機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

愚者の窮地

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■エリアル視点

「(……お前達、ここまで来ればカルラにはもう用はない。手筈通り、俺の合図で一斉にやるぞ)」
「「「っ!?」」」

 俺の指示に、三人が一斉に息を飲む。
 だがそれも一瞬で、三人は覚悟を決めた表情になった。

 俺は口の端を吊り上げたまま、三人からも離れ、カルラと一定の距離を保つ。
 他の三人も、カルラを中心として三方向に分かれた。

 手筈としてはこうだ。

 まず、俺がたいまつをゆっくりと回すのを合図に、レジーナがカルラに見つからないように小声で魔法を詠唱し、準備が整ったらたいまつをカルラに向けて投げる。

 次に、セシルが盾を構えてカルラに突進し、それをかわそうと動いたところで、ロロがナイフを左側に投げつける。

 カルラはロロのナイフを右に躱すだろう。
 そこへ、狙い澄ましたようにレジーナが最大火力の攻撃魔法をぶつけるのだ。

 これでカルラは瀕死の状態になるだろうが……なあに、ちゃんと問題なく使えれば・・・・それでいい。
 後は、この『天国への階段』っていう皮肉のきいた場所で、カルラに天国を見せてやろう。

 ……色々・・と、な。

 三人が配置に就き終わったのを確認し、俺はたいまつをグルグルと回す。
 すると、レジーナが強く頷き、その場でジッと立っている。恐らく魔法詠唱しているのだろう。

 そして……レジーナがカルラに向かってたいまつを投げた。

「「シッ!」」

 それを合図に、セシルとロロがカルラに向かって一斉に飛び出す。
 セシルは前面に盾を構え、ロロは両手にナイフを持った。

「……へえ」

 そんな中、カルラはゆっくりとした動作で剣を鞘から抜く。

 セシルがカルラと肉薄する、その時。

 ——ガキン!

「なっ!?」

 カルラは思い切りセシルの盾に剣を叩きつけると、セシルの身体が泳いでその突進を逸らされた。
 その結果、セシルはカルラに無防備な背中をさらけ出す。

 ——ザク。

「ああああああああああっ!?」

 セシルは悲鳴を上げてその場で倒れ込む。

「っ!? コノ! くらえーっ!」

 一瞬目を見開いたロロだったが、すぐにカルラに向かって二本のナイフを投げつけた。

 だけど。

「あっ!?」

 カルラはそのナイフを剣で簡単に弾くと、一気にロロに詰め寄る。

「……馬鹿ね」
「あうっ!?」

 剣の柄でカルラに首元を殴られ、腹ばいで床に打ちつけられた。

「フン! 終わりよ! 【風刃ウインドエッジ……「させねえよ」……え!? キャアアアアアアアアア!?」

 レジーナが【風刃ウインドエッジ】を発動させようとした瞬間、突然暗闇から長身の男が現れ、ナイフでレジーナを切りつけた!?

「クハ! 殺さねえように手加減して切るってのは難しいな、オイ!」
「……しょうがないでしょ? まだコイツ等にはやってもらうことがあるんだから」
ちげえねえ」

 カルラが冷たい視線でレジーナを見ながらそう言うと、長身の男はケタケタとわらう。

 というか、何が一体どうなってるんだ!?

「クハハ! このバカ、まだ分かってねえみてえだぜ!」
「……仕方ないわ。最近は自慢の剣を振らずに、下の粗末な剣ばかり振ってるんだもの」
「クハハハハハハハハハハ!」

 余程面白かったのか、男が大声で笑いながら腹を抱えて床に転げまわった。

「さて……それで? 私を襲った理由は……って、どうせここでの手柄を自分だけのものにして、私は不慮の事故で死亡ってところかしら?」

 カルラは剣の切っ先を俺の眉間に合わせ、こちらへゆっくりと歩いてくる。

「クハ! その前にオマエとよろしくヤル・・つもりだったんじゃねえの?」
「ハア……まあ、多分そうよね……」

 男の言葉に、カルラが溜息を吐く。

 そして、とうとう剣の先が俺の目と鼻の先に来た。

「ま、待て! カルラ! お前は誤解しているぞ!?」
「誤解?」
「そ、そうだ! 俺が仲間のお前を襲ったりする筈がないだろ!? おお、俺も驚いたよ! まさかレジーナ達がお前を襲おうとするなんて!」

 俺は手を前に出して愛想笑いしつつ、じりじりと後ろへと下がる。

「……そうなの?」

 カルラが怪訝けげんな表情を浮かべつつも、その剣の切っ先をス、と下ろす。

「あ、ああ、そうだとも! ただ、まさかみんながそこまでカルラと溝があったなんて……俺自身も驚いてるよ……」

 言い逃れするならここしかないと思った俺は、カルラに必死で弁明する。

 まだだ……まだもう少し、距離をとれば……!

「こ、今回の件は俺からみんなに言い聞かせてカルラに謝罪させる……だからカルラ……みんなを許してやってくれ……」
「…………………………」

 ——ここだっ!

「俺達……仲まっ!?」

 後ろに飛び退いて剣の柄を握ろうとした瞬間、突然後頭部に衝撃が走り……目の前が真っ暗になった。

 ◇

「……………………なさい」

 ん……誰かが何か言ってる……?

「起きなさい」
「グハッ!?」

 突然腹に衝撃が走り、俺は慌てて目を開ける。

「ふう……本当にグズね」
「カ、カルラ……?」

 目の前には、残念なものでも見るかのような表情で見下ろすカルラがいた。

「え……? え……!?」

 というか俺……なんで縛られてるんだ!?
 状況が分からず困惑しながら両隣りを見ると、同じようにレジーナ達も縛られて座っていた。

「さて……アンタ達は“レッドキャップ”を撃退したこの私に不意打ちしてきた訳だけど……何か言うことある?」
「い、いや……というかその“レッドキャップ”とは何なんだ!?」
「……アンタ達も見たでしょ? 階段で私達を襲ってきた、国王直属の暗殺部隊よ」
「「「「はあ!?」」」」

 カルラから返って来た答えに、俺達は悲鳴に似た声を上げる。
 な、何だって俺達が国王陛下に狙われたんだ!?

「……当然でしょ? この『天国への階段』って場所は、それ程ヤバイところなの……ねえ? “ジャック”」
「クハ! ま、そうだな」

 “ジャック”と呼ばれた男は、カルラの問い掛けにニヤニヤしながら頷いた。

「お、お前……この男と知り合いなのか……?」
「知り合い……というか、お互い協力関係にあるってだけよ」
「クハハ、ちげえねえ」

 い、いつの間にこんな男と知り合いに……?

「まあ、そんなことは置いといて、私を襲ってきたアンタ達を殺さずに、こうやってまだ生かしてる理由……何だか分かる?」
「い、いや……」

 無表情で尋ねるカルラに、俺はかぶりを振った。

 すると。

「んふ♪ 簡単よ、アンタ達に手伝って欲しいことがあるの。もちろん協力してくれるわよね?」

 カルラはニタア、と口の端を吊り上げ、今まで見たことのないような表情でわらった。

「あ、もちろん嫌だなんて言わせないわよ? だって、アンタがそそのかしたせいで、私はアデルに拒絶されてしまったんだもの」
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