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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン
いざ、ゴドウィン侯爵邸へ
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「アデル様、い、いかがでしょうか……?」
右の瞳と同じ藍色のドレスに着替えたライラ様が、おずおずと尋ねる。
「もちろん、すごくお似合いですよ」
「ほ、本当ですか!」
僕は笑顔でそう答えると、ライラ様が嬉しそうにはしゃいだ。
「ハンナさんもそう思いますよね?」
同じく黄色のドレスを身にまとうハンナさんに相槌を求めると。
「え? ……え、ええ……そうですね……」
まるで心ここにあらずといった感じで、ハンナさんは曖昧な返事をした。
昨日あの大道芸人を見てから、ハンナさんの様子がずっとおかしいが、それについて僕もライラ様も、あえてハンナさんに何も言ったり聞いたりしていない。
本当は理由を尋ねたいけど、ライラ様と昨日話し合ってそう決めたのだ。
『本当に困ったことがあれば、ハンナは必ず話してくれます。だって……ハンナは私の“姉”ですから』
そう言った時のライラ様の右の瞳は力強く、確信に満ちていた。
聞けば、ライラ様が幼い頃からハンナさんは侍女として仕えていたらしいし、二人にしか分からない絆といったものがあるんだろう。
だから僕も、ライラ様と一緒にハンナさんを見守っている。
「ふふ、ですがアデル様もすごく素敵です」
「あ、あはは……こんなの着たことがないから、すごく緊張しますね……」
そう、僕もライラ様のエスコート役兼従者として、ゴドウィン卿のパーティーに参加するのだ。
やはり、ゴドウィン卿から搦め手でこられてライラ様を危険な目に遭わせる訳にいかないし、最悪、僕がいれば毒を盛られた飲食物を【加工】で分解できる。
それに……一昨日のライラ様のこともある。
モーカムの街に入って男の人と接触した時、ライラ様は震えて身動きが取れなくなってしまった。
ただでさえ有象無象の貴族達が集うパーティーだ。余計な真似をする奴がいないとも限らない。
……いや、伯爵位を持つ十四歳の女の子なんて、向こうからすれば絶好のカモだろう。
「……僕が、必ず……」
「? アデル様?」
「え? ああ、いえ……少し考え事をしていただけですよ」
不思議そうに僕の顔を覗き込むライラ様の頭を、僕は右手でそっと撫でた。
「あ……ふふ……」
ライラ様は嬉しそうに僕の右手に白銀の手を乗せる。
うん……加減は間違っていないみたいだ。
「では、そろそろお時間ですので、ゴドウィン侯爵邸へと向かいましょう」
「ええ」
「はい」
僕達は宿を出ると、馬車に乗り込んでゴドウィン侯爵邸をで目指す。
実は今日、ゴドウィン卿について調査する傍ら、馬車と鉄を購入して用意しておいたのだ。
さすがに貴族が徒歩でパーティーに参加するだなんてカートレット伯爵家の沽券にかかわるから。
もちろん僕としてもライラ様の社交界デビューを華々しく飾らせてあげたい。
だから、購入した馬車は腕によりをかけて【製作】させていただきましたとも。
それこそ、どんな貴族も乗っていないような、豪奢な鋼鉄製の馬車を。
だけど……肝心のゴドウィン卿に関する情報については何一つ成果がなかった。
馬車を購入した時に店の人に話を聞いたりもしたけど、出てくる言葉はゴドウィン卿への賞賛の言葉ばかり。
同様に街の他の人達にも聞いたが、返ってきたのは皆同じだった。
それに、実際に街を歩いて分かった。
街の人達は笑顔に溢れ、治安もすこぶる良い。
本当にゴドウィン卿があの襲撃に関与しているのかと疑いそうになったが、ジェイコブは、裏で操っていたのはゴドウィン卿だと僕達にハッキリ告げた。
あの豚も命懸けだったんだ。嘘を吐くとも思えない。
なら。
「……今日のパーティーで、ゴドウィン卿を見極めましょう」
「「……(コクリ)」」
僕の言葉に、二人が無言で頷く。
そして。
「到着しました」
窓の外を覗くと、この街でもひと際大きく、威厳と風格のある屋敷が聳え立っていた。
僕はまず先に馬車を降りて膝をつくと、ス、と手を差し出す。
「ふふ、ありがとうございます」
ライラ様が僕の手を取り、優雅に馬車を降りる。
続いて。
「アデル様……わ、私は大丈夫ですから……」
僕は手を差し出すが、ハンナさんは恥ずかしがってなかなか僕の手を取ろうとしない。
「フフ、ハンナも素直になったらどうですか?」
「お、お嬢様!?」
ライラ様が少し揶揄うようにそう言うと、ハンナさんが顔を真っ赤にした。
「ハンナさん……どうか、僕の手をお取りください」
「は、はい……」
ようやく、そしておずおずと僕の手を取ってくれたハンナさんが、俯いたまま馬車を降りた。
「ハンナ、思い切り口元が緩んでますね」
ライラ様が人差し指で自分の口の端を触って指摘すると、ハンナさんがますます俯いてしまった。
「ふふ、いつものお返しですよ?」
「お嬢様! も、もう!」
とうとう恥ずかしさで耐えられなくなったハンナさんが、ライラ様の肩をポカポカと叩いた。
「さあ、参りましょう!」
「「はい!」」
僕達は、ゴドウィン卿の待つパーティー会場に向かうため、正門をくぐって屋敷の中へ入った。
右の瞳と同じ藍色のドレスに着替えたライラ様が、おずおずと尋ねる。
「もちろん、すごくお似合いですよ」
「ほ、本当ですか!」
僕は笑顔でそう答えると、ライラ様が嬉しそうにはしゃいだ。
「ハンナさんもそう思いますよね?」
同じく黄色のドレスを身にまとうハンナさんに相槌を求めると。
「え? ……え、ええ……そうですね……」
まるで心ここにあらずといった感じで、ハンナさんは曖昧な返事をした。
昨日あの大道芸人を見てから、ハンナさんの様子がずっとおかしいが、それについて僕もライラ様も、あえてハンナさんに何も言ったり聞いたりしていない。
本当は理由を尋ねたいけど、ライラ様と昨日話し合ってそう決めたのだ。
『本当に困ったことがあれば、ハンナは必ず話してくれます。だって……ハンナは私の“姉”ですから』
そう言った時のライラ様の右の瞳は力強く、確信に満ちていた。
聞けば、ライラ様が幼い頃からハンナさんは侍女として仕えていたらしいし、二人にしか分からない絆といったものがあるんだろう。
だから僕も、ライラ様と一緒にハンナさんを見守っている。
「ふふ、ですがアデル様もすごく素敵です」
「あ、あはは……こんなの着たことがないから、すごく緊張しますね……」
そう、僕もライラ様のエスコート役兼従者として、ゴドウィン卿のパーティーに参加するのだ。
やはり、ゴドウィン卿から搦め手でこられてライラ様を危険な目に遭わせる訳にいかないし、最悪、僕がいれば毒を盛られた飲食物を【加工】で分解できる。
それに……一昨日のライラ様のこともある。
モーカムの街に入って男の人と接触した時、ライラ様は震えて身動きが取れなくなってしまった。
ただでさえ有象無象の貴族達が集うパーティーだ。余計な真似をする奴がいないとも限らない。
……いや、伯爵位を持つ十四歳の女の子なんて、向こうからすれば絶好のカモだろう。
「……僕が、必ず……」
「? アデル様?」
「え? ああ、いえ……少し考え事をしていただけですよ」
不思議そうに僕の顔を覗き込むライラ様の頭を、僕は右手でそっと撫でた。
「あ……ふふ……」
ライラ様は嬉しそうに僕の右手に白銀の手を乗せる。
うん……加減は間違っていないみたいだ。
「では、そろそろお時間ですので、ゴドウィン侯爵邸へと向かいましょう」
「ええ」
「はい」
僕達は宿を出ると、馬車に乗り込んでゴドウィン侯爵邸をで目指す。
実は今日、ゴドウィン卿について調査する傍ら、馬車と鉄を購入して用意しておいたのだ。
さすがに貴族が徒歩でパーティーに参加するだなんてカートレット伯爵家の沽券にかかわるから。
もちろん僕としてもライラ様の社交界デビューを華々しく飾らせてあげたい。
だから、購入した馬車は腕によりをかけて【製作】させていただきましたとも。
それこそ、どんな貴族も乗っていないような、豪奢な鋼鉄製の馬車を。
だけど……肝心のゴドウィン卿に関する情報については何一つ成果がなかった。
馬車を購入した時に店の人に話を聞いたりもしたけど、出てくる言葉はゴドウィン卿への賞賛の言葉ばかり。
同様に街の他の人達にも聞いたが、返ってきたのは皆同じだった。
それに、実際に街を歩いて分かった。
街の人達は笑顔に溢れ、治安もすこぶる良い。
本当にゴドウィン卿があの襲撃に関与しているのかと疑いそうになったが、ジェイコブは、裏で操っていたのはゴドウィン卿だと僕達にハッキリ告げた。
あの豚も命懸けだったんだ。嘘を吐くとも思えない。
なら。
「……今日のパーティーで、ゴドウィン卿を見極めましょう」
「「……(コクリ)」」
僕の言葉に、二人が無言で頷く。
そして。
「到着しました」
窓の外を覗くと、この街でもひと際大きく、威厳と風格のある屋敷が聳え立っていた。
僕はまず先に馬車を降りて膝をつくと、ス、と手を差し出す。
「ふふ、ありがとうございます」
ライラ様が僕の手を取り、優雅に馬車を降りる。
続いて。
「アデル様……わ、私は大丈夫ですから……」
僕は手を差し出すが、ハンナさんは恥ずかしがってなかなか僕の手を取ろうとしない。
「フフ、ハンナも素直になったらどうですか?」
「お、お嬢様!?」
ライラ様が少し揶揄うようにそう言うと、ハンナさんが顔を真っ赤にした。
「ハンナさん……どうか、僕の手をお取りください」
「は、はい……」
ようやく、そしておずおずと僕の手を取ってくれたハンナさんが、俯いたまま馬車を降りた。
「ハンナ、思い切り口元が緩んでますね」
ライラ様が人差し指で自分の口の端を触って指摘すると、ハンナさんがますます俯いてしまった。
「ふふ、いつものお返しですよ?」
「お嬢様! も、もう!」
とうとう恥ずかしさで耐えられなくなったハンナさんが、ライラ様の肩をポカポカと叩いた。
「さあ、参りましょう!」
「「はい!」」
僕達は、ゴドウィン卿の待つパーティー会場に向かうため、正門をくぐって屋敷の中へ入った。
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