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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
核心
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「ん? なんだ? この小汚い奴は?」
入ろうとした部屋から出てきたのは、まさかのジェイコブだった。
「あ……! ほ、本日からこちらで働かせていただいてます、冒険者の“アデル”です!」
僕は直立不動になり、ジェイコブに媚びを売るように挨拶をした。
「ふむ……冒険者、な……」
そう言うと、ジェイコブは値踏みするように僕を上から下までジロジロと見る。
「貴様も冒険者なら、そこそこ強いのか?」
「あ、い、いえ……戦闘に関しては……」
「なんだ、じゃあもういい」
そう言うと、ジェイコブがシッシッ、と追い払うような仕草をした。
これは……チャンスかも。
「で、ですが! 僕は[運び屋]としていつも帯同していました! しかも、あの“黄金の旋風”に!」
「ふむ……」
すると興味が出てきたのか、ジェイコブはまた僕へと向き直り、顎をさすった。
「なら貴様、色々と冒険者達に伝手もあったりするのか?」
「! そ、それはもう!」
「ふむ……」
ジェイコブは少し考え込み、そして。
「よし、貴様を正式に雇ってやる。その上で、腕の立つ冒険者を連れてこい」
「ええ!? や、雇っていただけるんですか!?」
ジェイコブの言葉に、僕は驚きの声を上げた。
「そうだ。トマス! トマスはいるか!」
ジェイコブは頷くと、執事の名前を叫んだ。
「お呼びでしょうか?」
すると、執事は音もなく僕達の前に現れた。
コイツ……ひょっとしてハンナさんと同じ……。
「うむ。コイツを正式に雇うことにした」
「それは、雑用としてでしょうか?」
「いや、コイツには腕の立つ冒険者のスカウトをしてもらう。ついては、アイツ等と面通しをさせておけ」
「かしこまりました」
そう言うと、ジェイコブはそのブヨブヨとした丸い身体を揺らしながら、どこかへ行ってしまった。
「少々お尋ねしますが……一体どのような流れでそうなったのですか?」
執事が射殺すような視線で僕を見つめる。
それは、まさに蟷螂に睨まれた羽虫のような気分だった。
「はい。実は僕、あの“黄金の旋風”の[運び屋]をしていたんです。色々と冒険者の知り合いも多いものですから、それで……」
「そうか」
僕は努めて冷静にそう答えると、執事は急に敬語をやめ、クルリ、と身体を翻した。
「じゃあ、お前の同僚となる者達を紹介するからついて来い」
そう言うと、執事がスタスタと歩き始めたので、僕も慌ててついて行った。
「ここだ」
そこは、屋敷一階の一番奥にある部屋だった。
扉を開けると……一人、二人……全部で九人の怪しい風体の男達がいた。
その中には、先程僕に暴力を振るった三人も。
「全員揃っているな」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
執事の号令に、男達が一斉に返事をした。
ということは……この執事が元締め?
「新たにお館様がお雇いになった、“アデル”だ」
「ア、アデルです!」
「あ! お前は!」
先程の男の一人が、僕を指差した。
「……お館様が正式に雇われたのだ。今後アデルに手を出した者は、同じ目に遭うと思え」
「は、はい……」
僕と男の様子を見て、色々と察した執事が釘を刺す。
だけど……これは色々とやりやすくなったぞ。
「そういうことだ。仲良くするんだぞ」
そう言うと、執事は僕を置いて部屋を出て行った。
「へ、へへ、さっきは悪かったな」
執事が余程怖いのか、さっきの男達が愛想笑いを浮かべた。
「い、いえ! これからどうぞよろしくお願いします! それより、皆さんお強いですね……」
「あ、ああ、だろ?」
さっきの件があって気まずいのと、褒められたことで気を良くしたのか、男は嬉しそうな表情を見せた。
「ところで皆さんは、このお屋敷でどんなお仕事を?」
「おう! 俺達はジェイコブ様の用心棒? 兵士? まあ、そんなモンだ」
「へえー……」
男の言葉に、僕は感心したように頷く。
「ワハハ! まあ、何つっても俺達は騎士より強えんだぜ!」
別の男が会話に加わり、満面の笑みで自慢した。
「そ、そうなんですか!? 騎士っていったらひょっとして……あの領主様のところとか?」
「おう! よく分かったな!」
僕は探りを入れるため、おずおずとそんなことを尋ねてみると……予想通りの答えが返ってきた。
「あはは、この街で騎士といえば、領主様のところしかないですからね」
「まあな。あの時は……「オイオイ、別にお前が倒したんじゃなくて、アレは頭だろ!」」
男が武勇伝を語ろうとしたところを遮り、後ろで聞いていた別の奴が茶々を入れた。
「ト、トドメは確かに頭だけど、その前に弱らせたのは俺だろうがよ……」
「ワハハハハ! あれは俺達で囲んだからだろ!」
そう言うと、部屋にいる連中がドッ、と笑った。
「み、皆さんすごいんですね……」
「つーか、今度またやりあう時には、お前にも特等席で見せてやるよ!」
「そ、それは楽しみです! ということは、次も領主様のところの騎士ですか?」
「まあそうだな」
……ということは、ジェイコブはライラ様達を襲撃するつもりなのか。
「そうそう、ここだけの話……ジェイコブ様は近々ここの領主になるんだぜ?」
「ええっ!」
僕は男の言葉に驚きの声を上げる。
「そ、それはどうやって?」
「まあ、ジェイコブ様は元々前の領主の弟だしな。で、前の領主が死んで今じゃあの小娘が領主だろ? なら、うちのジェイコブ様が成り代わるしかないわな」
「成程……」
「つーか、爵位を譲渡させるためにあの小娘を「おい! やめろ!」……おっと、今のはナシな」
窘められ、へへへ、と苦笑しながら男が頭を掻く。
「まあ、何にせよお前、ツイてるよ。だって、ジェイコブ様について行けば間違いないからな」
「バーカ、ジェイコブ様じゃなくて、うちの頭だろ?」
「違いねえ」
「「「「「ワハハハハハハハハ!」」」」」
そうか。
コイツ等がライラ様を……!
「いやあ、今まで[運び屋]なんて小間使いばっかりしてたけど、やっと僕にも運が向いてきたみたいです」
「ワハハ! だよな!」
「さて……それじゃ僕はジェイコブ様に捨てられないように、自分の“仕事”をしますかね……」
そう言うと、僕は気合を入れるように両頬を叩いた。
「ん? お前の“仕事”ってなんだ? 屋敷の掃除か?」
「あはは、実は腕の立つ冒険者を引き入れるように交渉役を任されてるんです」
「おう、そうか。大変だな」
「はい。では失礼します」
僕は男達に挨拶すると、愛想笑いのまま部屋を出た。
「……ふう」
……いきなり核心だったな。
というかここの連中、警戒心なさすぎだろう。
僕はかぶりを振ると、少し足早に屋敷を出ようとして。
「待て。どこに行く」
突然、後ろから執事に声を掛けられた。
「あ、はい。僕も早速“仕事”をしようかと思いまして。ほら、冒険者達はクエストが終わってからが本番ですから」
僕はジョッキを持ち上げる仕草をする。
「そうか……じゃあよろしく頼む」
「はい!」
僕は深々とお辞儀をすると、意気揚々と玄関を出るフリをした。
「お、仕事は終わりか?」
門をくぐろうとしたところで、来た時に気さくに話し掛けてくれた衛兵が声を掛けてきた。
「いえ、実はジェイコブ様に直々に雇われまして……」
「おお、そうか! 良かったじゃないか!」
そう言うと、衛兵が嬉しそうにバシバシと僕の背中を叩いた。
「あ、あはは……それじゃ、僕は“仕事”をしてきます」
「ああ! 頑張れよ!」
手を振る衛兵に会釈すると、僕は夜のにぎやかな街の人混みに紛れた。
——僕の背後をつける人物がいることに気づかないまま。
入ろうとした部屋から出てきたのは、まさかのジェイコブだった。
「あ……! ほ、本日からこちらで働かせていただいてます、冒険者の“アデル”です!」
僕は直立不動になり、ジェイコブに媚びを売るように挨拶をした。
「ふむ……冒険者、な……」
そう言うと、ジェイコブは値踏みするように僕を上から下までジロジロと見る。
「貴様も冒険者なら、そこそこ強いのか?」
「あ、い、いえ……戦闘に関しては……」
「なんだ、じゃあもういい」
そう言うと、ジェイコブがシッシッ、と追い払うような仕草をした。
これは……チャンスかも。
「で、ですが! 僕は[運び屋]としていつも帯同していました! しかも、あの“黄金の旋風”に!」
「ふむ……」
すると興味が出てきたのか、ジェイコブはまた僕へと向き直り、顎をさすった。
「なら貴様、色々と冒険者達に伝手もあったりするのか?」
「! そ、それはもう!」
「ふむ……」
ジェイコブは少し考え込み、そして。
「よし、貴様を正式に雇ってやる。その上で、腕の立つ冒険者を連れてこい」
「ええ!? や、雇っていただけるんですか!?」
ジェイコブの言葉に、僕は驚きの声を上げた。
「そうだ。トマス! トマスはいるか!」
ジェイコブは頷くと、執事の名前を叫んだ。
「お呼びでしょうか?」
すると、執事は音もなく僕達の前に現れた。
コイツ……ひょっとしてハンナさんと同じ……。
「うむ。コイツを正式に雇うことにした」
「それは、雑用としてでしょうか?」
「いや、コイツには腕の立つ冒険者のスカウトをしてもらう。ついては、アイツ等と面通しをさせておけ」
「かしこまりました」
そう言うと、ジェイコブはそのブヨブヨとした丸い身体を揺らしながら、どこかへ行ってしまった。
「少々お尋ねしますが……一体どのような流れでそうなったのですか?」
執事が射殺すような視線で僕を見つめる。
それは、まさに蟷螂に睨まれた羽虫のような気分だった。
「はい。実は僕、あの“黄金の旋風”の[運び屋]をしていたんです。色々と冒険者の知り合いも多いものですから、それで……」
「そうか」
僕は努めて冷静にそう答えると、執事は急に敬語をやめ、クルリ、と身体を翻した。
「じゃあ、お前の同僚となる者達を紹介するからついて来い」
そう言うと、執事がスタスタと歩き始めたので、僕も慌ててついて行った。
「ここだ」
そこは、屋敷一階の一番奥にある部屋だった。
扉を開けると……一人、二人……全部で九人の怪しい風体の男達がいた。
その中には、先程僕に暴力を振るった三人も。
「全員揃っているな」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
執事の号令に、男達が一斉に返事をした。
ということは……この執事が元締め?
「新たにお館様がお雇いになった、“アデル”だ」
「ア、アデルです!」
「あ! お前は!」
先程の男の一人が、僕を指差した。
「……お館様が正式に雇われたのだ。今後アデルに手を出した者は、同じ目に遭うと思え」
「は、はい……」
僕と男の様子を見て、色々と察した執事が釘を刺す。
だけど……これは色々とやりやすくなったぞ。
「そういうことだ。仲良くするんだぞ」
そう言うと、執事は僕を置いて部屋を出て行った。
「へ、へへ、さっきは悪かったな」
執事が余程怖いのか、さっきの男達が愛想笑いを浮かべた。
「い、いえ! これからどうぞよろしくお願いします! それより、皆さんお強いですね……」
「あ、ああ、だろ?」
さっきの件があって気まずいのと、褒められたことで気を良くしたのか、男は嬉しそうな表情を見せた。
「ところで皆さんは、このお屋敷でどんなお仕事を?」
「おう! 俺達はジェイコブ様の用心棒? 兵士? まあ、そんなモンだ」
「へえー……」
男の言葉に、僕は感心したように頷く。
「ワハハ! まあ、何つっても俺達は騎士より強えんだぜ!」
別の男が会話に加わり、満面の笑みで自慢した。
「そ、そうなんですか!? 騎士っていったらひょっとして……あの領主様のところとか?」
「おう! よく分かったな!」
僕は探りを入れるため、おずおずとそんなことを尋ねてみると……予想通りの答えが返ってきた。
「あはは、この街で騎士といえば、領主様のところしかないですからね」
「まあな。あの時は……「オイオイ、別にお前が倒したんじゃなくて、アレは頭だろ!」」
男が武勇伝を語ろうとしたところを遮り、後ろで聞いていた別の奴が茶々を入れた。
「ト、トドメは確かに頭だけど、その前に弱らせたのは俺だろうがよ……」
「ワハハハハ! あれは俺達で囲んだからだろ!」
そう言うと、部屋にいる連中がドッ、と笑った。
「み、皆さんすごいんですね……」
「つーか、今度またやりあう時には、お前にも特等席で見せてやるよ!」
「そ、それは楽しみです! ということは、次も領主様のところの騎士ですか?」
「まあそうだな」
……ということは、ジェイコブはライラ様達を襲撃するつもりなのか。
「そうそう、ここだけの話……ジェイコブ様は近々ここの領主になるんだぜ?」
「ええっ!」
僕は男の言葉に驚きの声を上げる。
「そ、それはどうやって?」
「まあ、ジェイコブ様は元々前の領主の弟だしな。で、前の領主が死んで今じゃあの小娘が領主だろ? なら、うちのジェイコブ様が成り代わるしかないわな」
「成程……」
「つーか、爵位を譲渡させるためにあの小娘を「おい! やめろ!」……おっと、今のはナシな」
窘められ、へへへ、と苦笑しながら男が頭を掻く。
「まあ、何にせよお前、ツイてるよ。だって、ジェイコブ様について行けば間違いないからな」
「バーカ、ジェイコブ様じゃなくて、うちの頭だろ?」
「違いねえ」
「「「「「ワハハハハハハハハ!」」」」」
そうか。
コイツ等がライラ様を……!
「いやあ、今まで[運び屋]なんて小間使いばっかりしてたけど、やっと僕にも運が向いてきたみたいです」
「ワハハ! だよな!」
「さて……それじゃ僕はジェイコブ様に捨てられないように、自分の“仕事”をしますかね……」
そう言うと、僕は気合を入れるように両頬を叩いた。
「ん? お前の“仕事”ってなんだ? 屋敷の掃除か?」
「あはは、実は腕の立つ冒険者を引き入れるように交渉役を任されてるんです」
「おう、そうか。大変だな」
「はい。では失礼します」
僕は男達に挨拶すると、愛想笑いのまま部屋を出た。
「……ふう」
……いきなり核心だったな。
というかここの連中、警戒心なさすぎだろう。
僕はかぶりを振ると、少し足早に屋敷を出ようとして。
「待て。どこに行く」
突然、後ろから執事に声を掛けられた。
「あ、はい。僕も早速“仕事”をしようかと思いまして。ほら、冒険者達はクエストが終わってからが本番ですから」
僕はジョッキを持ち上げる仕草をする。
「そうか……じゃあよろしく頼む」
「はい!」
僕は深々とお辞儀をすると、意気揚々と玄関を出るフリをした。
「お、仕事は終わりか?」
門をくぐろうとしたところで、来た時に気さくに話し掛けてくれた衛兵が声を掛けてきた。
「いえ、実はジェイコブ様に直々に雇われまして……」
「おお、そうか! 良かったじゃないか!」
そう言うと、衛兵が嬉しそうにバシバシと僕の背中を叩いた。
「あ、あはは……それじゃ、僕は“仕事”をしてきます」
「ああ! 頑張れよ!」
手を振る衛兵に会釈すると、僕は夜のにぎやかな街の人混みに紛れた。
——僕の背後をつける人物がいることに気づかないまま。
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