機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ

屋台のお菓子

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「アデル様! あそこに屋台がありますよ!」

 僕の腕を引きながら、ライラ様がはしゃいでいる。

 あれから無事? 部屋の問題も解決した僕達は、せっかくなので観光がてらヘイドンの街を散策している。
 なお、部屋割りについては当初の予定通りライラ様とハンナさんが三階、僕が二階となった。

 とはいえ、何やらハンナさんが僕の部屋の位置や扉の鍵を入念にチェックしていたので、不安しかないけど。

「うわあああ……! アデル様、どうやら小麦粉を薄く延ばして焼いたお菓子のようですよ! しかも、あんなに生クリームが!」

 屋台の前に来ると、ライラ様が右の瞳をキラキラさせて僕に解説してくれた。

「うふふ……さすがにこれは、私も興味を惹かれてしまいますね」

 ハンナさんもお菓子を眺めながら口元を緩める。

「あはは、じゃあ食べてみましょうか。すいません、これ三つください」
「あいよ!」

 可愛いお菓子に似つかわしくない屋台の親父さんが、手際よく小麦粉を鉄板の上で円盤状に薄く焼いていく。

 そして、その上に果物と生クリームを乗せ、綺麗に筒状にクルリ、と丸めると。

「はいよ! お待ち!」
「「うわあああ……!」」

 ライラ様とハンナさんが感嘆の声を漏らしながら、お菓子を受け取った。

「ところでお前さん達は、この辺じゃ見ない顔だけど観光かい?」
「ええ、まあ……そんなところです」
「そうかいそうかい! 最近はめっきり観光客も減ったから、嬉しいねえ!」
「へえ、そうなんですか?」

 嬉しそうに話す親父さんの言葉に、僕は何の気なく尋ねてみた。

「ああ。ホラ、最近はこの国も物騒になってきたしよ。兄ちゃんも聞いてないか? モーカムの領主が領内で戦を起こして戦死したって話」
「あー……あははー……」

 親父さんの言葉に、僕は思わず愛想笑いをした。

「だから王国全体が戦争になるんじゃないかって、観光客もそうだが街の連中も家に閉じこもっちまってねえ……」
「ああ……」

 確かに、昼間の広場にしては人通りが少ないと思ったよ。

「しかも、そんなせいか知らないけど、最近は変なごろつき・・・・みたいな奴が増えてねえ……」
「そ、それは大変ですね……」

 僕は屋台の親父さんに同情する素振りを見せながら、少し冷汗を流した。

「おっと、つまらない話をしちまったな! まあ、この街をゆっくり楽しんでってくれ!」
「はい!」

 僕達は親父さんに手を振りながら離れると、広場の中央にある噴水のふちに腰を掛けた。

「な、なかなか気まずかったですね……」
「はい……」

 僕達は屋台の親父さんを遠巻きに眺めながら、ヒソヒソと話した。

「そ、そんなことより、早速このお菓子を食べてみましょう!」

 待ちきれないとばかりにそう言うと、ライラ様はその小さくて可愛らしい口で勢いよくパクリ、とかぶりついた。

「っ! お、美味しい!」

 表情は変わらないけど、いつもより一段階大きい声とその食べっぷりからも、かなりお気に召したようだ。

「うふふー、本当に美味しいです!」

 ハンナさんも顔をほころばせながら、はむはむとお菓子を口に含んでいる。

 どれ、じゃあ僕も……。

「ん! 美味しいですね!」

 いやあ、美味しそうだなとは思ったけど、もちもちとした小麦粉の生地の中から果物の酸味と生クリームの甘さが相まって、かなり美味しい。

 二人もそれこそ一心不乱にかぶりついていて、何というかその……可愛い。

「あう……もう無くなってしまいました……」

 あっという間に食べ終えたライラ様が、切なそうな瞳で白銀の手をジッと見ていた。

「え、ええと……でしたら、僕の分を少し食べますか?」

 そう言って、ス、と食べている途中のお菓子を差し出すと。

「! よ、よろしいのですか?」
「ええ、もちろん」

 するとライラ様の尻尾の幻影が、最高潮に振り切れた。
 喜んでもらえて何よりだ。

「あ……い、いただきます……」

 僕からお菓子を受け取ると、ライラ様は先程のような勢いもなく、何故か僕がかじりついた箇所を恐る恐るパク、とかぶりつく。

「ん……あは……♪」

 そして、どういう訳か一瞬だけ“死神”のライラ様が現れ、真っ赤に頬を染めた。
 い、一体どういうことだろう……。

「はあああああ……」

 すると、今度はこれ見よがしに深い溜息が聞こえてきたので、チラリ、と左隣を見てみると……うん、ハンナさんが頬をプクー、と膨らませ、そっぽを向いていた。

「え、ええとー……ひょっとして、ハンナさんもお菓子が欲しかった、ですか……?」
「いいえ? 決してそんなことはありませんが? ですが、たまには侍女であるこの私を労っても、バチは当たらないと思いますが?」

 あー……ハンナさんが完全に拗ねてしまった。
 仕方ない、もう一つお菓子を買いに……って。

 ——ドン!

「うわっと!?」
「おっと、ゴメンね!」

 子どもが僕にぶつかったかと思うと、子どもは軽く謝ってそのまま走り去ってしまった。
 まあ、いいか。それよりもお菓子を……「アデル様」……と思ったら、ハンナさんに呼び止められてしまった。

「あ、あはは、すぐにお菓子を買ってきますので……」
「それは大丈夫ですので、今すぐあの子どもを追いましょう」
「へ?」

 ハンナさんの言葉に、僕は思わずキョトンとしてしまった。
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