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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ
ヘイドンの街
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——ガタ、ガタ。
出頭要請を受け、僕達はのんびり馬車に揺られながら王都を目指している。
一応、九番目の月の一日までに着けばよいので、まだあと一か月以上余裕があるんだけど、アイザックの街から王都までは普通に行けば十日近くかかることもあり、せっかくなので色々と王国内を見て回りながら向かおうということになったのだ。
それに、こうやって書簡を送って来たということは、少なくとも期限の日までは向こうから何かを仕掛けてくるということもないだろうという打算もある。
それ以上に……今の僕達では、アイザックの街で王国の軍勢を受け止めることは不可能だという結論に至ったのだ。
実のところ、僕達がゴドウィン卿と戦闘になって勝利した事実がアイザックの街でも広まってしまったことと、王都を結ぶ街道に要塞を【製作】したことで、カートレット伯爵家が今度は王国を相手にすると認識されてしまった。
なので、ハンナさんの兵士募集や冒険者のスカウトは当然上手くいかず、人も集まらない。
それどころか、住民も戦争を恐れて他の街へと移り始めている。
まあ……僕達の置かれている状況は、かなりジリ貧だということだ。
「ふふ、風が気持ちいですね」
僕の右隣に座るライラ様が、白銀の手でその長い藍色の髪を耳にかける。
「本当ですね、お嬢様」
すると、僕の左隣に座るハンナさんが、相槌を打った。
というより。
「え、ええと……お二人共、車内にはお入りにならないのですか?」
そう、二人は何故か御者席に座っているのだ。
せっかくだから、車内でくつろげばいいのにとは思う。
だけど。
「ふふ……私はここがいいんです」
「うふふ……ここが、私のいるべき位置ですから……」
そう言うと、二人は僕の身体に寄り添った。
そして、そんな二人の想いが、僕にはただ嬉しかった。
……こんな穏やかで幸せな日々が、永遠に続けばいいのに。
僕は心からそう願ってやまない。
でも……僕達は今、復讐をしているんだ。
この、終わりが見えなくて、破滅しか残されていない復讐を……。
「あ! 見えました!」
ライラ様が前方を指差しながら嬉しそうに声を上げるけど……すいません、僕にはまだ見えません……。
「お嬢様……私達の眼はお嬢様の左眼とは違いますので」
「あうう……わ、分かっています」
ハンナさんが眼鏡をクイ、と指で持ち上げながら指摘すると、ライラ様が少し恥ずかしそうに俯いた。
「あはは、ですがもうすぐであることは間違いないですからね。教えてくださり、ありがとうございます」
「ふふ……」
そう言いながら僕はライラ様の頭を撫でると、ライラ様は表情こそ変わらないものの、まるでもっと撫でてとねだるように頭を僕の傍に寄せた。
そして。
馬車を走らせる街道の先に、今日の目的地である“ヘイドン”の街が見えた。
「アデル様、私達にも見えましたね」
そう告げるハンナさんの瞳は、まるで何かをねだるように期待を込めて僕を見つめていた。
あはは、ハンナさんも本当に可愛いなあ。
「はい、教えてくださってありがとうございます」
「あ……うふふ……」
僕はハンナさんの頭を左手で優しく撫でると、ハンナさんは嬉しそうに目を細めた。
そうして僕達は、ヘイドンの街の入口をくぐった。
◇
「うわあ……何というか、すごく豪勢な宿ですね……」
宿に到着した僕達は、早速中に入ったんだけど……その豪奢な作りといい、下手をすると伯爵邸よりもすごいかもしれない。
「うふふ、せっかくの三人旅なのですから当然です。それにこの宿は、歴代の王族も御用達なんですよ?」
ハンナさんが少し自慢げにそう語る。
つまり、かなり奮発したってことですね? 分かります。
「素晴らしいですよ、ハンナ」
「ありがとうございます」
ライラ様が褒めると、ハンナさんが優雅にカーテシーをした。
「それでは、こちらがお部屋の鍵になります。ライラ様と私は三階、アデル様は申し訳ありませんが二階の部屋となります……」
「ああいえ、全然構いませんよ。ありがとうございます」
僕はハンナさんから鍵を受け取……らせてくれないのはどういうこと!?」
「ええと……ハンナさん?」
「アデル様。私はお嬢様のお世話があるため、仕方なくお嬢様の隣の部屋を取りましたが、実は二人用の部屋なのです」
「は、はあ……」
ハンナさんがものすごく真剣な表情でそう説明するけど、僕は意味が分からず曖昧な返事をした。
「……二人用、なのです」
「あ……」
そう言うと、ハンナさんは頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに俯く。
あー……そういうこと、かあ……。
「ダ、ダメです! 絶対にダメ! だ、だったら私の部屋はこの宿で一番広いですから、二人でも全然問題ありませんから!」
意味を悟ったライラ様が、そうはさせまいと阻止に掛かるどころか、まさか逆に勧誘してくるとは……。
「うふふ、ライラ様はアデル様を鋼鉄のベッドで寝させようというおつもりですか?」
「な、ななななな! う、上はフカフカですから!」
そんな感じで、ライラ様とハンナさんがよく分からない応酬を繰り広げているけど……僕、普通に二階の部屋で寝ますからね?
出頭要請を受け、僕達はのんびり馬車に揺られながら王都を目指している。
一応、九番目の月の一日までに着けばよいので、まだあと一か月以上余裕があるんだけど、アイザックの街から王都までは普通に行けば十日近くかかることもあり、せっかくなので色々と王国内を見て回りながら向かおうということになったのだ。
それに、こうやって書簡を送って来たということは、少なくとも期限の日までは向こうから何かを仕掛けてくるということもないだろうという打算もある。
それ以上に……今の僕達では、アイザックの街で王国の軍勢を受け止めることは不可能だという結論に至ったのだ。
実のところ、僕達がゴドウィン卿と戦闘になって勝利した事実がアイザックの街でも広まってしまったことと、王都を結ぶ街道に要塞を【製作】したことで、カートレット伯爵家が今度は王国を相手にすると認識されてしまった。
なので、ハンナさんの兵士募集や冒険者のスカウトは当然上手くいかず、人も集まらない。
それどころか、住民も戦争を恐れて他の街へと移り始めている。
まあ……僕達の置かれている状況は、かなりジリ貧だということだ。
「ふふ、風が気持ちいですね」
僕の右隣に座るライラ様が、白銀の手でその長い藍色の髪を耳にかける。
「本当ですね、お嬢様」
すると、僕の左隣に座るハンナさんが、相槌を打った。
というより。
「え、ええと……お二人共、車内にはお入りにならないのですか?」
そう、二人は何故か御者席に座っているのだ。
せっかくだから、車内でくつろげばいいのにとは思う。
だけど。
「ふふ……私はここがいいんです」
「うふふ……ここが、私のいるべき位置ですから……」
そう言うと、二人は僕の身体に寄り添った。
そして、そんな二人の想いが、僕にはただ嬉しかった。
……こんな穏やかで幸せな日々が、永遠に続けばいいのに。
僕は心からそう願ってやまない。
でも……僕達は今、復讐をしているんだ。
この、終わりが見えなくて、破滅しか残されていない復讐を……。
「あ! 見えました!」
ライラ様が前方を指差しながら嬉しそうに声を上げるけど……すいません、僕にはまだ見えません……。
「お嬢様……私達の眼はお嬢様の左眼とは違いますので」
「あうう……わ、分かっています」
ハンナさんが眼鏡をクイ、と指で持ち上げながら指摘すると、ライラ様が少し恥ずかしそうに俯いた。
「あはは、ですがもうすぐであることは間違いないですからね。教えてくださり、ありがとうございます」
「ふふ……」
そう言いながら僕はライラ様の頭を撫でると、ライラ様は表情こそ変わらないものの、まるでもっと撫でてとねだるように頭を僕の傍に寄せた。
そして。
馬車を走らせる街道の先に、今日の目的地である“ヘイドン”の街が見えた。
「アデル様、私達にも見えましたね」
そう告げるハンナさんの瞳は、まるで何かをねだるように期待を込めて僕を見つめていた。
あはは、ハンナさんも本当に可愛いなあ。
「はい、教えてくださってありがとうございます」
「あ……うふふ……」
僕はハンナさんの頭を左手で優しく撫でると、ハンナさんは嬉しそうに目を細めた。
そうして僕達は、ヘイドンの街の入口をくぐった。
◇
「うわあ……何というか、すごく豪勢な宿ですね……」
宿に到着した僕達は、早速中に入ったんだけど……その豪奢な作りといい、下手をすると伯爵邸よりもすごいかもしれない。
「うふふ、せっかくの三人旅なのですから当然です。それにこの宿は、歴代の王族も御用達なんですよ?」
ハンナさんが少し自慢げにそう語る。
つまり、かなり奮発したってことですね? 分かります。
「素晴らしいですよ、ハンナ」
「ありがとうございます」
ライラ様が褒めると、ハンナさんが優雅にカーテシーをした。
「それでは、こちらがお部屋の鍵になります。ライラ様と私は三階、アデル様は申し訳ありませんが二階の部屋となります……」
「ああいえ、全然構いませんよ。ありがとうございます」
僕はハンナさんから鍵を受け取……らせてくれないのはどういうこと!?」
「ええと……ハンナさん?」
「アデル様。私はお嬢様のお世話があるため、仕方なくお嬢様の隣の部屋を取りましたが、実は二人用の部屋なのです」
「は、はあ……」
ハンナさんがものすごく真剣な表情でそう説明するけど、僕は意味が分からず曖昧な返事をした。
「……二人用、なのです」
「あ……」
そう言うと、ハンナさんは頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに俯く。
あー……そういうこと、かあ……。
「ダ、ダメです! 絶対にダメ! だ、だったら私の部屋はこの宿で一番広いですから、二人でも全然問題ありませんから!」
意味を悟ったライラ様が、そうはさせまいと阻止に掛かるどころか、まさか逆に勧誘してくるとは……。
「うふふ、ライラ様はアデル様を鋼鉄のベッドで寝させようというおつもりですか?」
「な、ななななな! う、上はフカフカですから!」
そんな感じで、ライラ様とハンナさんがよく分からない応酬を繰り広げているけど……僕、普通に二階の部屋で寝ますからね?
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