機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
102 / 146
第四章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 前編

地下水路探索⑥

しおりを挟む
「……私も行くわ」

 意外にも立候補したカルラに、僕は少し驚いてしまう。
 さっきのこともあるから、僕達と一緒にいるのはつらい筈なのに……。

「カルラ……本当にいいの……?」
「……(コクリ)」

 僕は念のためもう一度尋ねると、カルラは無言で首を縦に振った。
 だったら、僕からこれ以上言うことはない、か……。

「分かった、じゃあこの四人でいこう。ではソフィア様はここでお待ちいただいてもよろしいですか?」
「はい。どうぞよろしくお願いします」

 ソフィア様が深々と頭を下げる。
 一方で、エリアル達は僕達に一瞥もくれずにメンバー同士で談笑していた。

 なので、僕はソフィア様にそっと顔を寄せる

「(……大丈夫だとは思いますが、何かありましたら僕達のいる上流へ向けて走って逃げながら大声を出してください。すぐに駆けつけますから)」
「ふふ、分かりました。お気遣い、ありがとうございます」

 そう耳打ちすると、ソフィア様が微笑んだ。
 ……おっとエリアルの奴、僕達の様子を目聡く見ていたのか顔をしかめてるな。

「あはは、では行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」

 僕は笑顔で手を振りながらソフィア様と別れると、彼女も同じく笑顔で手を振り返してくれた。

「「…………………………」」

 ええと……ライラ様とハンナさんが、何故かジト目で睨んでくるんでくるんですが……。

「……本当に、アデル様は無自覚でああいうことをするんですから……(ポツリ)」
「……全くです。お陰で気が抜けなくて困ります……(ボソリ)」

 うん……聞かなかったことにしよう。

「アデル、早く行くわよ」
「あ、ああ……ゴメン……」

 無表情のカルラに促され、僕は慌てて彼女の後について行く。
 だけど……やっぱりカルラも機嫌が悪そうだ。

 少しギスギスした空気の中、僕達は上流へとさかのぼって水門を目指した。

 ◇

「……ない、ですね」

 上流へとさかのぼり、とうとう行き止まりの地点まで来た僕達だけど、水を流れ出る口があるだけで肝心の水門がなかった。

「アデル様、どうしますか……?」

 ライラ様がおずおずと尋ねる。

「うーん……ここがただの水路だったら、水路そのものを【加工】や【製作】をしてせき止めてしまうんですが……」

 だけど、そうするためには能力の限界を超えないといけない訳で……たったそんなことのために命を削る訳にはいかない。

「……仕方ない」

 僕は装備やカバンを外し、上着を脱ぐ。

「「ア、アデル様!?」」

 上半身が裸になったところで、顔を赤くしたライラ様とハンナさんが僕の名を大声で呼びながら凝視していた。
 あ、あんまり見られると、恥ずかしいんだけどなあ……。

「ど、どうされるおつもりなのですか?」
「あ、はい。この水が出ている口の向こうへ抜けて、その先に水門かもしくは外に出られないか確認してきます」

 心配そうに声を掛けたハンナさんに答えると、僕は水の中に入った。
 い、意外と冷たいな……。

「では、行ってきま……「待って、私も行くわ」」

 そう告げて息を吸い込もうとした瞬間、カルラが同行を申し出た。

「い、いや、僕一人で大丈夫だよ」
「……何かあった時、誰かを呼ぶにしても一人より二人のほうがいいでしょう?」

 僕は断ろうとするが、カルラはお構いなしに装備と服を脱ぎだす。

「……なによ、別に見慣れてるじゃない」
「い、いや……」

 肌着はつけたままではいるものの、露出されたカルラの綺麗な胸や肌に思わず見とれてしまった。
 ま、まあ、久しぶりに見たんだからしょうがないよね……。

 反対に、ライラ様は白銀の拳を握りしめ、ハンナさんは唇を噛み締めていた。

「……行こうか、カルラ」
「ええ」

 僕は、そんな二人に気づかないふりをして、大きく息を吸い込んだ後、カルラと一緒に水の中へと潜った。

 水の流れに逆らい、水が出ている口の向こう側へと抜ける。

 上に天井のようなものが見えるが、どうだ……?
 僕は上へと浮上して触って確認すると、水路とは別の感触だった。

 試しに【加工キャスト】を発動してみると、天井はすんなりと砂に変化した。

 うん、これならいけそうだ。

 僕はカルラを手招きして傍に寄せると、天井を砂に変化させ、上へと穴を開けていく。
 すると、僕達は下からの水の圧力で上へと押し上げられていき、そして。

「ここは……街の外か……」

 キョロキョロと辺りを見回すと、少し離れたところに街の北門が見えた。
 となると、ここの水源は街外れにある川か。

「アデル」

 先に地面へと上がったカルラが、微笑みながら手を差し出した。

「ああ、ありがとう」

 僕はその手を取ると、カルラが僕を引っ張り上げる。

 その時。

「っ!?」
「ん……ちゅ……」

 突然、カルラにキスをされてしまった。

「ぷは……カ、カルラ……!?」

 僕はすぐに唇を離し、困惑しながらカルラの名を呼んだ。

「んふ……以前はよくキスしたじゃない」
「それは僕が追放される前の話だろう……どうしてこんなことを……?」

 僕はクスクスと笑うカルラを少しだけ非難しながら尋ねる。
 ……その唇の感触に懐かしさを覚えたのも事実、ではあるけど。

「決まっているわ……私は、あなたのことが好きだもの」

 一転して真剣な表情になったカルラは、まっすぐ僕を見つめながらそう答えた。

「……言った筈だよ。僕達は、もう終わったんだ」
「……ええ、分かってる……分かってるわよ」

 もう一度、突き放すようにあの時と同じ言葉をカルラに告げると、カルラは愁いを帯びた表情でそっと瞳を逸らした。

 でもそれは一瞬で、また僕の瞳をジッと見つめる。

 そして。

「だから……また、一から始めるの。アデルとの関係を」
「っ!?」

 カルラの言葉に、僕は息を飲んだ。

「カルラ、君も理解してるだろう? 僕にはライラ様とハンナさんが全てだって」
「ええ、理解しているわ」
「だったら……」
「だからって、私にとってそれがあなたを諦める理由にはならないもの」

 ……僕が何を告げても、カルラはまるで聞く耳を持たない。
 昔から、こうと決めたらてこ・・でも動かないところは相変わらず、だな……。

「……無駄だと思うよ?」
「いいの……私が、諦めたくないだけだから……」

 カルラは決意に満ちた瞳で、そう……告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...