないといった感じで、つまらなそうにワインを口に含む。
そしてソフィアは、どこか悔しそうだった。
「? ソフィア様、どうされました?」
そんなソフィアの様子に気づいたグロウスター公爵が声を掛ける。
「……いえ、別に」
言いたくないのか、ソフィアがプイ、と顔を背けた。
まあ、どうでもいいか。
「それで……話はこれで終わりでしょうか?」
ライラ様が、グロウスター公爵に尋ねる。
「え、ええ、これで話は終わりです。執事長を船に搭乗させますので、不明な点等があれば、船上で尋ねてください」
「分かりました」
ライラ様は頷くと、ス、と席を立つ。
それを見た僕とハンナさんも、同じように席を立った。
「では、私達はこれで失礼します」
「はい……今日はありがとうございました……」
結局、僕達は料理もワインもほぼ手をつけることもないまま、部屋を出た。
グロウスター公爵も、これ以上話をしても無駄だということを悟っているのだろう。僕達のこの失礼な態度に、何も言うことはなかった。
「では、馬車を回してきます」
僕は二人から離れ、侍女に声を掛けて馬車の場所まで連れて行ってもらうと、馬車は屋敷の玄関から少し離れたところに控えていて、馬達が水を飲んでその身体を休めていた。
「……さあ、帰るよ」
馬首をポンポン、と優しく叩いて合図すると、御者席に座って手綱を手に取る。
そして、玄関へと馬車を回すと、僕の姿を見た二人が手を振ってくれた。
「ライラ様、ハンナさん、お待たせしました」
「アデル様……さあ、帰りましょう」
行きとは異なり、二人は公爵家の従者達の前でもはばからずに、社内ではなく御者席に乗った。
まあ、もう別に気を遣う必要もないし、それに……。
「ライラ様……」
僕は、ライラ様の肩をそっと抱き寄せた。
グロウスター公爵の前では気丈に振舞っていたけど、ライラ様は悔しい筈、つらい筈なんだ。
だから……せめて、僕達だけでもライラ様に寄り添いたいから……。
「ふふ……アデル様、あったかいです……」
ライラ様が僕の肩に頬を寄せる。
そして。
「……少しだけ……少しだけ、この、ままで……っ!」
……ライラ様が肩を震わせながら、声を殺して……泣いた。
◇
「それでは、おやすみなさい……それと、二人共明日があるんですから、程々にしてくださいね?」
ライラ様が少しおどけながら、僕とハンナさんにそう告げる。
「お嬢様、今日はこの国で最後の夜です。せっかくですから、この三人で一緒にいませんか?」
ハンナさんが眼鏡をクイ、と持ち上げながら提案した。
「あはは、そうですよ。最後の夜は、この三人で少し夜更かしをしましょう。これからの話をたくさんしながら」
「アデル様……! ハンナ……!」
ライラ様が、顔をくしゃくしゃにしながら僕の胸に抱きついた。
「さあ……部屋に入りましょう」
僕達は、ライラ様の部屋に一緒に入る。
「うふふ……では、下に行ってお酒とおつまみでも貰ってきますね」
ハンナさんが優雅にカーテシーをすると、部屋を出て行った。
「ハンナに……申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「そんなこと、ないと思いますよ……? だって、ハンナさんも“妹”であるライラ様が気掛かりで、とても僕と二人でいられなかったと思いますし……」
それに……僕だって、ライラ様を一人にしたくなかったし……。
「ふふ……本当に、私は幸せです……」
涙ぐみながらも微笑むライラ様に、僕も微笑み返す。
「うふふ♪ お待たせしました♬」
ハンナさんがご機嫌な様子で扉を開けて部屋に戻ってきた。
右手にはワインのボトル、左手にはチーズや生ハム、それにバゲットの入ったカゴを持って。
「あ、じゃあグラス用意しますね」
僕は部屋に備え付けられているグラスを三つ取り出し、テーブルに並べる。
するとハンナさんがワインの栓を開け、グラスに注いだ。
「では、乾杯しましょう。ライラ様」
僕達はグラスを手に取ると、ライラ様に乾杯の音頭をお願いした。
「はい……二人共、これまでお疲れさまでした。今日はこのアルグレア王国で過ごす、最後の夜です」
「「…………………………」」
「この国での私達三人の過去は、決して良いものではありませんでした。ですが……この僅か数か月の間に、私達はこれ以上ない幸福を手にすることができました……」
そう言うと、ライラ様とハンナさんが僕のほうを見る。
僕も、二人を見つめた。
「私はこの幸せを、新しい地ではぐくんで行きたい。この、三人で……」
「「はい……」」
「その、私達の未来を祈念して……乾杯!」
「「乾杯!」」
僕達はグラスを掲げると、ワインを一気に呷った。
「ふふ……絶対に、幸せになりましょうね?」
「うふふ……お嬢様、きっとなります。だって」
「あはは……僕達三人、これからもずっと一緒なんですから」
僕達は、その日の夜遅くまで飲み明かした。
0
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる