機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第四章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 前編

街の由来

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「本当に、申し訳ありませんでした……」

 屋敷の応接室に入るなり、ソフィア様が僕に深々と頭を下げて謝罪する。

「い、いえ……その……ソフィア様が何かした訳ではありませんし、それに、ソフィア様は僕達と“黄金の旋風”との因縁もご存じないでしょうから……」
「で、ですが! ……アデル様にこのような嫌な思いをさせてしまい……」

 僕は取り繕うようにソフィア様そう言うが、彼女は勢いよく顔を上げたかと思うと、すぐにうれいを帯びた表情を浮かべ、そっと顔を逸らす。

「ソフィア様、あなたのご心配には及びません。アデル様には、この私とハンナがおりますから」

 ライラ様は胸に白銀の手を当て、ソフィア様に静かに告げる。
 その右の瞳に、絶対に譲らないとの意思を込めながら。

「そうですか」

 そんなライラ様の様子を感じ取ったのか、ソフィア様は少し表情を硬くした。

「それよりも、立ち話もなんですから、まずはどうぞこちらにお掛けください」
「ええ、そうですね」

 ライラ様が席へと案内すると、ソフィア様は無表情で形式だけの会釈をしてソファーに腰掛けた。

「それで……いただいた書状には、このアイザックの街の調査に来られたとのことですが……」
「はい。既にご連絡差し上げた通り、このアイザックの街に我がファルマ聖教の主神ファルマに関する建造物があることが分かりました。カートレット卿には、その調査へのご協力をお願いしたいのです」

 ライラ様が早速本題を尋ねると、ソフィア様はあの書状にあった通りの内容を淡々と説明した。

「それは構わないのですが、その……この街に、ソフィア様やファルマ聖法国がお探しのようなものはないと思われますが……」

 ライラ様がそう言うと、僕とハンナさんをチラリ、と見た。
 そして、僕達はその視線にゆっくりと頷く。

 実際、あの書状を見た後、僕達もこのアイザックの街をくまなく調査してみた。
 だけど、やはり宗教絡みのものというと街の中央にある教会くらいのもので、到底そんなものがあるとは思えない。

「? カートレット卿はご存じないのですか……?」
「「「はい?」」」

 ライラ様の答えが意外だったのか、ソフィア様はキョトンとしながらそう呟いた。
 で、僕達も訳が分からず、思わず聞き返してしまった。

「このアイザックの街は、アルグレア王国建国の祖、“アイザック=フォン=アルグレア”がその覇道の第一歩となった地ですよ?」
「え、ええ……それは承知しておりますが……」
「そして彼は、ファルマ聖教の敬虔な使徒でもありました。そんな彼は、このアイザックの街からアルビオニア島の統一を主神ファルマに報告に向かったのです」

 そう言うと、ソフィア様が一拍置いてそっと目を閉じ、そして。

「……“神の住まう地”へと至る、『天国への階段』を上って」
「天国への……階段……?」

 ライラ様が呟くと、ソフィア様がコクリ、と頷いた。

「はい。彼は“神の住まう地”から報告を終えて帰還すると、第一の盟友、“ハリソン=カートレット”をこの地に封じました。未来永劫、『天国への階段』を守護するようにと命じて」

 ソフィア様の言葉を聞き、僕は唾を飲み込む。

「その……『天国への階段』というのがこの街にある、と……?」
「はい。それは、継承者であるカートレット卿はご存知である筈なのですが……」

 僕の問い掛けにそう答えると、ソフィア様はチラリ、とライラ様を見た。

「あ……ソフィア様はファルマ聖法国からお越しですので、事情を知らないとは思うのですが……実は……」

 ライラ様は少し言い淀むが、自身に起きたことをソフィア様に伝えた。

 賊に襲われ、両親は他界してしまったこと。
 ライラ様自身も心身ともに傷ついてしまったこと。
 叔父であるジェイコブがカートレット家を簒奪しようと画策していたこと。

 ……それら全て、王国が暗躍していたこと。

「……そんなこともあり、バタバタのうちに私がこのカートレット家を継承したので、そういった歴史も含め、両親からは聞いていないのです……」
「そうでしたか……」

 ソフィア様は瞳に憐憫れんびんの情をたたえ、ライラ様を見つめる。

「……そのような事情とは知らず、無神経なことをお聞きしてしまい、申し訳ありません……」
「あ、い、いえ……今はもう、大分その傷も癒えましたから……」

 深々と頭を下げるソフィア様にそう言うと、ライラ様が僕を見やった後、その胸をそっと手で押さえて目を瞑る。

 ライラ様……。

「……ソフィア様のお話は分かりました。そういうことでしたら亡き父の書斎に何かしらの手掛かりがあるかもしれませんので、まずはそこから確認してみようと思います」
「! ありがとうございます!」

 ソフィア様は笑顔を浮かべ、ライラ様の白銀の手を取った。

「あ……そう言えば、カートレット卿は屋敷の中でも甲冑をまとっていらっしゃるのですか……?」

 白銀の手を不思議そうに撫でながら、ライラ様に尋ねた。
 すると、ライラ様の右の瞳に困惑の色が浮かび、どう答えたものかと僕に視線を送る。

 僕は、そんなライラ様に静かに頷いた。
 その手脚についても、語ってもよいとの意味を込めて。

「……これは、賊の襲撃によって失った両腕と両脚をアデル様がそのお力で作ってくださったのです……このように白銀に輝く翼を」

 ライラ様は愛おしそうに自分の手を見つめる。

「! す、素晴らしい! アデル様はやはり・・・神と同じ力をお持ちなのですね!」
「うわ!?」

 ライラ様の言葉を聞いたソフィア様が最高の笑顔を見せたかと思うと、勢いよく立ち上がって僕の手を握ったので、僕は思わず面を食らってしまった。

「ああ……アデル様……!」
「え、ええと……!?」

 な、何だかソフィア様、息づかいも荒いし、目が据わってる!?

「コホン……ソフィア様、アデル様は私の侍従ですので、これ以上はおやめください」

 ライラ様は冷静を装いながら、僕とソフィア様をグイ、と引きがした。
 表情は変わらないけど、その右の瞳には怒りがにじみ出ていた。

「ソフィア様、先代伯爵様の書斎へご案内いたします」
「はうう……はい……」

 凍えそうなほどの微笑みを浮かべたハンナさんが、一礼しながらソフィア様に席を立つよう促す。
 ソフィア様はすごく残念そうにしながらも、渋々、ハンナさんの指示通り部屋を出るため歩を進めた。

 そんな彼女に、僕は。

「……ところで、ソフィア様はこの国のことにお詳しいのですね。ファルマ聖法国は海の向こうの、さらに先にある国ですのに」
「……うふふ、主神ファルマの教義を全て体現されている教皇猊下にお教えいただいたのです。そして私も、今回の調査で少しでも近づければ、と考えております」
「そうですか……」

 探りを入れるためにソフィア様に尋ねてみたものの、彼女はそう言って微笑みながら会釈するだけだった。
 ……でも、どこか引っかかる……。

 僕はそのままライラ様の後に続いて部屋を出るソフィア様を眺める。

 すると。

「…………………………くふ♪」

 ほんの一瞬、ソフィア様が口の端を持ち上げ、笑みをこぼした。
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