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幕間②
絶望がくれた希望③
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■ライラ=カートレット視点
アデル様が一命をとりとめてからおよそ一か月。
今もまだ、アデル様はお目覚めになられていない。
私はもどかしさを紛らわせるために、一か月の間必死でこの白銀の腕と脚を扱えるように訓練を続けていた。
どうやら黒く輝くこの左眼が私の腕や脚を制御してくれるらしく、常人並みに扱えるようになるのにそれ程手間はかからなかった。
だけど、私はその程度で満足する訳にはいかない。
私の望みは、あの日両親を殺し、私を穢し、嬲り、壊したあの連中とその一族郎党に至るまで、全てこの世から消し去ることなのだから。
それに、私には[刈り取る者]の職業がある。
この能力を知った時、お父様やお母様、そして私はガッカリしたものだったけど、今ではこれ程ありがたいと思うことはない。
この、[暗殺者]よりも生命を奪うことに特化した、[勇者]並みに稀有な職業があれば……。
「あは♪」
おっといけない。
復讐の時を想って、思わずもう一人の自分が出てきてしまった。
これは……復讐の時まで取っておかないと。
すると。
「お嬢様! お嬢様あっ!」
珍しくハンナが慌ててやって来た。
「一体どうしたのです、ハンナ」
「アデル様が……お目覚めになられました!」
「ほ、本当ですか!」
そう叫ぶやいなや、私はあのお方のいる部屋へ向かい、ガシャガシャと音を立てながら大急ぎで駆けつける。
——バアン!
慌てているあまり、つい腕の操作を誤って部屋の扉を吹き飛ばしてしまったが、今はそんなことどうでもいい。
それより、アデル様は……っ!
「あ……あああ……!」
私の目の前に、少しお痩せになられたアデル様がお立ちになっていた。
アデル様、が……!
「あああああああああああ……!」
私は右の瞳から大粒の涙を零す。
アデル様が、生きてここに立っていることが嬉しくて。
私の後を追って同じくこの部屋に駆けつけたハンナが、アデル様がお倒れになられた後のことについて説明すると、彼は大層驚かれた。
そして、自嘲気味に笑う。
まるで、アデル様自身が生きていたことが失敗であるかのように。
私はそんなアデル様を否定したくて、『そんなことはない』と、涙を流しながら呟いた。
すると。
「うん……それじゃ、伯爵様の想いが成就するよう、祈っています」
そう言い残し、アデル様がこの場を立ち去ろうとした。
もちろん、私はすぐにアデル様を引き留めた。
私は……アデル様にお傍にいていただきたい。
ずっと、お傍に……。
だから、お礼を兼ねての食事の時、私はお願いした。
せめて復讐を果たすその時まで、私の傍にいて欲しい、と。
それくらいしか、アデル様を繋ぎ止める理由が見つからなかったから。
だけど、アデル様はまるで自分を卑下する言葉を繰り返す。
自分は“役立たず”であると。
私は否定した。
だって、許せないから。
私をその生命を懸けて救い、この“白銀の翼”を与えてくださったアデル様が、“役立たず”な筈がないから。
すると……アデル様は縋るような瞳で私を見つめた。
嬉しかった。
だから、私は精一杯アデル様を……アデル様を肯定した。
“役立たず”なんかじゃない。
誰よりも素敵で、素晴らしくて……私の魂を生き返らせてくださった、このアデル様を。
しばらくして泣き止んだアデル様は、私の傍にいると誓ってくださった。
私のこの白銀の手に、誓いの口づけをして。
胸が高鳴った。
この復讐でしか燃え盛ることのない魂が震えた。
ああ……アデル様……私はもう、アデル様無しでは生きられない。
◇
それから、私達は復讐に向けて動き出す。
ギルドでの情報収集やその時に向けた魔物を相手にした戦闘訓練、武器と防具の【製作】など。
ギルドの連中は、まるでアデル様を馬鹿にするような態度を見せた。
私のアデル様にあのような……!
アデル様はお優しいのであまり仰らないけど、私は絶対に許さない。
あの受付嬢と、“黄金の旋風”とかいう冒険者パーティーの連中、特に“カルラ”とかいう女。
聞けば、アデル様の幼馴染で恋人であったにもかかわらず、裏切った挙句“役立たず”呼ばわりして追放するだなんて。
なのに、まるで未練があるかのようなあの態度。
……あの女には今度、ハッキリ分からせないと。
アデル様は、もう私のものなのだと。
それから、アデル様のお蔭であの日の首謀者がジェイコブの豚であることが判明し、全ての準備を整えた私達は豚とその一味をこの屋敷で迎え撃った。
いや……蹂躙した、が正しい。
私はただ、連中を壊して遊んだ。
あの日、私やお母様にしたように。
豚を裏で操っていたという“ゴドウィン卿”も、同じように壊してやるとしよう。
「あは♪ 楽しみ♬」
私はその時を想像し、口の端を吊り上げる。
それに。
——コンコン。
「ライラ様、こちらでしたか」
「アデル様!」
アデル様が私の部屋を尋ねてきてくださった!
それだけで思わず飛び上がりそうになるが、悲しいことに私は復讐を果たす時……ニンゲンを壊す時でしか、表情を変えることができなくなってしまったみたいだ。
でも、それでもアデル様は、私の様子から、仕草から、瞳の色から私の想いをくみ取ってくださる。
「そろそろ、ギルドに向かいましょうか」
「はい!」
私はアデル様に返事をすると、彼の後について行く。
そして、彼の背中を眺めながら決意する。
私に希望を与えてくださった彼を絶対に手離さない、と。
だけどもし……もし、彼が私の元を離れるその時は。
「……………………あは♪」
アデル様が一命をとりとめてからおよそ一か月。
今もまだ、アデル様はお目覚めになられていない。
私はもどかしさを紛らわせるために、一か月の間必死でこの白銀の腕と脚を扱えるように訓練を続けていた。
どうやら黒く輝くこの左眼が私の腕や脚を制御してくれるらしく、常人並みに扱えるようになるのにそれ程手間はかからなかった。
だけど、私はその程度で満足する訳にはいかない。
私の望みは、あの日両親を殺し、私を穢し、嬲り、壊したあの連中とその一族郎党に至るまで、全てこの世から消し去ることなのだから。
それに、私には[刈り取る者]の職業がある。
この能力を知った時、お父様やお母様、そして私はガッカリしたものだったけど、今ではこれ程ありがたいと思うことはない。
この、[暗殺者]よりも生命を奪うことに特化した、[勇者]並みに稀有な職業があれば……。
「あは♪」
おっといけない。
復讐の時を想って、思わずもう一人の自分が出てきてしまった。
これは……復讐の時まで取っておかないと。
すると。
「お嬢様! お嬢様あっ!」
珍しくハンナが慌ててやって来た。
「一体どうしたのです、ハンナ」
「アデル様が……お目覚めになられました!」
「ほ、本当ですか!」
そう叫ぶやいなや、私はあのお方のいる部屋へ向かい、ガシャガシャと音を立てながら大急ぎで駆けつける。
——バアン!
慌てているあまり、つい腕の操作を誤って部屋の扉を吹き飛ばしてしまったが、今はそんなことどうでもいい。
それより、アデル様は……っ!
「あ……あああ……!」
私の目の前に、少しお痩せになられたアデル様がお立ちになっていた。
アデル様、が……!
「あああああああああああ……!」
私は右の瞳から大粒の涙を零す。
アデル様が、生きてここに立っていることが嬉しくて。
私の後を追って同じくこの部屋に駆けつけたハンナが、アデル様がお倒れになられた後のことについて説明すると、彼は大層驚かれた。
そして、自嘲気味に笑う。
まるで、アデル様自身が生きていたことが失敗であるかのように。
私はそんなアデル様を否定したくて、『そんなことはない』と、涙を流しながら呟いた。
すると。
「うん……それじゃ、伯爵様の想いが成就するよう、祈っています」
そう言い残し、アデル様がこの場を立ち去ろうとした。
もちろん、私はすぐにアデル様を引き留めた。
私は……アデル様にお傍にいていただきたい。
ずっと、お傍に……。
だから、お礼を兼ねての食事の時、私はお願いした。
せめて復讐を果たすその時まで、私の傍にいて欲しい、と。
それくらいしか、アデル様を繋ぎ止める理由が見つからなかったから。
だけど、アデル様はまるで自分を卑下する言葉を繰り返す。
自分は“役立たず”であると。
私は否定した。
だって、許せないから。
私をその生命を懸けて救い、この“白銀の翼”を与えてくださったアデル様が、“役立たず”な筈がないから。
すると……アデル様は縋るような瞳で私を見つめた。
嬉しかった。
だから、私は精一杯アデル様を……アデル様を肯定した。
“役立たず”なんかじゃない。
誰よりも素敵で、素晴らしくて……私の魂を生き返らせてくださった、このアデル様を。
しばらくして泣き止んだアデル様は、私の傍にいると誓ってくださった。
私のこの白銀の手に、誓いの口づけをして。
胸が高鳴った。
この復讐でしか燃え盛ることのない魂が震えた。
ああ……アデル様……私はもう、アデル様無しでは生きられない。
◇
それから、私達は復讐に向けて動き出す。
ギルドでの情報収集やその時に向けた魔物を相手にした戦闘訓練、武器と防具の【製作】など。
ギルドの連中は、まるでアデル様を馬鹿にするような態度を見せた。
私のアデル様にあのような……!
アデル様はお優しいのであまり仰らないけど、私は絶対に許さない。
あの受付嬢と、“黄金の旋風”とかいう冒険者パーティーの連中、特に“カルラ”とかいう女。
聞けば、アデル様の幼馴染で恋人であったにもかかわらず、裏切った挙句“役立たず”呼ばわりして追放するだなんて。
なのに、まるで未練があるかのようなあの態度。
……あの女には今度、ハッキリ分からせないと。
アデル様は、もう私のものなのだと。
それから、アデル様のお蔭であの日の首謀者がジェイコブの豚であることが判明し、全ての準備を整えた私達は豚とその一味をこの屋敷で迎え撃った。
いや……蹂躙した、が正しい。
私はただ、連中を壊して遊んだ。
あの日、私やお母様にしたように。
豚を裏で操っていたという“ゴドウィン卿”も、同じように壊してやるとしよう。
「あは♪ 楽しみ♬」
私はその時を想像し、口の端を吊り上げる。
それに。
——コンコン。
「ライラ様、こちらでしたか」
「アデル様!」
アデル様が私の部屋を尋ねてきてくださった!
それだけで思わず飛び上がりそうになるが、悲しいことに私は復讐を果たす時……ニンゲンを壊す時でしか、表情を変えることができなくなってしまったみたいだ。
でも、それでもアデル様は、私の様子から、仕草から、瞳の色から私の想いをくみ取ってくださる。
「そろそろ、ギルドに向かいましょうか」
「はい!」
私はアデル様に返事をすると、彼の後について行く。
そして、彼の背中を眺めながら決意する。
私に希望を与えてくださった彼を絶対に手離さない、と。
だけどもし……もし、彼が私の元を離れるその時は。
「……………………あは♪」
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