機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
28 / 146
幕間②

絶望がくれた希望③

しおりを挟む
■ライラ=カートレット視点

 アデル様が一命をとりとめてからおよそ一か月。

 今もまだ、アデル様はお目覚めになられていない。

 私はもどかしさを紛らわせるために、一か月の間必死でこの白銀の腕と脚を扱えるように訓練を続けていた。

 どうやら黒く輝くこの左眼が私の腕や脚を制御してくれるらしく、常人並みに扱えるようになるのにそれ程手間はかからなかった。

 だけど、私はその程度で満足する訳にはいかない。

 私の望みは、あの日両親を殺し、私をけがし、なぶり、壊したあの連中とその一族郎党に至るまで、全てこの世から消し去ることなのだから。

 それに、私には[刈り取る者グリム・リーパー]の職業ジョブがある。
 この能力を知った時、お父様やお母様、そして私はガッカリしたものだったけど、今ではこれ程ありがたいと思うことはない。

 この、[暗殺者]よりも生命を奪うことに特化した、[勇者]並みに稀有な職業ジョブがあれば……。

「あは♪」

 おっといけない。
 復讐の時を想って、思わずもう一人の自分・・・・・・・が出てきてしまった。

 これは……復讐の時まで取っておかないと。

 すると。

「お嬢様! お嬢様あっ!」

 珍しくハンナが慌ててやって来た。

「一体どうしたのです、ハンナ」
「アデル様が……お目覚めになられました!」
「ほ、本当ですか!」

 そう叫ぶやいなや、私はあのお方のいる部屋へ向かい、ガシャガシャと音を立てながら大急ぎで駆けつける。

 ——バアン!

 慌てているあまり、つい腕の操作を誤って部屋の扉を吹き飛ばしてしまったが、今はそんなことどうでもいい。

 それより、アデル様は……っ!

「あ……あああ……!」

 私の目の前に、少しお痩せになられたアデル様がお立ちになっていた。

 アデル様、が……!

「あああああああああああ……!」

 私は右の瞳から大粒の涙を零す。

 アデル様が、生きてここに立っていることが嬉しくて。

 私の後を追って同じくこの部屋に駆けつけたハンナが、アデル様がお倒れになられた後のことについて説明すると、彼は大層驚かれた。

 そして、自嘲気味に笑う。
 まるで、アデル様自身が生きていたことが失敗であるかのように。

 私はそんなアデル様を否定したくて、『そんなことはない』と、涙を流しながら呟いた。

 すると。

「うん……それじゃ、伯爵様の想いが成就するよう、祈っています」

 そう言い残し、アデル様がこの場を立ち去ろうとした。
 もちろん、私はすぐにアデル様を引き留めた。

 私は……アデル様にお傍にいていただきたい。
 ずっと、お傍に……。

 だから、お礼を兼ねての食事の時、私はお願いした。
 せめて復讐を果たすその時まで、私の傍にいて欲しい、と。

 それくらいしか、アデル様を繋ぎ止める理由が見つからなかったから。

 だけど、アデル様はまるで自分を卑下する言葉を繰り返す。

 自分は“役立たず”であると。

 私は否定した。
 だって、許せないから。

 私をその生命を懸けて救い、この“白銀の翼”を与えてくださったアデル様が、“役立たず”な筈がないから。

 すると……アデル様は縋るような瞳で私を見つめた。

 嬉しかった。
 だから、私は精一杯アデル様を……アデル様を肯定した。

 “役立たず”なんかじゃない。
 誰よりも素敵で、素晴らしくて……私の魂を生き返らせてくださった、このアデル様を。

 しばらくして泣き止んだアデル様は、私の傍にいると誓ってくださった。

 私のこの白銀の手に、誓いの口づけをして。

 胸が高鳴った。
 この復讐でしか燃え盛ることのない魂が震えた。

 ああ……アデル様……私はもう、アデル様無しでは生きられない。

 ◇

 それから、私達は復讐に向けて動き出す。
 ギルドでの情報収集やその時に向けた魔物を相手にした戦闘訓練、武器と防具の【製作】など。

 ギルドの連中は、まるでアデル様を馬鹿にするような態度を見せた。
 私の・・アデル様にあのような……!

 アデル様はお優しいのであまり仰らないけど、私は絶対に許さない。
 あの受付嬢と、“黄金の旋風”とかいう冒険者パーティーの連中、特に“カルラ”とかいう女。

 聞けば、アデル様の幼馴染で恋人であったにもかかわらず、裏切った挙句“役立たず”呼ばわりして追放するだなんて。

 なのに、まるで未練があるかのようなあの態度。

 ……あの女には今度、ハッキリ分からせないと。
 アデル様は、もう私のもの・・・・なのだと。

 それから、アデル様のお蔭であの日の首謀者がジェイコブの豚であることが判明し、全ての準備を整えた私達は豚とその一味をこの屋敷で迎え撃った。

 いや……蹂躙した、が正しい。

 私はただ、連中を壊して遊んだ。
 あの日、私やお母様にしたように。

 豚を裏で操っていたという“ゴドウィン卿”も、同じように壊してやるとしよう。

「あは♪ 楽しみ♬」

 私はその時を想像し、口の端を吊り上げる。

 それに。

 ——コンコン。

「ライラ様、こちらでしたか」
「アデル様!」

 アデル様が私の部屋を尋ねてきてくださった!

 それだけで思わず飛び上がりそうになるが、悲しいことに私は復讐を果たす時……ニンゲンを壊す時でしか、表情を変えることができなくなってしまったみたいだ。

 でも、それでもアデル様は、私の様子から、仕草から、瞳の色から私の想いをくみ取ってくださる。

「そろそろ、ギルドに向かいましょうか」
「はい!」

 私はアデル様に返事をすると、彼の後について行く。

 そして、彼の背中を眺めながら決意する。

 私に希望を与えてくださった彼を絶対に手離さない、と。

 だけどもし……もし、彼が私の元を離れるその時は。

「……………………あは♪」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...