機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ

地下に潜む子ども達

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「うふふ、大丈夫よ。私達は少しお話ししたいだけだから……」

 僕とライラ様の前にス、と出ると、ハンナさんが優しく微笑んだ。

「嘘だ! 大人なんか、ウチの家族・・に手を出すクズだ!」

 警戒を一切解こうとしない子どもは、ハンナさんに向かって悪し様に罵った。
 だけど……何だか様子がおかしくないか?

 俺は子どもに声を掛けようとすると……何故か、ライラ様に制止された。

「(ここは、ハンナに任せましょう)」

 僕の傍に寄り、ライラ様が小声で耳打ちした。
 ……ライラ様の言う通りハンナさんを見守ることにしよう。
 ハンナさんにも、何か思惑があるのかもしれないし。

「……あなた達、誰かに追われてる・・・・・んでしょう?」
「「「「「っ!?」」」」」

 ハンナさんが子ども達に向かって静かにそう告げると、子ども達が息を飲んだ。
 だけど、追っているのは僕達……ではない連中がいる、ってこと?

「その辺りのこと教えてくれたら、あなたが盗んだこちらのアデル様のお金、全部あげますよ?」
「「「ホ、ホントに!?」」」

 ハンナさんの言葉に、子ども達の数人が色めき立つ。
 そしてハンナさんはといえば、僕をチラリ、と見て少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「っ! みんな騙されるな! これがアイツ等の手口だろ!」
「「「う……」」」

 あの子どもにたしなめられ、子ども達はシュン、としてしまった。
 やっぱり、僕のお金を盗んだあの子どもがリーダーみたいだ。

「うふふ、安心して? 私はあなた達を攫ったり・・・・しませんから」
「「「「「っ!?」」」」」

 ハンナさんの言葉に、子ども達は一斉に目を見開いた。
 だけど……攫う・・って、どういうこと……?

「ほ、本当にウチ達を攫ったりしない……?」

 リーダーの子どもが、恐る恐る尋ねる。

「ええ、そんなことしませんよ?」

 ハンナさんのその一言で、子ども達の表情がぱあ、と明るくなった。
 そしてそれは、どこか安堵しているような、そんな印象を受けた。

「ア、アデル様、その……勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした……」

 するとハンナさんは、今度は僕の傍に来て深々と頭を下げて謝罪した。
 その様子は、まるで叱られるのが怖くて怯える子犬のように感じた。

「あはは、僕は全然大丈夫ですよ。それよりも、そんな謝られ方されたら、何だか僕がハンナさんにいつも怒っているみたいじゃないですか……少しショックかなあ……」
「っ!? そ、そんなことはございません!」

 僕は少しハンナさんを揶揄からかいたくなって、わざとそんなことを言ってみると、ハンナさんが慌てて否定した。

 そんなハンナさんが僕は可愛くなってしまって。

「あはは! 冗談、ですよ?」
「あ……も、もう! アデル様は意地悪です!」

 僕がおどけながらハンナさんの頭を優しく撫でると、ハンナさんは怒った仕草をしながらも口元が緩んでいた。

「むうううううううううううう!」
「「あ……」」

 今度はライラ様が拗ねてプクー、と頬を膨らませてしまった……。

 ◇

 子ども達から聞かされた話は、僕にとっては衝撃的な内容だった。

 この子ども達は身寄りを失くした孤児達で、この地下水路をねぐら・・・にして毎日をしのいでいた。
 残飯を漁ったり、時には今日みたいに盗みをすることだって、生きていくために仕方ないと割り切って。

 ところが最近、怪しい大人連中がこの街に出入りするようになると、突然、仲間である孤児の一人が行方不明になった。
 子ども達は街中を探すけど、結局見つからない。

 心配しながらも、子ども達だって生きていかなければいけない。
 その次の日も同じように残飯漁りや盗みなどして、飢えをしのごうとしていると。

「……その時、ウチは見たんだ。怪しい大人達が、ウチの家族を連れ去ろうとしたところを……」

 そう言うと、リーダーの子ども……“メル”は、悔しそうに唇を噛んだ。

「……ふう、やっぱり」

 ハンナさんが深い息を吐き、ゆっくりと頷いた。

「それでウチ達は、この地下水路から他のみんなを出さないようにして、ウチともう一人……この“テオ”だけでみんなの分の食料を確保するようにしてるんだ……」

 そう言うと、メルはチラリ、と後ろにいた少しおどおどした男の子を見やった。
 この子が“テオ”だな。

「そう……それは賢明な判断です。ところで、こうして知り合ったのも何かの縁ですので、よろしければ私達の仕事を引き受けませんか?」
「仕事?」

 ハンナさんの言葉に、メルは怪訝な表情を浮かべた。

「ええ、仕事といっても簡単です。この街にあなたの言う怪しい連中を見かけたら、街の中央にある“木蓮亭”という宿まで知らせに来て欲しいのです」
「そ、それくらいなら、構わないけど……」

 メルはうかがうようにハンナさんを見る。
 まあ僕もそうだけど、ハンナさんの意図が分からないからなあ……。

「ありがとうございます。では、こちらは前払いの報酬です」

 ハンナさんは財布を取り出し、メルの前に金貨十枚を置いた。

「ええ!? こ、こんなに!?」

 あまりの大金に、メルをはじめ子ども達が目を白黒させる。

「うふふ、連絡をくれた暁には、同じ額を成功報酬としてお渡しします」
「そ、それだけあれば、ウチ達はもう盗んだり残飯を漁ったりしなくても……!」

 メルは瞳をキラキラさせながら唾を飲んだ。
 確かにこれだけのお金があれば、この八人の子どもが普通に食べていくだけなら十分だろう。

「では、よろしくお願いします……あ、そうそう」
「「「「「?」」」」」

 すると、ハンナさんが思い出したかのように口を開く。

「これだけのお金をいきなり使うと怪しまれますから、まずは私達の宿に来てください。その時に、金貨を両替してあげますから」
「は、はい!」

 ハンナさんのアドバイスに、メルが元気よく返事した。
 うん、さすがはハンナさん。見事な気配りだな。

「お嬢様、アデル様、それでは行きましょう」

 ハンナさんは子ども達に軽く会釈をし、僕達を促してここを立ち去ろうとすると。

「あ、あの!」
「はい、何でしょうか?」
「「「「「あ、ありがとうございます!」」」」」

 子ども達が一斉にお礼を言うと、ハンナさんは振り返り、優しく微笑んだ。

 だけど……。

 僕は、そんな嬉しそうに笑顔を見せる子ども達の中、一人だけどこか不安そうな表情を見せるテオが気になった。
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