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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン
パーティー参加の弊害
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「……受けて、みましょうか」
僕がそう呟くと、ハンナさんが目を見開いた。
ライラ様も、表情こそは変わらないが、その拳をギュ、と握った。
「……理由をお尋ねしても?」
ハンナさんが窺うような視線で僕に尋ねる。
「はい。色々と理由はありますが、一番大きいのは接触することで敵の目的を知ることができる点ですね」
そう……僕達はジェイコブの裏にいたのが“ゴドウィン卿”だということは分かったが、その目的や理由など、分からないことが多すぎる。
お嬢様は向こうが来てから迎え撃てば良いとおっしゃるが、それだと常に後手に回る上に、狙う理由も分からないままだ。
だったらいっそのこと、相手の懐に飛び込んでみるというのも一つの手が。
ただし、かなりの危険を伴うことにはなるけど。
「……つまり、向こうと接触することで、少しでも理由を探ろうということですね?」
「はい」
ハンナさんの言葉に、僕はゆっくりと頷く。
「ですがそうなると、こちらとしても相応の覚悟と準備が必要になりますね……」
「はい。そこは抜かりないようにしましょう。特に、パーティーの場で毒を用いられたりしたら、どうにもなりませんから」
直接武力で来てくれれば、所詮ライラ様の敵じゃない。
でも、搦め手で来られると、ライラ様は……脆い。
だからこそ。
「それで……そのパーティーに、僕も従者として参加させていただきたいのですが……」
「! アデル様!」
僕の申し出に、ライラ様が嬉しそうな声で僕の名を呼んだ。
「はい、会場でライラ様に危害を加えられないようにいたしますので」
「はい……どうぞよろしくお願いします」
そう言うと、ライラ様が潤んだ瞳で僕の手を取った。
「お嬢様……もちろん私もそのパーティーに参加いたしますので」
「……ハンナは別にお留守番でもよろしいのですが」
「いえ、向こうが秘密裏に来るのであれば、お嬢様をお守りするためにも私は絶対に必要ですので」
ライラ様はプイ、とそっけない態度を取るが、ハンナさんも眼鏡をクイ、と持ち上げ、一歩も譲らない。
「とにかく……私の同行を認めない限り、“ゴドウィン卿”のパーティーへの参加は許可しませんので」
「……仕方ないですね」
結局、ライラ様が折れることになったようだ。
だけど。
「僕は、ハンナさんに来ていただいて正解だと思います。そうすれば、ライラ様の周囲は間違いなくお守りすることができますから」
そう言って、二人にニコリ、と微笑むと。
「「はう!」」
……なんですか、その『はう!』というのは……。
「では、“ゴドウィン卿”のパーティーに参加するとして……」
「? 何かあるんですか?」
少し悩んだ表情のハンナさんを不思議に思い、僕は尋ねる。
「いえ……ゴドウィン侯爵領は王国の東側に位置しますが、実は、この伯爵領からですと途中に湿地帯がありまして……」
「湿地帯、ですか……」
うーん……湿地帯っていうと……。
「ひょっとして……あの馬車が使えないってことですか?」
「はい……」
あの馬車というのは、ライラ様の爵位継承のパレードで使った馬車のことだ。
というのも、ライラ様はその腕と脚の重量のため、通常の馬車ではすぐに壊れてしまう。
そのため僕は、ライラ様専用の鋼鉄の馬車を【製作】したんだけど……。
しかも湿地帯であっても、王国内であれば一応街道が整備されているものの、通常の馬車が通れる木製の橋でしかないだろうな。
まあ、普通ならそれでも充分立派なものなんだけど、ね……。
確かに馬車本体の重量に加えて道中の荷物やライラ様の体重を加えると……うん、無理だな。
「……最悪、徒歩ですか」
「ですね……」
僕とハンナさんはガックリとうなだれる。
「な、なんですか……私が重いせいだと言いたげですね」
ライラ様が僕達にある意味憎しみを込めた視線を向ける。
いや、確かにライラ様が悪いわけではないですけど……。
「ですが、そうなると“ゴドウィン卿”の住む“モーカム”の街まで、かなりの時間が掛かりそうですね」
「う……」
ハンナさんは、まるでライラ様の視線へのお返しとばかりに、なおも責めるようにそんなことを言うと、ライラ様が言葉を詰まらせる。
「でも……徒歩となると荷物の運搬、それに時間が掛かることを考えると、護衛要員として何人かつけておきたいところですね」
「「護衛なんていりません!」」
二人が口をそろえてそう言うけど……。
「お二人共、現実的なお話をしましょう……“ゴドウィン卿”のパーティーに参加するための荷物や道中の食料、水、道具は……僕が作れば足りますが、それでもかなりの量です」
「「…………………………」」
「それに、万が一に備えて僕達や荷物の護衛は絶対に必要です。一睡もしないでいるなんて不可能なんですから」
「「…………………………分かりました」」
二人はシュン、とした様子で、渋々頷いた。
「一番の問題は、ライラ様の体重に湿地帯の橋が耐えられるかどうか……ここは賭け、ですね」
「なな、何度も体重の話をしないでください!」
「す、すいません!」
ライラ様は頬をパンパンに膨らませて猛抗議され、僕は慌てて謝った。
ま、まあ確かに女の子に対して体重の話ばかり言うのもなあ…。
「い、いずれにせよ、護衛を雇いに行きましょうか」
「「ええと……どちらに?」」
二人が不思議そうに尋ねる。
「もちろん、冒険者ギルドにですよ」
僕がそう呟くと、ハンナさんが目を見開いた。
ライラ様も、表情こそは変わらないが、その拳をギュ、と握った。
「……理由をお尋ねしても?」
ハンナさんが窺うような視線で僕に尋ねる。
「はい。色々と理由はありますが、一番大きいのは接触することで敵の目的を知ることができる点ですね」
そう……僕達はジェイコブの裏にいたのが“ゴドウィン卿”だということは分かったが、その目的や理由など、分からないことが多すぎる。
お嬢様は向こうが来てから迎え撃てば良いとおっしゃるが、それだと常に後手に回る上に、狙う理由も分からないままだ。
だったらいっそのこと、相手の懐に飛び込んでみるというのも一つの手が。
ただし、かなりの危険を伴うことにはなるけど。
「……つまり、向こうと接触することで、少しでも理由を探ろうということですね?」
「はい」
ハンナさんの言葉に、僕はゆっくりと頷く。
「ですがそうなると、こちらとしても相応の覚悟と準備が必要になりますね……」
「はい。そこは抜かりないようにしましょう。特に、パーティーの場で毒を用いられたりしたら、どうにもなりませんから」
直接武力で来てくれれば、所詮ライラ様の敵じゃない。
でも、搦め手で来られると、ライラ様は……脆い。
だからこそ。
「それで……そのパーティーに、僕も従者として参加させていただきたいのですが……」
「! アデル様!」
僕の申し出に、ライラ様が嬉しそうな声で僕の名を呼んだ。
「はい、会場でライラ様に危害を加えられないようにいたしますので」
「はい……どうぞよろしくお願いします」
そう言うと、ライラ様が潤んだ瞳で僕の手を取った。
「お嬢様……もちろん私もそのパーティーに参加いたしますので」
「……ハンナは別にお留守番でもよろしいのですが」
「いえ、向こうが秘密裏に来るのであれば、お嬢様をお守りするためにも私は絶対に必要ですので」
ライラ様はプイ、とそっけない態度を取るが、ハンナさんも眼鏡をクイ、と持ち上げ、一歩も譲らない。
「とにかく……私の同行を認めない限り、“ゴドウィン卿”のパーティーへの参加は許可しませんので」
「……仕方ないですね」
結局、ライラ様が折れることになったようだ。
だけど。
「僕は、ハンナさんに来ていただいて正解だと思います。そうすれば、ライラ様の周囲は間違いなくお守りすることができますから」
そう言って、二人にニコリ、と微笑むと。
「「はう!」」
……なんですか、その『はう!』というのは……。
「では、“ゴドウィン卿”のパーティーに参加するとして……」
「? 何かあるんですか?」
少し悩んだ表情のハンナさんを不思議に思い、僕は尋ねる。
「いえ……ゴドウィン侯爵領は王国の東側に位置しますが、実は、この伯爵領からですと途中に湿地帯がありまして……」
「湿地帯、ですか……」
うーん……湿地帯っていうと……。
「ひょっとして……あの馬車が使えないってことですか?」
「はい……」
あの馬車というのは、ライラ様の爵位継承のパレードで使った馬車のことだ。
というのも、ライラ様はその腕と脚の重量のため、通常の馬車ではすぐに壊れてしまう。
そのため僕は、ライラ様専用の鋼鉄の馬車を【製作】したんだけど……。
しかも湿地帯であっても、王国内であれば一応街道が整備されているものの、通常の馬車が通れる木製の橋でしかないだろうな。
まあ、普通ならそれでも充分立派なものなんだけど、ね……。
確かに馬車本体の重量に加えて道中の荷物やライラ様の体重を加えると……うん、無理だな。
「……最悪、徒歩ですか」
「ですね……」
僕とハンナさんはガックリとうなだれる。
「な、なんですか……私が重いせいだと言いたげですね」
ライラ様が僕達にある意味憎しみを込めた視線を向ける。
いや、確かにライラ様が悪いわけではないですけど……。
「ですが、そうなると“ゴドウィン卿”の住む“モーカム”の街まで、かなりの時間が掛かりそうですね」
「う……」
ハンナさんは、まるでライラ様の視線へのお返しとばかりに、なおも責めるようにそんなことを言うと、ライラ様が言葉を詰まらせる。
「でも……徒歩となると荷物の運搬、それに時間が掛かることを考えると、護衛要員として何人かつけておきたいところですね」
「「護衛なんていりません!」」
二人が口をそろえてそう言うけど……。
「お二人共、現実的なお話をしましょう……“ゴドウィン卿”のパーティーに参加するための荷物や道中の食料、水、道具は……僕が作れば足りますが、それでもかなりの量です」
「「…………………………」」
「それに、万が一に備えて僕達や荷物の護衛は絶対に必要です。一睡もしないでいるなんて不可能なんですから」
「「…………………………分かりました」」
二人はシュン、とした様子で、渋々頷いた。
「一番の問題は、ライラ様の体重に湿地帯の橋が耐えられるかどうか……ここは賭け、ですね」
「なな、何度も体重の話をしないでください!」
「す、すいません!」
ライラ様は頬をパンパンに膨らませて猛抗議され、僕は慌てて謝った。
ま、まあ確かに女の子に対して体重の話ばかり言うのもなあ…。
「い、いずれにせよ、護衛を雇いに行きましょうか」
「「ええと……どちらに?」」
二人が不思議そうに尋ねる。
「もちろん、冒険者ギルドにですよ」
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