機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ

地下水路

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「それは大丈夫ですので、今すぐあの子どもを追いましょう」
「へ?」

 ハンナさんの言葉に、僕は思わずキョトンとしてしまった。

「今、あの子どもはアデル様から財布を盗んでいきました」
「ええ!?」

 僕は慌てて懐にしまってあった財布を探すと……………………ない。

「す、すぐに追いかけましょう!」
「「はい!」」

 僕達はあの子どもが走り去っていった方向へと駆ける。

「あ! あちらです!」

 ライラ様が子どもを見つけ、彼女が指を差す方向へと視線を向けると、どうやら路地裏に逃げ込んだようだ。

「アデル様、急ぎましょう! 路地裏をねぐらにする子どもにとっては、全て庭のようなものです! 逃げ込まれたら捕まえるのが難しくなります!」
「はい!」

 ハンナさんのアドバイスを受け、大急ぎで路地裏に入った。

 すると。

「い、いない……?」

 路地裏には、さっきの子どもはおろか、誰一人としていなかった。

「アデル様……あちらをご覧ください」

 ハンナさんの指示するほうを見ると、この街の地下水路につながっている蓋が開いていた。

「恐らく、ここから逃げ込んだものと思われます」
「そうですか……」

 僕は地下水路の入口へと近づき、中を覗き込む。

「アデル様、どうしますか?」

 ライラ様が尋ねる。
 まあ、僕としてはそれほどお金が入っていた訳でもないし、子どもにも事情があるんだろうから、このまま諦めても構わないんだけど……。

「せっかくですし、中に入りましょう」
「「あっ」」

 この時の僕は、何故かこの地下水路と子どもに興味が湧き、二人が何か言う前に中へと降りて行った。

「うわあ、暗いなあ……」

 入ってみると、当然だけど中は真っ暗だった。

「ええと、確かカバンの中に……お、あったあった」

 カバンの中から蜜蝋みつろうの塊とナイフを取り出すと。

「【加工キャスト】、【製作クラフト】」

 僕は蝋燭ろうそくとランプを【製作】した。
 で、火打石で蝋燭ろうそくに火を灯して、と……うん、これで見えるようになった。

「アデル様、とりあえず少しずれましょう」
「え? ハンナさん?」

 僕はハンナさんに誘導され、少しずれた。

 すると。

 ——ズウン……!

 ……ライラ様が、上から落ちてきた。

「……ふう、脆いはしごというのも困りものですね」

 ライラ様はやれやれと言わんばかりに肩を竦めてかぶりを振った。
 ですが、ライラ様の重量に耐えられるはしごは、ほぼ無いように思われます。

「……アデル様、何ですか?」
「あ、い、いえ!」

 ジト目で見られ、僕は慌てて顔を背けた。

「さ、さあ、先に進みましょう」

 僕は話題を逸らすため、地下水路の先へと進んだ。

 ◇

「……いませんね」

 しばらく地下水路を探し続けたけど、あの子どもは一向に見つからない。
 というかこの地下水路が広すぎて、探しようがない……。

「さすがに、これ以上探しても見つからなさそうですね……」

 そう言って、僕は諦める素振りを見せると。

「その……私にお任せいただけますでしょうか」

 ハンナさんが、おずおずと申し出た。

「え、ええと、さすがにもう無理かと思うんですが……」
「いえ、た、多分、何とかなるんじゃないかと……」

 提案した割には、どうもハンナさんの歯切れが悪い。
 何かあるんだろうか……。

「あ、で、では、お願いしてみてもいいですか?」
「は、はい」

 そう告げると、ハンナさんはピト、と壁に耳を当てた。

「ふう……こちら、でしょうか」

 そう言って進むハンナさんに、僕とライラ様は顔を見合わせながらもその後をついて行った。

 そんなことを何度か繰り返して進んで行くと。

「どうやら、ここのようですね」

 ハンナさんが指差したのは、鉄格子があって行き止まりとなっているところだった。

「で、ですが、ここから先は行き止まりのようですが?」
「少々お待ちください」

 するとハンナさんは鉄格子の棒を一本一本確認すると。

「「あ!」」

 鉄格子の一本が、簡単に外れた。

「子どもであれば、この幅があれば通り抜けが可能ですね……」

 だけど、鉄格子の棒が一本抜けた程度では、僕達は通り抜けることは無理そうだ。

「アデル様、お下がりください」

 ライラ様がズイ、と前に出ると、白銀の手で鉄格子をつかんだ。

 そして。

 ——メキ、メキ。

 ライラ様はその両腕で鉄格子をいともたやすくこじ開けた。

「さあ、行きましょう」
「「は、はい……」」

 事もなげに鉄格子をくぐるライラ様に、僕とハンナさんは思わず顔を見合わせた。
 ま、まあ、あの腕を【製作】したのは、僕ではあるんだけど、ね……。

 それから先へと進んですぐのところ。

「っ!? な、何でここが!?」

 広場で僕にぶつかった子どもが、ここに確かにいた。
 だけど……。

「子どもが、ひい、ふう、みい……」

 数えると、さっきの子どもを含め十五人もいた。
 しかも、こんな地下水路に。

「み、みんな! ウチの後ろに隠れて!」
「「「「「う、うん!」」」」」

 あの子どもがそう叫ぶと、他の子ども達は一斉に後ろに下がった。

「うふふ、大丈夫よ。私達は少しお話ししたいだけだから……」

 僕とライラ様の前にス、と出ると、ハンナさんが優しく微笑んだ。
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