機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン

手前の村まで

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「ハア……ハア……」

 後ろから、複数の荒い息遣いが聞こえる。
 それもそうだろう。あれだけの大量の荷物を抱え、徒歩でひたすらゴドウィン領を目指しているんだから。

 そして、当然ではあるけど、ライラ様とハンナさんは一切荷物を背負っていない。
 もちろん、この僕も。

 とはいえ、ライラ様は非常に重量のある甲冑を着込んでいるし、その右手には不釣り合いなほど大きい鎌を携えているので、実はエリアル達よりも一番大変なんだけど。

「ふふ。アデル様、どうしました?」

 右隣のライラ様が僕の顔を覗き込みながら話しかける。

「ああいえ……別に。それより、今日中には湿地帯の手前まで行ってしまいたいですね」
「ええ、そうですね。あそこなら、ちょうど宿泊できる村もありますし」

 僕の言葉に、左隣にいるハンナさんが答えた。

「はい。湿地帯を超えると、モーカムの街に到着するまでは立ち寄れる村もないので、最悪二泊は野営するしかないですし」
「できる限り、今日の村で英気を養っておきたいですね……」

 僕達三人は顔を見合わせながら頷く。

 そして、僕は後ろをチラリ、と見ると……全員が僕達を恨めしそうに睨んでいた。
 とはいえ、二人もそうだが僕もいちいち気にしていられない。

 “黄金の旋風”は徒歩も荷物運びも承知で引き受けたんだし、それについて僕達に当たるのもお門違いだ。

 まあ、僕が“黄金の旋風”にいた頃は、道具類は全部その場で【製作】するから、食料と水、救急用のポーションくらいしか持ち運ぶものはなかったんだけど。

 それに……あの時は、荷物は全部僕一人で運ばされていたんだ。当時、幼馴染で恋人だったカルラでさえも。
 そのことが余計に僕の中から罪悪感を消す要因になっていて、“黄金の旋風”の連中を見ても何も感じない。

 だから。

「まあ、頑張って」
「「「「「っ!」」」」」

 僕は一言だけ労いの言葉をかけ、またライラ様達と談笑した。

 後ろの五人の視線を無視しながら。

 ◇

「ふう、到着しましたね……」
「ええ。アデル様、お身体は大丈夫ですか?」

 ライラ様が心配そうに僕に尋ねる。

「あはは、僕は冒険者ですよ? 荷物もないですし、これくらい平気です」
「ですが……」

 それでもなお、ライラ様は僕をジッと見つめる。
 恐らく、三週間前の“クロウ=システム”を【製作】したことによる身体への負担を懸念しているんだろう。

「本当に、大丈夫ですよ? ……ですが、ありがとうございます」

 僕はそう言うと、右手でライラ様の頭を撫でた。

 ライラ様が可愛くて。
 ライラ様の僕への気遣いが嬉しくて。

「ふふ……はい……」

 ライラ様はそっと僕の身体に寄り添うと、もっとして欲しいとねだるように僕の服をつまんだ。

「…………………………」

 そして、そんな僕達を、カルラは唇を噛みながら睨んでいた。

 でも、今さらそんな顔しても知らないよ。
 君はもう、僕の幼馴染でも、恋人でもないんだから。

「お嬢様、アデル様」

 すると、ハンナさんが一礼してジト目で僕達を睨んだ。
 コッチは、知らないなんてとても言えないな……。

「……何ですか?」

 そしてライラ様も負けじとハンナさんをジト目で睨む。
 まるで、せっかくのご褒美に水を差されて腹を立てるように。

「……部屋の割り当てですが、二階の一番奥の部屋はライラ様、その隣は私が。さらにその隣にアデル様の部屋をご用意しております」

 そう言うと、ハンナさんが僕とライラ様に部屋の鍵を渡してくれた。

「……私はアデル様と隣同士の部屋を希望します」
「いいえ、お嬢様のお世話がありますので、これ以外の部屋割りはあり得ません」

 ライラ様が頬をパンパンに膨らませて抗議するも、ハンナさんはニヤニヤするばかりで聞く耳を持たない。
 これ、何の争いなんですか……?

「あ、あの、それで俺達の宿は?」

 そんなやり取りをしている二人の元に来て、エリアルが尋ねる。

「……何を言っているのですか。自分の宿は自分で確保してください」
「そうです。そもそも私達の宿の手配も、本来は雇われた身である“黄金の旋風”が行うべきところを、全く動く気配もないので渋々この私がしたんです」
「だ、だけど俺達の依頼は護衛と荷物運びで……!」
「「はあ……」」

 二人からピシャリ、と言われても、なおも食い下がるエリアルに対し、二人は盛大に溜息を漏らす。

「……じゃああなた達は、クエストで雇った[運び屋ポーター]の宿の手配など色々とお世話をしていたのですか?」
「そ、それは、[運び屋ポーター]は金で雇っているので、自分の世話は自分で……」
「なら答えが出ているじゃないですか。私達も暇じゃないんですよ」

 そう言うと、もう用件は終わりだとばかりにエリアルを無視し、二人はまた部屋割りのことで言い争いを続けた。

 そして、トボトボと他の仲間達のところに戻って事情を説明すると、カルラを除く三人はエリアルに対して口々に文句を言っていた。

 そんな口論を遠巻きに眺めていたカルラは……チラリ、と僕を見やると、耳たぶをいじっていた。

 カルラのあの仕草は今でも覚えている。
 あれは……僕に言いたいことがあるけど、言い出せない時に見せる仕草だ……。

 以前の僕だったら、そんな彼女の傍に寄って、僕から声を掛けていただろう。
 でも……僕はもう、カルラの恋人じゃないんだ。

「あはは、僕はライラ様の部屋の隣でいいですよ?」

 そんなカルラの様子に気づかないフリをして、僕は二人に笑顔で話しかける。
 今の僕にとってかけがえのない人は、この二人なのだと知らしめる意味も込めて。

「っ! き、聞きましたかハンナ! アデル様もこう言ってますし、私の部屋の隣はアデル様です!」
「くうう……で、ではアデル様のその反対隣はこのハンナですから! よろしいですね!」

 膨らんでいた頬もあっという間に引っ込み、ライラ様が瞳をキラキラさせて僕の右腕にしがみつく。
 逆にハンナさんは頬を膨らませ、僕の左腕を抱き締めた。

 そんな二人に、僕はクスリ、と微笑みかけると。

「もちろん。では、部屋に行きましょうか」
「「はい!」」

 三人で仲良く宿に入った。

 この幸せを、噛み締めながら。
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