機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

『天国への階段』からの脱出③

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「クハ! チクショウ! 天辺てっぺんはまだかよ!」

 走りながらジャックという男が叫ぶ。
 僕の知る限り、常に飄々ひょうひょうとした態度のこの男が、今は珍しく焦りのようなものを浮かべていた。

「アデル様! 代わります!」
「ハア……す、すいません……!」

 遅れ気味だった僕を心配したライラ様に、僕は抱えているソフィア様を渡した。

「こんな……こんなのって……」

 ソフィア様は相変わらず虚ろな瞳でブツブツと呟いている。
 何とか、早く正気に戻ってもらわないと……。

「ソフィア様、聞いてください」

 僕はライラ様と並走しながら、呆けたままのソフィア様に語り掛ける。

「あなたが思い描いていた理想と程遠いこの現状に悲観されていることは分かります。信じていたものに裏切られた悲しみも。ですが……ですが、まだ僕達は生きています! だったら……今、できることを!」

 ソフィア様の瞳を見つめながら訴えかける。

 すると。

「……ですが、この私は何を信じろと……?」
「だったら僕を! 今はこの僕を信じてください! 僕が必ず、あなたをここから生還させてみせますから!」
「っ!?」

 僕の言葉を受け、ソフィア様が息を飲んだ。
 それと同時に、虚ろだった瞳に徐々に光が宿り始める。

「……アデル様、あなたがこの私を導いてくださる・・・・・・・……のですか……?」
「はい! 必ず!」

 ソフィア様の問い掛けに、僕は力強く頷く。
 彼女の言う導く・・という言葉の意味は理解できないけど……それでも、僕はこの悪夢のような状態から、みんなを救ってみせる……!

 この、[技術者エンジニア]の力で!

 すると。

「ああ……アデル様……! やはりあなたこそが、私の全てを捧げるべき御方……!」
「…………………………へ?」

 あ、あれ? ソフィア様、今度は急に恍惚こうこつな表情を浮かべ始めたぞ!?
 ま、まあ……さっきみたいな状態から戻ったんなら……。

「で、でしたら、この僕にあなたの力を貸していただけますか?」
「はい! 何なりとお申し付けください! アデル様!」
「あ、はい」

 ……こ、これはこれでマズイ状況になってしまったかも……。

 と、とにかく!

 僕は勢いよく反転し、階段の下の暗闇を見据える。

「ソフィア様……昨日、お使いいただいたあの力・・・、もう一度お願いしてもよろしいですか?」
「あ……は、はい!」

 僕の言葉の意味を理解したソフィア様は、強く頷いてくれた。

 なら……僕も遠慮しなくても大丈夫だ。

 僕はしゃがみ、階段に両手を突く。

「っ!? ア、アデル様、まさかっ!?」

 僕の意図に気づいたライラ様が、慌てて止めようとする。

 だけど……大丈夫ですよ、ライラ様。

 僕は彼女に向かって微笑むと。

「——【加工キャスト】【製作クラフト】」

 全力で[技術者エンジニア]の能力を発動し、目の前の階段を砂へと変えていく。
 さらには、手前にバケモノが乗り越えられない程の高く厚い壁も建造した。

 割れるような激痛の中、僕の顔面から血が吹き出す、その前に。

「【神の癒しキュア】」

 ソフィア様が地下水路で見せたあの能力を発動させ、あの優しい光が僕の身体を包み込んだ。

 そして。

「……これで、しばらくはバケモノも追って来れないでしょう」

 僕は暗闇の中を覗き込みながらポツリ、と呟いた。
 僕達より下には、もう階段もない。

「本当は、この穴全部を塞ぎたかったんだけど……」

 階段を砂に変えて分かった。
 僕の能力でそれをしようとしたら、最低でも四つは自分の命を差し出す必要がある、と。

 つまり……能力の限界を超えたとしても、それは不可能だということだ。

「あ、あの……アデル様……」

 ライラ様が不安そうな瞳で僕を見つめながら、おずおずと尋ねる。
 僕の身体を心配してのことだろう。

「あはは、僕の身体は大丈夫です。実は、ソフィア様の能力は、限界を超えて壊れてしまった僕の身体すら治してしまう程の力があるんです」
「ほ、本当なのですか!?」

 僕の言葉に、ライラ様が驚きの声を上げる。
 一方のソフィア様は、何故か両手を組みながら瞳をキラキラさせていた……。

「はい……ですので、僕は大丈夫です」
「あ……」

 僕はそう言ってライラ様を抱き寄せると、彼女は小さく声を漏らす。

「ですが……ご心配くださり、ありがとうございます」
「はい……」
「「「コホン!」」」

 ハンナさん、ソフィア様、カルラに盛大に咳払いをされてしまった……。

「アデル様、お嬢様。今はそんなことをしている場合ではございません。また先程のバケモノのように壁伝いで来ないとも限りませんので、急ぎましょう」
「「は、はい……」」

 少し怒った口調で苦言を呈するハンナさんに、僕とライラ様は目を伏せた。

 でも。

「あ……ふふ……」

 僕はライラ様の手を握って苦笑すると、彼女もつられて微笑んでくれた。
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