機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

聖女の誤算

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■ソフィア=アルベルティーニ視点

 ——ガアンッ!

「クソッ! あの男おおおおおおおおおお!」

 アデル様が私に一瞥もせずにこの地下水路から立ち去ってしまい、私はメイスを壁に思い切り叩きつけた。

 あの男……ジャックがアデル様を蹴飛ばして穴の中に落としたばかりか、そのせいで私はアデル様の信頼を一切失ってしまった。

 信じていたものに裏切られ、唯一の救いだったアデル様にも見捨てられた……!

 私は、これからどうすれば……。

「はあ……とんだ見込み違いだったわ」

 髪の毛をくしゃ、と掻きながら、カルラが溜息と共に呆れた表情で呟く。

「……どういう意味ですか?」
「どういう意味? 決まってるでしょ。アンタの立てた計画に乗ってみたら、アデルは完全にアンタと私を見限って、ここから立ち去ってしまったわ」

 私はカルラを睨みつけて問い質すと、恨みがましい瞳でこの私をねめつけながら、吐き捨てるように言った。

「全く……エリアル達を始末したところまでは良かったけど、あのジャックって男は結局裏切るし、オマケにあんなバケモノがいるなんて想定外だし……」

 そう……そうです!
 今回のことは私の予想の範疇を超えることばかり起こったのが原因です!

 “神の眷属”があんな昆虫モドキのバケモノだなんて経典には書いてませんでしたし、何より教皇猊下は、そんなこと一言も仰っておられませんでした!

 つまり、教皇猊下ですら知らないことを、この私が分かる訳がないのです!

 そして……ジャック。
 あの男は、せっかく私がお膳立てして彼女……あのメイドとの仲を取り持ってあげるといったのに、むしろ修復不可能となるような真似をしでかすなんて……。

 あまりの怒りに、ジャックをメイスでグチャグチャにしてやろうと思ったのに、メイドが穴の中に飛び込んでしまったら、あれ程ヘラヘラしてたアイツが急に真顔で、無言のまま逃げ去ってしまったのですから……。

 ですが。

「くふ♪ ……次に出会ったら、確実に潰してやりますけどね……」
「それより、これからどうするの? アデルもさっさと出て行っちゃったし、もうなりふり構ってられないんだけど」

 シラけた表情で、カルラが私を見やる。
 ……ただの捨て駒のくせに、少々生意気ですね。

「くふ……とりあえずこんなことになった以上、一度教皇猊下にご報告と今後の方針について相談しないといけません。なので、港湾都市“ブラムス”から海路で大陸に渡り、ファルマ聖法国に戻ります」
「あ、そう。じゃ、私はここまでね」

 そう言うと、カルラは手をヒラヒラさせてここから立ち去ろうとする。

「お待ちなさい」

 そんなカルラを、私は呼び止める。
 だって、彼女にはまだ何一つ役目を果たしてもらってないから。

「……何?」
「あなたにも、ファルマ聖法国まで一緒に来てもらいますよ」
「はあ?」

 私がそう告げると、カルラは小馬鹿にするような表情で私に詰め寄ってくると。

「なんで私がアンタのお守りをしなきゃいけない訳? 私は今すぐにでもアデルのところに行って、身の潔白を証明しなきゃいけないの」
「くふ♪ 身の潔白?」

 カルラの言葉があまりにも滑稽で、私は思わずわらってしまった。
 だって……今さらこの女に、私の・・アデル様が振り向く訳がないのに。

「……何がおかしいの?」
「くふ♪ だってそうじゃないですか。今アデル様の元に行ったところで、全く話も聞いてもらえないまま、それこそあのライラさんとハンナさんに酷い目に遭わされるのがオチですよ?」

 ジロリ、と睨むカルラに向け、私はクスクスとわらう。
 とはいえ、この女はまだ私がアデル様と一緒になるために必要であるのも事実。

 だから。

「なので、この私と共に行動したほうが、あの二人を排除しつつアデル様に振り向いてもらえる機会が来る可能性は高いと思いませんか? だって、この私は[聖女セイント]なのですから」

 そう……私は[聖女セイント]。
 ファルマ聖教のシンボルにして、全ての信者を神へと導く選ばれし者。

 この私の価値は、この世界では計り知れないのです。

 なら、聡明なるアデル様ならお分かりになる筈。

 アデル様にとって、誰が必要なのか。
 アデル様にとって、誰が救ってくれるのか。

「くふ♪ どうしますか?」

 私は口の端にピン、と立てた人差し指をそっと当て、この女に問い掛ける。

「……分かったわ。今はまだ、あなたに従ってあげる」
「くふ♪ 賢明です」

 さて……この女のせいで余計な時間をくってしまいました。
 早くこの街から離れ、急いでこの国を出ないと……。

 そう考えた瞬間、私の背中に悪寒が走る。

 あのバケモノが、本当に“神の眷属”だというのなら。

「“ア=ズライク”と“ベヘ=モト”……」

 アルビオニア島を統一した時に現れたという、二つの“神の眷属”。

 ——それが現れる可能性がある、ということなのだから。
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