機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

領主の誘い

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「さて……これでよし、と」
「ありがとうございます、アデル様」

 乗船予約を終え、港から宿に帰って来た僕達は、まずライラ様の部屋の補強を行った。

 床や壁は頑丈な作りになっているけど、さすがにベッド等の家具類は木製のままだからね……。

「うふふ、今晩はアデル様がこのベッドを利用することはありませんが?」
「……ハンナ」

 ハンナさんが勝ち誇るようにそう言うと、ライラ様がジト目で睨んだ。
 ま、まあ、今日はハンナさんの番だしね……。

「で、でしたら! 夜まではアデル様もこのお部屋で、私と一緒におくつろぎくださいませ!」

 ライラ様がベッドに座りながら、バシバシと叩いて僕に座るようにアピールする。
 あはは……まだ夕食までは時間もあるし、そうしようかな。

 そう思ってライラ様の隣に腰掛けると。

「うふふ、では私も失礼しますね」

 それに合わせ、ハンナさんも僕の隣に腰掛けた。

「……ハンナは明日の準備で忙しかったりするのではないですか?」
「大丈夫です、お嬢様。今晩に備え、必要なことは全て済ませてあります」

 ハンナさんはクイ、と眼鏡を持ち上げる。

「ぐぬぬ……ま、まあいいです。その代わり……アデル様の太ももは私がいただきます!」

 すると、ライラ様が突然ベッドに寝転がり、僕の太ももに頭を乗せた。

「そうきましたか……でしたら、私はアデル様の胸をお借りします」

 ハンナさんは少し微笑むと、僕にもたれかかって左胸に頬ずりした。

「うふふ……アデル様の胸の音が聞こえます。とくん、とくん……って」
「そ、そうですか……」
「はい……とても、心地よいです……」

 そ、それは良かったんだけど……身動きができない……。

 ——コン、コン。

「……誰か来たようですよ?」
「ハンナ、お願いします」
「申し訳ございません、お嬢様。ハンナめの身体は動けそうにありません」

 どうしよう、二人共動く気配が全くない。
 あはは……仕方ないな……。

「それでは僕が……」

 僕が腰を持ち上げようとすると、二人がグイ、と僕の服を引っ張って行かせようとしない。

「え、ええと……」
「ハンナ。あなたがワガママを言うから、アデル様が応対なさろうとしてしまったではありませんか」
「お嬢様。これも社会勉強の一環ですので、どうぞよろしくお願いします」

 ど、どうしよう、これじゃらちが明かない……。

「や、やっぱり僕が出ます!」
「「あっ!」」

 僕は二人をベッドに置き去りにして、慌てて部屋の扉を開けると、そこには執事服を着た壮年の男性が立っていた。

「は、はい。どういったご用件でしょうか?」
「はい。我が主でありますグロウスター公爵閣下より、カートレット伯爵閣下を晩餐会へご招待に参りました。これを……」

 その男性は恭しく一礼すると、手紙を僕に渡した。

「……グロウスター閣下は、どうしてライラ様を?」
「この街にせっかくお越しいただいたので、是非とも歓迎したいとのことです」

 ……確かに、この街にはカートレット伯爵家の紋章を見せて入ったし、乗船予約でもライラ様のお名前を書いている。
 そこから、僕達がこの街に来ていることを知ったのか……。

「やはり、カートレット伯爵閣下がこの街にお越しいただいているのに、何もしないとなればグロウスター公爵家の名折れでございます。どうか、お受けいただきますよう……」
「……しばらく一階のロビーでお待ちください」
「かしこまりました」

 僕は男性をこの場から追いやると、扉を閉めてライラ様の傍に寄った。

「アデル様……どういたしますか?」
「……この招待が罠である可能性も否定できません。ですが、このままでは明日の出航ができなくなるかも……」

 そう。僕達の居場所までやって来て、こんな誘いをしてきたんだ。
 僕達の船を差し止めるくらい、領主であれば簡単だろう。

 なら。

「とりあえず、グロウスター公爵の誘いに乗ってこの招待を受けてみましょう」
「っ! もし、罠だった場合は……?」
「少なくとも毒を盛られる危険については、僕の[技術者エンジニア]の能力で回避できます。であれば、あとは直接戦闘になると思いますが……」
「あは♪ であれば、問題ないですね」
「うふふ♪ その時は、一人も生かしませんよ」

 僕の言葉に、ライラ様とハンナさんがニタア、とわらった。

「とにかく……これさえ切り抜ければ、明日の今頃は海の上です。あと少し、頑張りましょう」
「「はい!」」

 僕達は早速身支度を整えると、階段を降りて玄関ロビーに出た。

「お待たせいたしました。本日はこのような恰好でお伺いすることとなってしまい、申し訳ございません」
「とんでもございません。こちらこそ、急なお誘いをしてしまいました。主に代わり、お詫び申し上げます」

 ライラ様と男性がお互い頭を下げる。

「では、参りましょう」
「はい」

 僕は鋼鉄の馬車を引いてくると、ライラ様とハンナさんが御者席に……って!?

「ラ、ライラ様! ハンナさん! 今日のところは車内にお入りください!」
「あ、そ、そうでしたね……」
「つい、いつもの癖で……」

 二人は恥ずかしそうにしながら車内へと入る。

 そして、男性が乗る馬車の後に続き、グロウスター公爵邸へと向かった。
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