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第四章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 前編
求め合う二人
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「あ……アデル様」
「え? ハンナさん?」
納屋へとやって来ると、そこには馬車を眺めているハンナさんが立っていた。
「ええと、こんな夜更けにどうしたんですか?」
「いえ……少し眠れなかったので、敷地内の見回りでもと思いまして……」
僕が尋ねると、ハンナさんが少し苦笑した。
「あはは、でしたら僕と同じですね。実は僕も寝つけなくて、だったらいざという時のために馬車の点検だったり必要な物でも積み込んでおこうかと思いまして」
「あ、でしたら私もお手伝いいたします」
「いいんですか?」
「はい」
ハンナさんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな……。
「では、よろしくお願いします」
「はい!」
ハンナさんが元気よく返事する。
だけど……僕としても手伝ってもらえると助かるし、それに……。
僕はチラリ、とハンナさんの表情を窺うと……うん、ニコニコしながら僕を見ている。
……やっぱり、ハンナさんと二人で一緒にいるのは、すごく嬉しい。
「? アデル様?」
「あ、ああいえ、では取りかかりましょうか」
おっと、ハンナさんをジッと見過ぎた。
さ、さあ、作業に取りかかろう。
僕はハンナさんに素材の積み込みをお願いした。
鉄、ミスリル、魔石、様々な属性の魔法陣、そのほか保存食や水なんかも。
僕も馬車の点検を手早く済ませると、ハンナさんと一緒に積み込みをした。
「あ、重い物は僕が運びますから」
「うふふ、大丈夫ですよ。こう見えて私、力は結構あるほうですから」
そう言うと、ハンナさんはムン、と力こぶを作る仕草をした。
「ですが、ここは少しだけ僕に花を持たせてくれると嬉しいですね」
「うふふ……ではアデル様、お願いします」
「はい」
僕はハンナさんに代わって鉄など重い物を中心に運び込む。
「……ですけどアデル様。食料や水はともかく、どうしてこういった素材も積み込むのでしょうか?」
僕が鉄の入った木箱をドン、と馬車の荷台に置くと、ハンナさんが木箱をしげしげと眺めながら尋ねる。
「はい……万が一この街を脱出したとして、その後に素材を調達できるとは限りませんから。特に、魔石や魔法陣に関しては」
「成程……ということは、アデル様は少なくともそのような事態が起こり得る、と考えていらっしゃるのですか?」
ハンナさんは、少し緊張した面持ちで問い掛ける。
確かに、明日『天国への階段』の調査に向かうタイミングでこんなことしたら、不安になるのも無理はないよね……。
「いえ、そこまで考えている訳じゃないんです。ただ……」
「……ただ?」
「なんだか、妙に胸騒ぎがするんです……あの『天国への階段』を一目見た時から……」
僕は、ハンナさんに素直に心境を吐露する。
本当は、ハンナさんを不安にさせないようにしないといけないんだろうけど……何故か僕は、逆にちゃんと告げなかったほうが後々大変なことになるんじゃないかという直感が働いたんだ。
すると。
「……実は私も同じなんです」
「ハンナさんも?」
「はい……あの場所に足を踏み入れた瞬間、寒気を覚えてしまったんです。寝つけないのも、それが原因かと……」
そうか……ハンナさんも……。
「あ……アデル様……」
僕は、思わずハンナさんを抱き締める。
ハンナさんの不安を少しでもかき消したくて……僕の中から湧き上がる不安を抑え込みたくて……。
「ハンナさん……絶対に、無事に帰りましょう。三人一緒に……」
僕はハンナさんの耳元で、決意を込めてささやく。
「アデル様……約束、ですよ……?」
「はい……約束、です……」
「……でしたら、このハンナに誓ってくださいませ」
ハンナさんの瞳が、僕の瞳を見つめる。
だから。
「あ……ん……」
僕は、ハンナさんとそっと口づけを交わす。
「ん……ちゅ……」
そして、僕はそっと唇を離した。
「これは……ハンナさんへの誓いの証、です」
「アデル様……!」
ハンナさんの瞳から涙が溢れ、僕を強く抱き締めた。
「はい……はい……! 私も誓います! 必ず生きて帰って、またあなたの傍にいると……!」
「ハンナさん……!」
「んう……ちゅ……ちゅく……」
蝋燭の炎が優しく灯る中、僕達はただ、互いに愛しい人を求め合った。
「え? ハンナさん?」
納屋へとやって来ると、そこには馬車を眺めているハンナさんが立っていた。
「ええと、こんな夜更けにどうしたんですか?」
「いえ……少し眠れなかったので、敷地内の見回りでもと思いまして……」
僕が尋ねると、ハンナさんが少し苦笑した。
「あはは、でしたら僕と同じですね。実は僕も寝つけなくて、だったらいざという時のために馬車の点検だったり必要な物でも積み込んでおこうかと思いまして」
「あ、でしたら私もお手伝いいたします」
「いいんですか?」
「はい」
ハンナさんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えようかな……。
「では、よろしくお願いします」
「はい!」
ハンナさんが元気よく返事する。
だけど……僕としても手伝ってもらえると助かるし、それに……。
僕はチラリ、とハンナさんの表情を窺うと……うん、ニコニコしながら僕を見ている。
……やっぱり、ハンナさんと二人で一緒にいるのは、すごく嬉しい。
「? アデル様?」
「あ、ああいえ、では取りかかりましょうか」
おっと、ハンナさんをジッと見過ぎた。
さ、さあ、作業に取りかかろう。
僕はハンナさんに素材の積み込みをお願いした。
鉄、ミスリル、魔石、様々な属性の魔法陣、そのほか保存食や水なんかも。
僕も馬車の点検を手早く済ませると、ハンナさんと一緒に積み込みをした。
「あ、重い物は僕が運びますから」
「うふふ、大丈夫ですよ。こう見えて私、力は結構あるほうですから」
そう言うと、ハンナさんはムン、と力こぶを作る仕草をした。
「ですが、ここは少しだけ僕に花を持たせてくれると嬉しいですね」
「うふふ……ではアデル様、お願いします」
「はい」
僕はハンナさんに代わって鉄など重い物を中心に運び込む。
「……ですけどアデル様。食料や水はともかく、どうしてこういった素材も積み込むのでしょうか?」
僕が鉄の入った木箱をドン、と馬車の荷台に置くと、ハンナさんが木箱をしげしげと眺めながら尋ねる。
「はい……万が一この街を脱出したとして、その後に素材を調達できるとは限りませんから。特に、魔石や魔法陣に関しては」
「成程……ということは、アデル様は少なくともそのような事態が起こり得る、と考えていらっしゃるのですか?」
ハンナさんは、少し緊張した面持ちで問い掛ける。
確かに、明日『天国への階段』の調査に向かうタイミングでこんなことしたら、不安になるのも無理はないよね……。
「いえ、そこまで考えている訳じゃないんです。ただ……」
「……ただ?」
「なんだか、妙に胸騒ぎがするんです……あの『天国への階段』を一目見た時から……」
僕は、ハンナさんに素直に心境を吐露する。
本当は、ハンナさんを不安にさせないようにしないといけないんだろうけど……何故か僕は、逆にちゃんと告げなかったほうが後々大変なことになるんじゃないかという直感が働いたんだ。
すると。
「……実は私も同じなんです」
「ハンナさんも?」
「はい……あの場所に足を踏み入れた瞬間、寒気を覚えてしまったんです。寝つけないのも、それが原因かと……」
そうか……ハンナさんも……。
「あ……アデル様……」
僕は、思わずハンナさんを抱き締める。
ハンナさんの不安を少しでもかき消したくて……僕の中から湧き上がる不安を抑え込みたくて……。
「ハンナさん……絶対に、無事に帰りましょう。三人一緒に……」
僕はハンナさんの耳元で、決意を込めてささやく。
「アデル様……約束、ですよ……?」
「はい……約束、です……」
「……でしたら、このハンナに誓ってくださいませ」
ハンナさんの瞳が、僕の瞳を見つめる。
だから。
「あ……ん……」
僕は、ハンナさんとそっと口づけを交わす。
「ん……ちゅ……」
そして、僕はそっと唇を離した。
「これは……ハンナさんへの誓いの証、です」
「アデル様……!」
ハンナさんの瞳から涙が溢れ、僕を強く抱き締めた。
「はい……はい……! 私も誓います! 必ず生きて帰って、またあなたの傍にいると……!」
「ハンナさん……!」
「んう……ちゅ……ちゅく……」
蝋燭の炎が優しく灯る中、僕達はただ、互いに愛しい人を求め合った。
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