機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第五章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 後編

愚者の愚策

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■エリアル視点

「クソッ……一体どこまであるんだよ……!」

 俺は『天国への階段』を降りる中、壁をドン、と拳で叩いて悪態を吐いた。

 もう、時間にして丸一日は潜っている筈。
 だが、階段はまだまだ続いており、一向に終点が見えてこない。

「ハア……ハア……」

 先頭を歩くセシルの息遣いが荒い。
 それもそうだろう。[騎士ナイト]のセシルは、パーティーの中でも一番重装備だからな。

 とはいえ。

「ふう……」
「ううー……まだかなあ……」
「…………………………」

 レジーナとロロからも、疲れの色がうかがえる。
 平気そうなのは、『天国への階段』に入ってから終始無言のカルラくらいだ。

「……エリアル、すまないがここで一旦休憩を……「駄目だ」」

 疲労困憊こんぱいのセシルが泣きそうな表情で懇願するが、俺は即座に拒否した。

「考えてもみろ。ソフィア様とあの連中は、出し抜かれたたことに気づいて今頃俺達を必死で追っている筈だ。ここで休んだせいで、追いつかれでもしたらどうするんだ」
「だ、だけど、あの領主だって手脚にあんなに重そうな甲冑つけてるでしょ? だったら、むしろ私達よりも階段を降りる速度は遅いんじゃない?」

 今度はレジーナがセシルを擁護するようにそう話す。

「お前達は分からないのか? あの小娘は、あれ程重い甲冑を装備していながら、平気で俺達と一緒にモーカムの街への移動や地下水路を探索していたんだぞ?」
「あ……」

 フン……ここまで言わないと分からないのか、このバカ女は。

「……確かに、エリアルの言う通りよ。一番下まで行って何かを見つけてからでないと、あのソフィア様にも言い訳ができないし、その前に追いつかれでもしたら、それこそ大変なことになる恐れだってあるのよ?」

 カルラが澄ました表情で俺の意見に同調する。

「そういうことだ。なあに……ここまで降りてきたんだ、穴の底はもうすぐの筈さ」

 俺は少しでも気を紛らわすために、わざとおどけてそう言った。

「そ、そうだな……余計なことを言ってすまなかった……」
「わ、私も……ゴメン……」
「分かればいい。さあ、頑張ろう!」

 謝る二人にねぎらいの言葉を掛けると、その表情に笑みが浮かんだ。

 ハア……面倒くさい。

 その時。

 ——ヒュッ。

「っ!?」

 俺達の後ろから何かが飛んできて、俺の頬を掠めた!?

 俺はそっと頬を撫でると……血!?

「まさかっ!?」

 俺は叫びながら後ろを振り向くと……子どものような背格好をした赤い帽子の連中が現れた。
 その数……軽く二桁はいるぞ!?

「っ! みんな! 急いで階段を駆け下りろ!」
「「「「っ!?」」」」

 俺の叫び声と共に、レジーナ達が困惑した表情を浮かべながら階段を全力で駆け下りて行く。

 そんな中。

「っ!? カルラ!?」
「……ここは私が食い止めるから、あなた達は先に逃げて」

 カルラは階段の真ん中で仁王立ちになると、ゆっくりと剣を鞘から抜いた。

 そして。

 ——ズシュ。

「ギギャ!?」

 紅い帽子の連中の一体に剣を突き刺した。

「早く!」
「っ! 分かった!」

 俺はきびすを返すと、レジーナ達の後を追って階段を駆ける。

 ……味見・・もしないまま見殺しにするのは惜しい気もするが、命あっての物種だ。
 それにあの連中、どう見たってまとも・・・じゃない。

 まあ、カルラ自身が俺に先に行けと言ったんだ。これ以上気にすることはない、か。

 俺は後ろを振り返りもせずに走ると、レジーナ達にはすぐに追いついた。

「っ! エリアル!」
「さあ! 急ぐぞ!」
「「「うん!」」」

 俺達は階段を駆け下り、後ろから聞こえるカルラの剣撃の音が小さくなっていく。

 そして、俺達の足音以外何も聞こえなくなり……。

「っ!」

 とうとう、長く続いた階段の終わりが俺達の眼前に現れた。

「みんな! あの変な連中がいつ降りてくるか分からん! ここで迎え撃つぞ!」
「「「うん!」」」

 俺は剣を抜き、正眼の構えを取る。
 セシルは盾、ロロはナイフ、レジーナは杖を構えながら集中した。

「「「「…………………………」」」」

 緊張した空気の中、額から一筋の汗が流れる。

 たとえ[剣聖ソードマスター]のカルラだとしても、あれだけの連中を相手に太刀打ちできるとは思えない。
 恐らくは、今頃……。

 すると。

 ——コツ、コツ。

「「「「っ!?」」」」

 全身の身体が強張る。

 とうとう来たか……!

 階段を降りる足音が近づき、ぼんやりとその姿が現れてくる。

「っ! レジーナ! 魔法の詠唱を始めろ!」
「わ、分かった!」

 レジーナが集中しながら詠唱を開始し、彼女を囲むように俺達は陣形を組む。

「……待って、私よ」
「その声……カルラか?」

 さらに近づいてその姿がハッキリと見える。
 それは確かにカルラだった。

「カルラ! 無事だったか!」
「「「カルラ!」」」

 俺達はカルラの元へと駆け寄ると、彼女は全身にあの連中の返り血を浴びていた。

「連中は……?」
「全員殺したわ」

 カルラは無表情のまま、事もなげに話す。
 その姿に、声に、俺は思わずゾッとしてしまった。

「そうか……ご苦労だった」
「ええ……ところで、ここが『天国への階段』の一番下、なの……?」
「ああ、どうやらそうみたいだな」

 そう告げると、カルラは辺りを見回すが、暗闇のせいでほぼ周りを見ることはできない。

「で、何か見つかった?」
「いや、俺達もここにたどり着いた後、あの連中が来ることを警戒して、ここで待ち構えていただけだからな」
「そう」

 俺の話を聞くと、興味を失くしたかのようにカルラはプイ、と顔を背けた。

「……それじゃ、何があるかみんなで手分けして探そう」
「本気? さっきみたいな連中がまた現れないとも限らなのよ?」

 どうやら俺の指示が納得できないのか、カルラが反対の姿勢を示す。

「階段のような狭いところじゃなくて、これだけ広くて平坦な場所なら、この“黄金の旋風”がやられる訳がない。それに、カルラだっているしな」
「…………………………」
「という訳で、期待してるぞ」

 俺はカルラの肩をポン、と叩くと、きびすを返して彼女から離れた。

「(……お前達、ここまで来ればカルラにはもう用はない。手筈通り、俺の合図で一斉にやるぞ)」
「「「っ!?」」」

 三人に小声で指示すると、俺は口の端を吊り上げた。
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