機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット

ジェイコブ

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「ワハハハ! いや、久しぶりだな!」
「…………………………」

 今、応接室ではライラ様がジェイコブ氏と面会をしている。
 僕はといえば、その隣の部屋の扉の隙間から、その様子を眺めている訳で。

 というか……。
 ジェイコブ氏の姿は、まるで豚のように丸々と肥えており、その分厚い唇から盛大に唾を飛ばしていた。

 まあ、ある意味貴族らしいと言えなくもない、か……。

「それでジェイコブ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「いやいや、ライラが息災であるかどうか、様子を見に来ただけだ」

 大袈裟に手を振りながら、ジェイコブ氏は肩を竦めた。

「……でしたら、お嬢様に変わりはございません」
「ふむ、そうかね……ところで、ライラのその腕や脚はどうしたのかね?」

 顎をさすりながら、ジェイコブ氏はライラ様の義手と義足をしげしげと眺める。
 それは、まるで馬鹿にするような、蔑むような、そんな視線だった。

 ……僕も、かつての仲間から同じような視線を向けられたから、よく分かる。

「はい、腕の良い職人に作らせました。カートレット伯爵家当主・・として相応しいように」
当主・・……フワハハハハハハハ!」
「……何がおかしいのでしょうか?」

 ジェイコブ氏の大笑いに、ハンナさんが低い声で尋ねる。

「フハハ……いや、失敬。いくらハリボテの腕や脚をつけたところで、物言わぬ人形だというのに」
「っ! 今のご発言、お取消しくださいませ!」

 ジェイコブ氏の失礼な物言いに、ハンナさんが激高した。

「だがハンナよ、実際どうするのだ? そのような物言わぬ姿でおっても、厳しい貴族社会を生き抜くなど不可能だぞ?」
「そ、それは……」

 ジェイコブ氏の正論に、ハンナさんが言い淀む。

「……ハンナ、お主も年若く、それほどの美貌を持っておるのだ。そろそろ仕えるべき主君を再考する時だとは思わんか?」

 ジェイコブ氏……いや、ジェイコブは醜悪な顔で、まるで舐め回すような視線をハンナさんに向けた。
 しかも、まるで自分こそが次の主人であると主張した上で。

「……ジェイコブ様、お尋ねしてもよろしいですか?」
「うむうむ、何かね?」
「お嬢様が爵位をお譲りした暁には、お嬢様と私の今後の保証はしていただけますでしょうか?」
「おお! もちろん! もちろんだとも! ライラは生涯大切に面倒見ようぞ! もちろんお主は、これからは私の傍で仕えるがよい!」

 ハンナさんの言葉に、ジェイコブの奴は大喜びだな……。

「それと……先代のお館様と奥方様、お嬢様の仇も……?」
「フハハハ! もちろん任せよ! そもそもあのような・・・・・賊なんぞ、この私にかかれば赤子の手をひねるようなもの!」
「……よろしく、お願いします……」

 機嫌よくペラペラと話すジェイコブに、ハンナさんが深々と頭を下げた。

「うむうむ、では早速爵位の譲渡を進めねばな!」
「それにつきましては、王国の承認などもございますので、今しばらくお待ちいただく必要があるかと」
「ふむ……そちらについても、ちゃんと伝手がある・・・・・。すぐにでも済むであろう」
「そうですか……」

 ハンナさんが憂いを帯びながらうなだれると、ジェイコブが立ち上がり、ハンナさんの傍へと寄った。

「フワハハハハハハ! まあ、私に全て任せておけ!」
「…………………………」

 そして、顔を背けるハンナさんの腰を抱き、ジェイコブは嬉しそうに笑った。

 ◇

「では、よろしくお願いします……」
「うむ、また来るぞ!」

 ハンナさんに見送られながら、ジェイコブは馬車に乗り込むと上機嫌で帰って行った。

「……ハンナさん、お疲れ様でした」
「……アデル様、本当にこれでよろしいのでしょうか?」

 僕が労いの言葉をかけると、ハンナさんは氷のような冷たい視線を向けながら僕に尋ねた。
 うわ……ハンナさん、すごく怒ってるな。
 ……まあ、当然か。

「ですが、ハンナさんがお願いした通り話を進めていただいたお陰で、かなり収穫がありました」
「……それは?」
「それは……ライラ様も交えてお話ししましょう」

 僕と不機嫌な表情のハンナさんは、お嬢様の待つ応接室に向かうと……。

 ——バキッ!

「っ!? 今の音は!?」

 僕達は慌てて応接室に入ると……ライラ様が椅子を踏みつぶしていた。

「何なのですか、あの“豚”は! 私が物言わぬのをいいことに、好き放題言って!」
「ラ、ライラ様! どうかその辺で!」
「ハア……ハア……!」

 僕はライラ様を必死でなだめると、ようやく怒りを治めてくれた。
 というか……ハンナさんも少しは一緒に止めてくださっても……って、はい、同じくお怒りなのですね……。

「……それで、あの“豚”との会話で何が分かったのですか?」

 ハンナさんがムスッとした表情で僕に話を促す。

「はい。その前に、今日のギルドでの情報収集は取りやめにします」
「ええ!? ど、どうしてですか!?」

 すると、ライラ様がこの世の終わりといったような、絶望した声で僕に詰め寄る。

「ラ、ライラ様、ギルドには行きますし、お、お菓子も食べに行きますから!」
「あ、そ、それでしたら……」

 僕の言葉に、ライラ様が落ち着きを取り戻す。
 余程楽しみにされていたんですね……。

「は、話を戻しますね。それであのジェイコブは、ハンナさんの言葉に気を良くして、余計なことを二つ程漏らしました」
「「それは?」」
「はい。まず……」

 僕は二人に説明した。

 まず一つ目は、賊の存在について。
 ジェイコブは、未だその足取りすらつかめていない賊を、『あのような』と言った。
 つまり、ジェイコブは賊の存在を知っているということだ。

 二つ目は、爵位の譲渡について。
 爵位の譲渡に王国の承認がいるとハンナさんが言っているにもかかわらず、『伝手がある』からすぐに済むと言った。
 これは、王都にジェイコブの協力者がいるということ。

「……以上のことから、首謀者かどうかは別にして、少なくとも関与していることは間違いないですね」
「やはり……」
「……(コクリ)」

 僕の説明に、ハンナさんは納得したような表情を浮かべ、ライラ様は無言で深く頷いた。

「なので、これからはジェイコブの近辺を探ることにしましょう」
「はい。でしたら、豚のところに知り合いの従者が何人かおりますので、その伝手を使いましょう」

 ハンナさんが胸に手を当て、そう提案する。
 というか、もう“豚”で確定なんだな……。

「……いえ、それだとジェ「「“豚”です」」……豚に警戒される恐れがありますので、それはなしで」

 僕はそうハンナさんに伝えるけど……二人共、僕にも“豚”呼ばわりを強要するくらい嫌いなんだな……。

「ですので、豚の調査は知られていない僕がやります」
「「アデル様が!?」」

 そう言うと、二人が驚きの声を上げた。
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