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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
機械仕掛けの“死神”と共に
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「アデル様、お食事の用意が整いました」
敷地に聳え立つ壁に囲まれた一角を眺めていると、ハンナさんが僕を呼びに来てくれた。
「はい、ありがとうございます」
「ふふ、今日もたくさんの鳥たちで賑わっていますね」
「あはは、そうですね……」
この中なら、鳥たちも食事に困ることはないから、ね……。
「うふふ、ではまいりましょうか」
「ええ」
僕とハンナさんは並んで歩き、食堂へと向かう途中、屋敷や庭では、他の使用人達がせわしなく仕事に精を出している。
あの日以降、この伯爵邸は活気に包まれていた。
それはそうだろう。
ライラ様の健在ぶりを内外に示したのだから。
あの後、ライラ様は王国の承認を得て正式にカートレット伯爵家を継承した。
それと合わせて、このアイザックの街で爵位継承に伴う祝賀パレードを行った。
無表情ではあるものの、鋼鉄の馬車の上から白銀の腕で手を振るライラ様の姿は荘厳で、アイザックの住民達は皆その姿に見惚れていた。
そして、新しく誕生したライラ=カートレット伯爵を祝福した。
その伯爵位継承により、例の先代伯爵様襲撃事件についてもアルグレア王国がやっと重い腰を上げ、調査に乗り出した。
その調査の過程で分かったことだが、ジェイコブはギルドでクエストと称して冒険者達をスカウトし、裏で色々と悪事を働いていたようだ。
誘拐、略奪、強盗。
もちろん、先代伯爵様を襲撃したことについても、ジェイコブ邸で押収した資料等から全てが判明した。
だが、肝心のジェイコブをはじめとしたその一味は未だに見つかってはおらず、王国は今も一級犯罪者としてジェイコブの行方を追っている。
永遠に見つかることのない、ジェイコブ一味を。
「あ! アデル様!」
食堂に入るなり、ライラ様がガシャガシャと音を立てて駈け寄って来た。
「あはは、お待たせしました」
「いえ、私も今来たばかりです」
そう言うと、表情は変わらないけど右の瞳をキラキラとさせていた。
尻尾の幻影も……うん、今日も目一杯振り切れているな。
「お二人共、席にお着きくださいませ」
苦笑するハンナさんに窘められ、僕達は席に着くと、テーブルに次々と料理が並べられる。
うわあ……今日も圧倒的な量だなあ……。
「あ、はは……料理長は、僕をジェイコブにでもしようとお考えなのでしょうか……」
「「っ!?」」
僕の言葉に、ライラ様とハンナさんがハッとなった。
「い、いけません! もっと料理を減らさないと!」
「そうです! こうなっては太らないように運動を!」
二人が鼻息荒くそんなことを言い出した。
むしろ、もっと早く気づくべきだと思います……。
「ところで、今後のことなんですが……」
「今後、ですか……?」
そう言うと、ライラ様の右の瞳に不安の色が宿る。
「ええ……僕達の前に、新たな復讐対象が現れました。“ゴドウィン卿”という貴族が」
「そ、そうですね」
すると、何故かライラ様がホッと胸を撫で下ろした。
「? ライラ様?」
「あ、い、いえ……それで、私達はこれからどうすべきなのでしょうか」
「はい。まずは、向こうの目的が何なのか、調べることから始めないといけませんね。さすがに情報がなさすぎます」
「ですね……」
僕達三人は肩を落とす。
「とはいえ、今回のことは“ゴドウィン卿”にも確実に伝わっています。となれば……」
「……向こうから接触があるかもしれませんね」
僕の言葉を引き継いでそう告げるハンナさんに、僕は無言で頷いた。
「アデル様、それであれば簡単です」
「と言いますと?」
そっと目を瞑りながらそう語るライラ様に僕は尋ねる。
「向こうが来てくれるのであれば、それを迎えれば良いだけですから」
「あはは、ですね」
自信満々に語るライラ様に、僕は苦笑しながら首肯した。
「そ、それより……」
「何でしょうか?」
ライラ様がおずおずと僕を窺うけど……一体どうしたんだろう。
「そ、その……アデル様は、これからも私の傍にいてくださいます、よね……?」
そう尋ねるライラ様。
恐らく、実行犯であるジェイコブ一味への復讐を終えたことで、僕がライラ様の元から去ってしまうのではないかと考えてしまっているのかもしれないな。
そう考えたら、僕はライラ様をつい揶揄いたくなり、わざと考え込むフリをした。
すると。
「……傍に、いてくださいますよね?」
ライラ様は僕を見つめながら口の端を僅かに吊り上げ、「あは♪」と小さく声を漏らした。
まるで、『逃がさない』と釘を刺すように。
「……ええ。僕はあなたに全てを捧げましたから」
「! そ、そうですよね!」
「お嬢様、よろしゅうございました!」
「ハンナ! ええ!」
ハンナさんと手を取り合いながら、無表情ではしゃぐライラ様。
だけど……ライラ様の心はもう……。
「ライラ様」
「……はい」
その動きが止まり、ライラ様は僕をジッと見つめる。
そんなライラ様の傍に寄ると。
「改めて誓います。僕の身も心も、ライラ様と共に」
その言葉と共に、そっと白銀の手に誓いのキスをした。
僕は、この壊れてしまった機械仕掛けの“死神”と共に歩こう。
いつかその心が修復される、その日まで。
——この“役立たず”の命が尽き果てる、その日まで。
敷地に聳え立つ壁に囲まれた一角を眺めていると、ハンナさんが僕を呼びに来てくれた。
「はい、ありがとうございます」
「ふふ、今日もたくさんの鳥たちで賑わっていますね」
「あはは、そうですね……」
この中なら、鳥たちも食事に困ることはないから、ね……。
「うふふ、ではまいりましょうか」
「ええ」
僕とハンナさんは並んで歩き、食堂へと向かう途中、屋敷や庭では、他の使用人達がせわしなく仕事に精を出している。
あの日以降、この伯爵邸は活気に包まれていた。
それはそうだろう。
ライラ様の健在ぶりを内外に示したのだから。
あの後、ライラ様は王国の承認を得て正式にカートレット伯爵家を継承した。
それと合わせて、このアイザックの街で爵位継承に伴う祝賀パレードを行った。
無表情ではあるものの、鋼鉄の馬車の上から白銀の腕で手を振るライラ様の姿は荘厳で、アイザックの住民達は皆その姿に見惚れていた。
そして、新しく誕生したライラ=カートレット伯爵を祝福した。
その伯爵位継承により、例の先代伯爵様襲撃事件についてもアルグレア王国がやっと重い腰を上げ、調査に乗り出した。
その調査の過程で分かったことだが、ジェイコブはギルドでクエストと称して冒険者達をスカウトし、裏で色々と悪事を働いていたようだ。
誘拐、略奪、強盗。
もちろん、先代伯爵様を襲撃したことについても、ジェイコブ邸で押収した資料等から全てが判明した。
だが、肝心のジェイコブをはじめとしたその一味は未だに見つかってはおらず、王国は今も一級犯罪者としてジェイコブの行方を追っている。
永遠に見つかることのない、ジェイコブ一味を。
「あ! アデル様!」
食堂に入るなり、ライラ様がガシャガシャと音を立てて駈け寄って来た。
「あはは、お待たせしました」
「いえ、私も今来たばかりです」
そう言うと、表情は変わらないけど右の瞳をキラキラとさせていた。
尻尾の幻影も……うん、今日も目一杯振り切れているな。
「お二人共、席にお着きくださいませ」
苦笑するハンナさんに窘められ、僕達は席に着くと、テーブルに次々と料理が並べられる。
うわあ……今日も圧倒的な量だなあ……。
「あ、はは……料理長は、僕をジェイコブにでもしようとお考えなのでしょうか……」
「「っ!?」」
僕の言葉に、ライラ様とハンナさんがハッとなった。
「い、いけません! もっと料理を減らさないと!」
「そうです! こうなっては太らないように運動を!」
二人が鼻息荒くそんなことを言い出した。
むしろ、もっと早く気づくべきだと思います……。
「ところで、今後のことなんですが……」
「今後、ですか……?」
そう言うと、ライラ様の右の瞳に不安の色が宿る。
「ええ……僕達の前に、新たな復讐対象が現れました。“ゴドウィン卿”という貴族が」
「そ、そうですね」
すると、何故かライラ様がホッと胸を撫で下ろした。
「? ライラ様?」
「あ、い、いえ……それで、私達はこれからどうすべきなのでしょうか」
「はい。まずは、向こうの目的が何なのか、調べることから始めないといけませんね。さすがに情報がなさすぎます」
「ですね……」
僕達三人は肩を落とす。
「とはいえ、今回のことは“ゴドウィン卿”にも確実に伝わっています。となれば……」
「……向こうから接触があるかもしれませんね」
僕の言葉を引き継いでそう告げるハンナさんに、僕は無言で頷いた。
「アデル様、それであれば簡単です」
「と言いますと?」
そっと目を瞑りながらそう語るライラ様に僕は尋ねる。
「向こうが来てくれるのであれば、それを迎えれば良いだけですから」
「あはは、ですね」
自信満々に語るライラ様に、僕は苦笑しながら首肯した。
「そ、それより……」
「何でしょうか?」
ライラ様がおずおずと僕を窺うけど……一体どうしたんだろう。
「そ、その……アデル様は、これからも私の傍にいてくださいます、よね……?」
そう尋ねるライラ様。
恐らく、実行犯であるジェイコブ一味への復讐を終えたことで、僕がライラ様の元から去ってしまうのではないかと考えてしまっているのかもしれないな。
そう考えたら、僕はライラ様をつい揶揄いたくなり、わざと考え込むフリをした。
すると。
「……傍に、いてくださいますよね?」
ライラ様は僕を見つめながら口の端を僅かに吊り上げ、「あは♪」と小さく声を漏らした。
まるで、『逃がさない』と釘を刺すように。
「……ええ。僕はあなたに全てを捧げましたから」
「! そ、そうですよね!」
「お嬢様、よろしゅうございました!」
「ハンナ! ええ!」
ハンナさんと手を取り合いながら、無表情ではしゃぐライラ様。
だけど……ライラ様の心はもう……。
「ライラ様」
「……はい」
その動きが止まり、ライラ様は僕をジッと見つめる。
そんなライラ様の傍に寄ると。
「改めて誓います。僕の身も心も、ライラ様と共に」
その言葉と共に、そっと白銀の手に誓いのキスをした。
僕は、この壊れてしまった機械仕掛けの“死神”と共に歩こう。
いつかその心が修復される、その日まで。
——この“役立たず”の命が尽き果てる、その日まで。
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