機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
11 / 146
第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット

大切な人

しおりを挟む
「は、はい! ここ、こちらのビ、ビッグベアの換金でよろしいでしょうかー!」

 ギルドに戻り、討伐したゴブリンの身体の一部とビッグベアの胴体をカウンターに置くと、受付のサラが怯えた声で応対する。

 それもそうだろう。
 ライラ様が軽々とビッグベアを抱えてギルドに入ってきた時には、サラに限らずその場にいた全員が驚きの声を上げたし。

 まあ、まさかこんな小さなライラ様がそんな怪力だなんて思わないよね……。

「ふふ、やりましたね、アデル様!」
「はは、ええ」

 初めてのクエストを達成し、嬉しそうに幻の尻尾を振るライラ様。
 そんな彼女の姿を見て、思わず僕の口元も緩んだ。

 ——バタン。

「ふう……やれやれ、やっと帰ってこれたな」
「フン! だけど途中でポーションが尽きるなんて、ちゃんと管理しなさいよね!」
「全くだ。その辺のフォローをしっかりしてもらわねば。私の防具も、しばらくは鍛冶屋に預けねばな……」
「キャハハ! ホントホント!」
「…………………………」

 口々に言いながら入ってきたのは……『黄金の旋風』の面々だった。
 そしてその後ろを、げんなりとしながら荷物を運んでいる男……多分、雇われの[運び屋ポーター]だろう。
『黄金の旋風』にいた頃、あれは僕の役割だったな……。

「……ん? ひょっとして、アデルじゃないか?」

 目ざとく見つけたエリアルが、僕を指差した。
 ……嫌な奴に見つかったな。

「キャハハ! ホントだ!」
「フン! アンタまだここにいたの? “役立たず”のくせに」
「まあまあ……彼も生きるために必死なんだから、そう言うな」

 はあ……相変わらず好き放題に言ってるな。

 そんな中。

「……どういうつもり?」

 怒った表情で、カルラが僕に詰め寄ってきた。

「……どういうつもりって?」
「決まってるわ。なんであなたがここにいるの?」
「なんでって……決まっている、僕は“冒険者”だから」
「っ! あなたに冒険者なんてムリなのよ! いい加減気づきなさい!」

 そう言って、カルラは僕の胸倉をつかもうとして……ライラ様にその腕をつかまれ、阻止された。

「……何?」
私の・・アデル様に手を出すのはやめなさい」

 ライラ様が無表情のままカルラを睨みつけた。

 そして。

 ——ミシッ。

「っ!? クッ、離しなさ……っ!?」

 ライラ様につかまれたカルラの手甲がひしゃげはじめ、カルラが慌てて手を振りほどこうとするけど、その腕はピクリとも動かない。

「っ! アンタ……!?」
「おやおや、少々大人しくしていただけませんか? ……雑魚の皆さん」

 カルラを助けようと飛び出そうとしたロロとセシルに、いつの間にかハンナさんが背後に回り込んでククリナイフを首筋に当てていた。

「……っ! このっ!」

 たまりかねたエリアルがギルド内で剣を抜こうとして……。

「やめないか!」

 執務室から出てきたゴライアさんが大声で叫んだ。
 すると、ライラ様はカルラの腕を離し、ハンナさんもス、と退いてククリナイフをしまった。

「……これは一体何事なんだ?」
「そ、それがー……」

 ゴライアさんが尋ねると、サラが困った表情で耳打ちする。

「ふう……とにかく! ギルド内での騒ぎはご法度だ! ……あなたも冒険者となられた以上、その辺ご理解いただきたい」

 額を押さえながらかぶりを振ると、ゴライアさんが懇願するようにライラ様に話した。

「ですが、この者達はあろうことか私の大切な人・・・・を侮辱しました。ハッキリ言って、私の領地にふさわしくありません」
「……っ!? ひょっとして、領主、様……!?」

 カルラをはじめ、『黄金の旋風』のみんなが驚きの表情を見せる。
 まあ……それはそうだろうな。

「いずれにせよこの無礼、どう落とし前をつける気なのですか?」
「「「「う……」」」」

 さすがにマズイと思ったのか、エリアル達は困惑の色を浮かべる。

 だが。

「……アデル。領主様の言った『大切な人』って、どういう意味……?」

 そんな中、カルラだけは恨みがましい視線を向けながら、僕に尋ねる。

「そんなの、言葉通りの意味ですが? それよりあなたこそ、私の大切な人・・・・に何の用ですか?」

 カルラにそう告げると、ライラ様が僕の身体にしなだれかかった。
 まるで……僕がライラ様のものであると、カルラに見せつけるように。

「……っ! そう……」

 カルラは唇を噛みしめると……きびすを返し、そのままギルドを後にした。

「お、おい! ちょっと待てよ!」

 エリアル達もそんなカルラを追いかけるようにギルドを出て行く。
 その表情は、まるで面倒事から逃げることができて少し安堵しているかのようだった。

「……アデル様、屋敷に戻ったら詳しくお話しいただけますね?」
「(コクコク)」

 ライラ様にすごまれ、僕は思わず無言で何度も頷いた。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

処理中です...