機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン

王国からの書簡

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「「「…………………………」」」

 首謀者であったゴドウィンへの復讐を果たした僕達は、重い足取りでアイザックの街へと戻っている

 当初、僕はジェイコブを裏で操っていたゴドウィンをほふれば、ライラ様の復讐は完遂される、そう思っていた。

 なのに。

 ……まさか、全ての指示を出していたのが国王陛下だったなんて。

 僕達がゴドウィンとその軍勢五千人を殲滅できたのは、ひとえに地の利を活かすことができたことと、数に頼ったゴドウィン自身に気の緩みがあったからだ。

 だけど、王国は今回の事態を受けて必ず乗り出してくる。
 それも、万全を期して。

「……それでも、僕は絶対に二人を……!」

 ポーションで回復した右の拳を強く握り締め、ポツリ、と呟く。
 僕はどんなことをしてでも、ライラ様とハンナさんを救ってみせると決意を込めて。

 そして……ライラ様の復讐を叶えてみせると心に誓って。

 陽が落ち、辺りが暗くなってきた頃……僕達はアイザックの街に到着した。

「……早速お風呂の支度をしてまいりますので、それまでごゆっくり、おくつろぎくださいませ」

 ハンナさんがうやうやしく一礼すると、僕とライラ様を残して執務室を出て行った。

「あはは……ハンナさんも、今日くらいはゆっくりすればいいのに」
「そうですね……」

 表情は変わらなくても、疲れも相まってライラ様の声は非常に重苦しかった。

「アデル様……」

 すると、ライラ様が何か決意めいた瞳で見つめながら、僕の名前を呼んだ。

「はい……何でしょうか?」

 僕も、そんなライラ様の右の瞳をジッと見つめた。

「今回ゴドウィンを討ったことで、私の復讐は全て果たされました……アデル様には感謝の言葉もございません」

 そう言うと、ライラ様は深々と頭を下げた。

 でも、ライラ様は嘘を吐いている。
 だって、ライラ様の瞳にはまだ、漆黒の闇に燃え盛る復讐の炎・・・・が宿っていたから。

「……では、国王陛下……いや、王国そのものへの復讐はどうするのですか?」
「…………………………」

 僕の問い掛けにライラ様は何も答えず、ただ頭を下げたままだ。
 そんなライラ様に、僕はそっと手を伸ばすと。

「……僕は、最後までライラ様と共にいますから。だから……だから……」

 そうささやき、ライラ様の髪を優しく撫でる。

 ライラ様をいつくしむように。
 ライラ様の心を包み込むように。

 そして……ライラ様に殉じることを誓うように。

「……私はあなたをただ死へと導くだけの、そんな最低で下劣な女です。それでも……あなたに、傍にいて欲しいと願ってもいいですか?」
「はい」

 顔を上げ、大粒の涙を零しながら縋るように見つめるライラ様に、僕は強く頷く。

「私は……私は……!」
「ライラ様!」

 僕は、表情を変えずに言葉にならない程の嗚咽を漏らすライラ様を、ただ強く抱き締めた。

 ◇

 夜も更け、僕は今、寝室の窓から外を眺めている。

 これからどうやってアルグレア王国に復讐するか、そればかりを頭の中で巡らせながら。

 すると。

「あれは……ハンナさん……?」

 ハンナさんが庭の真ん中で、一人夜空を眺めていた。

 僕はクローゼットに収納されている毛布を手に取って部屋を飛び出し、そのまま庭へと出ると。

「ハンナさん……」
「アデル様……まだ起きていらっしゃったのですか?」
「ええ……少し、寝つけないものですから……」

 ハンナさんの傍に寄り、僕は彼女にそっと毛布を掛けた。

「あ……」
「風邪を引いてはいけませんから」

 そう言って、僕はハンナさんにニコリ、と微笑んだ。

「ありがとう、ございます……」
「いえ……」

 僕も、ハンナさんと同じように夜空を眺めた。
 月と無数の星が暗闇を優しく照らし、僕達を包み込む。

「綺麗、ですね……」

 ハンナさんがポツリ、と呟く。
 その二つの瞳に、憂いのようなものをたたえながら。

「……ハンナさん。せっかくですから、踊りませんか?」
「……わ、私と……ですか……?」

 突然の僕の提案に、ハンナさんが一瞬驚いた表情を見せた後、上目遣いでおずおずと尋ねた。

「はい……先日のパーティーでもハンナさんとは踊れませんでしたし、それに、こんなに素敵な女性が傍にいるのに、誘わないなんて失礼でしょう?」

 僕はわざとおどけてそう言うと、ハンナさんが頬を染めながらクスクスと笑った。

「うふふ……では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ……ぜひ、お願いします」

 僕はス、と右手を差し出すと、ハンナさんがそっと手を添えた。

「では」
「はい!」

 お辞儀をした後、僕はハンナさんの腰に手を当てて引き寄せると、観客も音楽もない中、月明りの下で踊る。

「うふふ! アデル様!」

 ハンナさんが、嬉しそうに微笑む。
 その素敵な表情は僕の心を高鳴らせ、身体を寄せる彼女に悟られはしまいかと、そんな心配ばかりしてしまう。

 そして……僕達はダンスを終えた。

 すると、ハンナさんは僕の右手を両手でつかみ、頬を寄せた。

「……あなたは、そうやって私達のためにいつもその身体を犠牲にするのですね……」
「あ……」

 ……ハンナさんは、どうやら気づいていたみたいだ。

 僕の右手に、感覚がないことを。

「……もう、私はアデル様をお止めしようとは思いません……その代わり、あなたが何かを失うたびに、私はあなたを支えます。私の、生命を懸けて……」

 ハンナさんが涙を零しながら、ジッと僕の顔を見つめる。

「……私達の敵は王国そのものです。アデル様がお嬢様を支えるように、私もあなたを支えていること、どうか……どうか、お忘れなさいませぬよう……」
「ハンナさん……」

 声を震わせるハンナさんの瞳から零れる涙を、僕は感覚のない右手の人差し指でそっとぬぐう。

「んっ……アデル様……」
「はい……ですが、僕だってライラ様と同じくらい、あなたを支えたいと思っていることも忘れないでください……」

 僕は、人差し指を濡らすハンナさんの涙に、そっと口づけをした。

 ハンナさんへの、誓いの証として。

 ◇

 アイザックの街に帰還してから一週間。
 僕達は努めていつも通りの日々を過ごしていた。

 とはいえ、何もしない訳にもいかないので、僕達もできる限りの準備も進めている。
 ハンナさんは傭兵の募集をかけたり、冒険者ギルドで用心棒代わりとなる冒険者のスカウトをしているし、ライラ様も伯爵としての執務をこなしつつ、先代伯爵様に関する調査をされていた。
 特に、ゴドウィンが最後に語った、王国にとって不利益となるものの存在について。

 そして、僕はといえば王都とアイザックの街を結ぶ街道に、防衛用の要塞を建築中だ。
 もちろん、僕の[技術者エンジニア]の力で。

 やはり、能力の限界を超えて二度も死地を彷徨さまよったからか、僕の能力の規模や耐性は桁違いに伸びていた。
 それこそ、湿地帯の橋を全て破壊し尽してしまう程に。

 あ、そういえば、あの日慌てていたせいでモーカムの街に置き去りにしてしまった“黄金の旋風”だが、実はあの日以降、アイザックの街に戻ってきていない。

 とはいえ、アイツ等にとってはこの街に戻らなくて正解かもしれない。
 だって……あの連中を見つけたら、多分僕達は絶対にただでは済まさないだろうし。

 何故かって? そんなの決まってる。
 アイツ等は、ライラ様の弱点……僕を除く全ての男に触れることができないって情報を、ゴドウィンに売ったんだから。

「ふう……とりあえず、今日はここまでにしよう」

 僕はグイ、と汗を拭う。
 だけど……うん、これなら王都を護る“ラムトン城塞”にだって匹敵するんじゃないだろうか。

 僕は自画自賛しながら眺めていると。

「「アデル様————————!」」

 ハンナさんを背負いながら、ライラ様が“クロウ=システム”を使ってものすごい速さでやって来た。

「え、ええと……どうされたんですか?」

 二人の慌てた様子に、僕はおずおずと尋ねる。

 すると。

「王都からの書簡が届きました!」
「な、何ですって!?」
「こ、これです!」

 驚きの声を上げる僕に、ライラ様が書簡を手渡してくれた。

 そこには。

『九番目の月の一日までに、王宮へ出頭すべし』

「……アルグレア王国 国王 “エドガー=フォン=アルグレア”」

 僕はその書簡を握り締め、ポツリ、と呟いた。
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