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第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット
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「「はあ……」」
屋敷に戻り、僕は事の仔細を二人に話すと、二人は盛大に溜息を吐いた。
「……やはり、『黄金の旋風』の連中は私の領地から追放するべき、ですね」
「お嬢様、あえて領地に置いてやり、その上で理不尽な目に遭わせてやるというのも一興ですが?」
「ふふ、それも良いですね」
いや、怖い、怖いよ!?
「あ、あはは……僕は別に、もう気にして……「「私達が気にするんです!」」……は、はい……」
うーん……怒られてしまった……。
「とにかく……私は特にあの“カルラ”という女性が許せません! そ、その……“元”恋人だったアデル様にそんな仕打ちをして……!」
「はい、本当です。“元”恋人のくせに、何を考えているんでしょうか。私なら、そんなことはいたしませんが……」
「わ、私だってそんなことしません!」
え、ええとー……なんで二人して、こちらをチラチラと見るんでしょうか?
「さ、さあて……ライラ様とハンナさんの武器と防具でも作ってみましょうか……」
「「むううううううう!」」
はい……二人がものすごく膨れております。
でも、そんな二人の僕への優しさが嬉しくて……。
「あはは……ありがとうございます」
「「はうっ!」」
二人を見てはにかむと……え、ええと二人共、『はうっ!?』ってなんですか……。
ということで、僕達三人は一か月前のあの部屋に入る。
「まだ鉄もミスリルも、充分に残っております。まあ……魔石に関しては全てなくなりましたが……」
「いえ……武器と防具を作るだけですから、これだけあれば充分ですよ」
うん、これだけあれば、二人の分を作るには充分だ。
「では早速……【設計】【加工】【製作】」
僕は[技術者]の能力を発動する。
だけど。
「……身体に負担が……かからない?」
僕は、この武器と防具の作成に当たって、それなりの覚悟はしていた。
あの時ほどではないにしろ、何かしら影響があると……。
そのため、ハンナさんもこの場に大量のポーションを用意してくれていた。
僕がまた、あんな目に遭った時のために。
だけど……あの時と同じように鉄を鋼に変えているのに、僕の身体は目や鼻、耳から血を噴き出すこともないし、身体に負担もかかっていない。
ひょっとして……ライラ様の身体を作って死にかけたことで、能力への耐性ができた……?
「あ、あの……アデル様、どうされました?」
ライラ様が心配そうにおずおずと尋ねる。
「あ、ああいえ……はは、どうやら僕も、自分のことは何一つ分かっていなかったようです……」
「?」
僕はクスリ、と笑うと、また鋼の精製と圧縮を繰り返した。
そして。
「……できました」
僕の目の前に、ライラ様とハンナさんの武器と防具が並べられていた。
ライラ様には、特殊な形状をした鈍く光る黒鉄色の甲冑と、ライラ様の背丈には不釣り合いな、一振りの死神のような鎌を。
ハンナさんには、白銀の鎖帷子と胸当て、薄手の手甲、二振りのククリナイフを。
「ライラ様については、磁力によって甲冑の着脱が可能になっています。ハンナさんは動きを阻害しないように、できる限り軽装かつ動きやすいような形にしました」
「素晴らしいですね……」
ハンナさんは早速防具を身に着け、ククリナイフを手に取って素振りをする。
「はい、文句なしです」
「それは良かったです」
うん、ハンナさんには満足してもらえたようだ。
「で、ですが、アデル様のものが一つもありませんが……」
ライラ様が心配そうに尋ねる。
「あはは……二人のものを作るのに夢中で、僕の分を忘れていました……」
僕は苦笑しながら頭を掻く。
「ま、まあ、僕は戦闘ではあまり役に立ちませんので、引き続きこのボウガンで充分ですよ」
そう言って、僕はボウガンを手にしてニコリ、と微笑んだ。
「ま、任せてください! この私が、立ちはだかる全ての敵を殲滅いたします!」
「うふふ……私も、どんな相手でも音もなく殺してみせますよ……」
気合いを入れるライラ様と、妖しい笑みを浮かべるハンナさん。
頼もしいことこの上ないが……うん、二人に比べれば、やっぱり僕は役に立てそうにないな……。
すると。
——ピト。
「アデル様……これからも、この私を支えてください……」
「はい……この僕のできる限り……」
寄り添うライラ様に、僕は誓う。
たとえ“役立たず”でも、ライラ様の想いを叶えてみせると……。
「うふふ……お嬢様、そろそろお風呂にお入りくださいませ」
「ええ、そうします」
そう返事し、ライラ様がお風呂へと向かうと。
「アデル様」
「うわ!?」
突然、ハンナさんが僕の左側から現れ、声を掛けてきた。
「な、なんでしょう……?」
「やはり……」
そして、悲しそうな表情で僕を……僕の左眼を見つめた。
「あ、あはは……気づいていたんですね……」
「はい……あの時の後遺症、ですね……?」
ハンナさんの問い掛けに、僕は苦笑で答えた。
そう……ライラ様の身体を作り、目を覚ましたあの日から、僕の左眼は一切見えていない。
これが、命を引き換えにしたことによる代償なのかもしれない……。
「……アデル様の左側は、このハンナがお護りいたします」
「あはは……大丈……「護りますから」……はい……」
ハンナさんが、そっと僕の左頬に手を添えた。
そんなハンナさんの決意に、僕はただ頷くことしかできなかった。
でも。
僕は……ライラ様のためなら……いつでもこの命、差し出します。
そして、ハンナさん……それは、あなたのためであっても。
——“役立たず”な僕を否定してくれた、二人のためなら。
屋敷に戻り、僕は事の仔細を二人に話すと、二人は盛大に溜息を吐いた。
「……やはり、『黄金の旋風』の連中は私の領地から追放するべき、ですね」
「お嬢様、あえて領地に置いてやり、その上で理不尽な目に遭わせてやるというのも一興ですが?」
「ふふ、それも良いですね」
いや、怖い、怖いよ!?
「あ、あはは……僕は別に、もう気にして……「「私達が気にするんです!」」……は、はい……」
うーん……怒られてしまった……。
「とにかく……私は特にあの“カルラ”という女性が許せません! そ、その……“元”恋人だったアデル様にそんな仕打ちをして……!」
「はい、本当です。“元”恋人のくせに、何を考えているんでしょうか。私なら、そんなことはいたしませんが……」
「わ、私だってそんなことしません!」
え、ええとー……なんで二人して、こちらをチラチラと見るんでしょうか?
「さ、さあて……ライラ様とハンナさんの武器と防具でも作ってみましょうか……」
「「むううううううう!」」
はい……二人がものすごく膨れております。
でも、そんな二人の僕への優しさが嬉しくて……。
「あはは……ありがとうございます」
「「はうっ!」」
二人を見てはにかむと……え、ええと二人共、『はうっ!?』ってなんですか……。
ということで、僕達三人は一か月前のあの部屋に入る。
「まだ鉄もミスリルも、充分に残っております。まあ……魔石に関しては全てなくなりましたが……」
「いえ……武器と防具を作るだけですから、これだけあれば充分ですよ」
うん、これだけあれば、二人の分を作るには充分だ。
「では早速……【設計】【加工】【製作】」
僕は[技術者]の能力を発動する。
だけど。
「……身体に負担が……かからない?」
僕は、この武器と防具の作成に当たって、それなりの覚悟はしていた。
あの時ほどではないにしろ、何かしら影響があると……。
そのため、ハンナさんもこの場に大量のポーションを用意してくれていた。
僕がまた、あんな目に遭った時のために。
だけど……あの時と同じように鉄を鋼に変えているのに、僕の身体は目や鼻、耳から血を噴き出すこともないし、身体に負担もかかっていない。
ひょっとして……ライラ様の身体を作って死にかけたことで、能力への耐性ができた……?
「あ、あの……アデル様、どうされました?」
ライラ様が心配そうにおずおずと尋ねる。
「あ、ああいえ……はは、どうやら僕も、自分のことは何一つ分かっていなかったようです……」
「?」
僕はクスリ、と笑うと、また鋼の精製と圧縮を繰り返した。
そして。
「……できました」
僕の目の前に、ライラ様とハンナさんの武器と防具が並べられていた。
ライラ様には、特殊な形状をした鈍く光る黒鉄色の甲冑と、ライラ様の背丈には不釣り合いな、一振りの死神のような鎌を。
ハンナさんには、白銀の鎖帷子と胸当て、薄手の手甲、二振りのククリナイフを。
「ライラ様については、磁力によって甲冑の着脱が可能になっています。ハンナさんは動きを阻害しないように、できる限り軽装かつ動きやすいような形にしました」
「素晴らしいですね……」
ハンナさんは早速防具を身に着け、ククリナイフを手に取って素振りをする。
「はい、文句なしです」
「それは良かったです」
うん、ハンナさんには満足してもらえたようだ。
「で、ですが、アデル様のものが一つもありませんが……」
ライラ様が心配そうに尋ねる。
「あはは……二人のものを作るのに夢中で、僕の分を忘れていました……」
僕は苦笑しながら頭を掻く。
「ま、まあ、僕は戦闘ではあまり役に立ちませんので、引き続きこのボウガンで充分ですよ」
そう言って、僕はボウガンを手にしてニコリ、と微笑んだ。
「ま、任せてください! この私が、立ちはだかる全ての敵を殲滅いたします!」
「うふふ……私も、どんな相手でも音もなく殺してみせますよ……」
気合いを入れるライラ様と、妖しい笑みを浮かべるハンナさん。
頼もしいことこの上ないが……うん、二人に比べれば、やっぱり僕は役に立てそうにないな……。
すると。
——ピト。
「アデル様……これからも、この私を支えてください……」
「はい……この僕のできる限り……」
寄り添うライラ様に、僕は誓う。
たとえ“役立たず”でも、ライラ様の想いを叶えてみせると……。
「うふふ……お嬢様、そろそろお風呂にお入りくださいませ」
「ええ、そうします」
そう返事し、ライラ様がお風呂へと向かうと。
「アデル様」
「うわ!?」
突然、ハンナさんが僕の左側から現れ、声を掛けてきた。
「な、なんでしょう……?」
「やはり……」
そして、悲しそうな表情で僕を……僕の左眼を見つめた。
「あ、あはは……気づいていたんですね……」
「はい……あの時の後遺症、ですね……?」
ハンナさんの問い掛けに、僕は苦笑で答えた。
そう……ライラ様の身体を作り、目を覚ましたあの日から、僕の左眼は一切見えていない。
これが、命を引き換えにしたことによる代償なのかもしれない……。
「……アデル様の左側は、このハンナがお護りいたします」
「あはは……大丈……「護りますから」……はい……」
ハンナさんが、そっと僕の左頬に手を添えた。
そんなハンナさんの決意に、僕はただ頷くことしかできなかった。
でも。
僕は……ライラ様のためなら……いつでもこの命、差し出します。
そして、ハンナさん……それは、あなたのためであっても。
——“役立たず”な僕を否定してくれた、二人のためなら。
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