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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン
ハンナの口づけ
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伯爵邸に帰って来た僕達は、またそれぞれの仕事に戻る。
ライラ様は相当嫌がっていたが、もう“カートレット伯爵”となったのだから仕方ないです……。
ハンナさんも他の侍女や使用人達に次々と指示を出しながら、ハンナさん自身も仕事に精を出す。
ライラ様のスケジュール管理や身の回りのお世話、屋敷内のチェック等々……。
うん。この屋敷はハンナさんがいなければ三日とかからずに全てが崩壊しそうだ。
で、僕はというと。
「ふう……湿地帯、か……」
大きく息を吐くと、僕は眉根を寄せてポツリ、と呟く。
前々から懸念していたことだけど、ライラ様の義手、義足、そしてそれを支えるための補助骨格など、全て鋼とミスリルで構成されており、ライラ様の身体は非常に重くなっている。
これは、僕の【設計】が導き出した、ライラ様の復讐を果たすための最適解であるため、他の素材に代えるという選択肢もない。
そこにきて、今回の湿地帯横断だ。
今回みたいな単純な移動の問題だけでなく、万が一その重量が仇となる環境……今回の湿地帯や水中、砂漠地帯だと、身動きが取れず明らかに不利になってしまう。
「何か対策を考えないと……」
そう考えた僕は。
「……【設計】」
発動した瞬間、無数に展開される図面と共に、頭が割れそうな程の激痛が僕を襲う。
「ぐ……あ……!」
く、くそ……これ、以上……は……!
——ドサッ。
「ハアッ……ハアッ……!」
僕は【設計】を止め、そのまま床に倒れ込む。
あー……武器や防具を作った時は大丈夫だったから、いけるかと思ったんだけど……。
やっぱりここまで複雑な構造になってしまうと、僕の身体じゃ何のダメージも負わずに処理することはできないのか……。
息を整え、僕は立ち上がると。
「あ……鼻血……」
まあ、これも仕方ないか。
「でも、必要な材料は確認したし、まずはハンナさんに伝えて材料の調達をしないと」
僕はグイ、と腕で鼻を拭うと、部屋を出てハンナさんの元へと向かった。
◇
「……こちらが、アデル様がお求めになられた素材一式です」
ハンナさんが悲し気な表情を浮かべながら、ずらり、と並べられた素材の前で一礼した。
僕がハンナさんにお願いしたものは、木箱一箱分の魔石、前回の余りである鉄とミスリル、そして……大量の炭と近くの山の火口付近にある灰色の岩石、さらには、小さな炎と風を起こすための魔法陣も。
「ありがとうございます。これがあれば、ライラ様の重量の問題が解決できる筈です」
「そして……アデル様はまた、そのお身体を犠牲になさるのですね……」
そう言うと、ハンナさんがそっと顔を伏せた。
「それで、ライラ様には……」
「……お伝えしておりません」
「ありがとうございます」
唇を噛むハンナさんに、僕は軽く会釈した。
「……やはり、おやめになるおつもりはございませんか……?」
ハンナさんの問い掛けに、僕は静かにかぶりを振る。
だって、これはライラ様が復讐を果たすために、絶対に必要なことだから。
「……僕の命は、ライラ様とハンナ様、お二人のためだけにありますから」
「っ! ……そんなの、嬉しくありません……」
「あはは……すいません……」
泣きそうになるハンナさんに、僕は苦笑するしかなかった。
でも、ライラ様の非願成就のためには……ライラ様を守るためには、絶対に避けられないんだ。
僕はあえてハンナさんを見ないようにして、用意された素材に手をかざした。
「——【設計】!【加工】!【製作】!」
僕は能力を全て同時に発動する。
ライラ様の身体を作ったあの時と同じように。
「グ……ググ……ガア……!」
やはり、僕の頭に激痛が走り、全身が軋む。
ガキン、と歯が割れる程食いしばりながら耐えつつ、頭に浮かぶ無数の図面に沿って僕の両手が目の前の素材を加工していく。
大量の炭と岩石から余計なものを取り除き、二つの素材に空気を加えて圧縮すると、灰がかった白の素材に変化した。
それを様々な形状の部品に変えつつ、一辺三センチ程の正方形の板にしたものに炎と風の魔法陣を転写する。
それらの部品を組み上げ……。
「あ……ありがとうございます……」
「…………………………」
ハンナさんが涙を零しながら、僕の目や鼻から流れる血を拭き取ってくれた。
僕は軽く会釈をすると、さらに、ライラ様の脚の防具を再度加工して組み込む。
「さ……いご、は……」
木箱の中の魔石に両手をかざし、直径五センチ、厚さ一センチの魔石のプレートを二つ製作して……防具に組み込んだ。
「……お、わり……ました……」
「アデル様!」
ハンナさんが床に崩れ落ちそうになる僕の身体を支えると、あらかじめ用意してあったポーションを全身にふりかける。
そして、ハンナさんがぐい、と口に含んだかと思うと……僕に口づけをして流し込んだ。
「……ん……ぷは……」
「ハ……ンナ……さ……」
その後も、ハンナさんは何度も何度も口移しで僕にポーションを注ぎ込んでくれた。
あ、はは……ハンナ、さんの唇……温かくて、柔らかい……。
「絶対に……絶対に、あなたを死なせません! もし……もし、死んでしまったら……私は、あなたを追って死にますからね……!」
……ハンナさん……そんな、の……反則、です……よ……。
だけ、ど……これじゃ、死ね……ないや……。
そして……僕は、意識を失った。
ライラ様は相当嫌がっていたが、もう“カートレット伯爵”となったのだから仕方ないです……。
ハンナさんも他の侍女や使用人達に次々と指示を出しながら、ハンナさん自身も仕事に精を出す。
ライラ様のスケジュール管理や身の回りのお世話、屋敷内のチェック等々……。
うん。この屋敷はハンナさんがいなければ三日とかからずに全てが崩壊しそうだ。
で、僕はというと。
「ふう……湿地帯、か……」
大きく息を吐くと、僕は眉根を寄せてポツリ、と呟く。
前々から懸念していたことだけど、ライラ様の義手、義足、そしてそれを支えるための補助骨格など、全て鋼とミスリルで構成されており、ライラ様の身体は非常に重くなっている。
これは、僕の【設計】が導き出した、ライラ様の復讐を果たすための最適解であるため、他の素材に代えるという選択肢もない。
そこにきて、今回の湿地帯横断だ。
今回みたいな単純な移動の問題だけでなく、万が一その重量が仇となる環境……今回の湿地帯や水中、砂漠地帯だと、身動きが取れず明らかに不利になってしまう。
「何か対策を考えないと……」
そう考えた僕は。
「……【設計】」
発動した瞬間、無数に展開される図面と共に、頭が割れそうな程の激痛が僕を襲う。
「ぐ……あ……!」
く、くそ……これ、以上……は……!
——ドサッ。
「ハアッ……ハアッ……!」
僕は【設計】を止め、そのまま床に倒れ込む。
あー……武器や防具を作った時は大丈夫だったから、いけるかと思ったんだけど……。
やっぱりここまで複雑な構造になってしまうと、僕の身体じゃ何のダメージも負わずに処理することはできないのか……。
息を整え、僕は立ち上がると。
「あ……鼻血……」
まあ、これも仕方ないか。
「でも、必要な材料は確認したし、まずはハンナさんに伝えて材料の調達をしないと」
僕はグイ、と腕で鼻を拭うと、部屋を出てハンナさんの元へと向かった。
◇
「……こちらが、アデル様がお求めになられた素材一式です」
ハンナさんが悲し気な表情を浮かべながら、ずらり、と並べられた素材の前で一礼した。
僕がハンナさんにお願いしたものは、木箱一箱分の魔石、前回の余りである鉄とミスリル、そして……大量の炭と近くの山の火口付近にある灰色の岩石、さらには、小さな炎と風を起こすための魔法陣も。
「ありがとうございます。これがあれば、ライラ様の重量の問題が解決できる筈です」
「そして……アデル様はまた、そのお身体を犠牲になさるのですね……」
そう言うと、ハンナさんがそっと顔を伏せた。
「それで、ライラ様には……」
「……お伝えしておりません」
「ありがとうございます」
唇を噛むハンナさんに、僕は軽く会釈した。
「……やはり、おやめになるおつもりはございませんか……?」
ハンナさんの問い掛けに、僕は静かにかぶりを振る。
だって、これはライラ様が復讐を果たすために、絶対に必要なことだから。
「……僕の命は、ライラ様とハンナ様、お二人のためだけにありますから」
「っ! ……そんなの、嬉しくありません……」
「あはは……すいません……」
泣きそうになるハンナさんに、僕は苦笑するしかなかった。
でも、ライラ様の非願成就のためには……ライラ様を守るためには、絶対に避けられないんだ。
僕はあえてハンナさんを見ないようにして、用意された素材に手をかざした。
「——【設計】!【加工】!【製作】!」
僕は能力を全て同時に発動する。
ライラ様の身体を作ったあの時と同じように。
「グ……ググ……ガア……!」
やはり、僕の頭に激痛が走り、全身が軋む。
ガキン、と歯が割れる程食いしばりながら耐えつつ、頭に浮かぶ無数の図面に沿って僕の両手が目の前の素材を加工していく。
大量の炭と岩石から余計なものを取り除き、二つの素材に空気を加えて圧縮すると、灰がかった白の素材に変化した。
それを様々な形状の部品に変えつつ、一辺三センチ程の正方形の板にしたものに炎と風の魔法陣を転写する。
それらの部品を組み上げ……。
「あ……ありがとうございます……」
「…………………………」
ハンナさんが涙を零しながら、僕の目や鼻から流れる血を拭き取ってくれた。
僕は軽く会釈をすると、さらに、ライラ様の脚の防具を再度加工して組み込む。
「さ……いご、は……」
木箱の中の魔石に両手をかざし、直径五センチ、厚さ一センチの魔石のプレートを二つ製作して……防具に組み込んだ。
「……お、わり……ました……」
「アデル様!」
ハンナさんが床に崩れ落ちそうになる僕の身体を支えると、あらかじめ用意してあったポーションを全身にふりかける。
そして、ハンナさんがぐい、と口に含んだかと思うと……僕に口づけをして流し込んだ。
「……ん……ぷは……」
「ハ……ンナ……さ……」
その後も、ハンナさんは何度も何度も口移しで僕にポーションを注ぎ込んでくれた。
あ、はは……ハンナ、さんの唇……温かくて、柔らかい……。
「絶対に……絶対に、あなたを死なせません! もし……もし、死んでしまったら……私は、あなたを追って死にますからね……!」
……ハンナさん……そんな、の……反則、です……よ……。
だけ、ど……これじゃ、死ね……ないや……。
そして……僕は、意識を失った。
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