機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
上 下
10 / 146
第一章 復讐その一 ジェイコブ=カートレット

死を司る女神

しおりを挟む
「ライラ様! そちらに一匹向かいました!」
「はい!」

 僕達は今、町はずれにある森で、初級クエストのゴブリン討伐を行っている。
 情報収集もしないで何やっているんだって話ではあるんだけど……。

『ぜひ! ぜひこの『白銀の翼』の初陣をしましょう!』

 と、ライラ様が幻の尻尾をブンブンと振っておねだりされて、その……まあ、僕もハンナさんも折れたという訳で……。

 まあでも。

「ハアッ!」
『グギャギャ!?』

 ライラ様が右手に持つ剣を一閃させると、ゴブリンの頭が文字通り爆ぜた・・・
 うん……あの腕とあの脚の威力なら、そうなるのも当然だよな……。

「アデル様! 見ましたか!」
「え、ええ、見ましたよ……」

 僕ははしゃぐ彼女の姿を見て、ただ苦笑するしかない。

「本当に……お嬢様のあの力は恐ろしい程ですね……」

 音もなくククリナイフでゴブリンの首を刈り続けながら、ハンナさんが驚きの表情を見せる。
 僕から言わせれば、そんな暗殺者みたいなハンナさんに驚きなんですが……。

「ま、まあ……そもそもあの腕と脚の動力源は、いくつもの魔物の魂の結晶ですから……当然、その力も圧倒的で……」

 そして、それを最適に使役するための役割を、ライラ様の左眼が担っている。
 まあ、当然ながらゴブリン程度じゃお話にもならない訳で。

「……ライラ様なら、たとえドラゴンであっても簡単にほふってしまわれるかと……」
「その言葉に同意します……」

 すると。

「あ……」

 ライラ様がガッカリした声を漏らした。
 この日、四本目の剣が壊れたのだ。

「はは……ライラ様のお身体には、並みの武器ではたないみたいですね。【加工キャスト】【製作クラフト】」

 僕は両手をかざし、壊れた剣を素材に加工してから元の剣と同じように戻した。
 この程度のものであれば、わざわざ【設計《デザイン》】しなくても、簡単に復元できる。

「はい、どうぞ」
「あ……ありがとうございます!」

 僕は元通りになった剣をライラ様に渡すと、彼女は大事そうに剣を受け取った。

「しかし……やはりアデル様の能力はすごいですね……」
「はは……全然大したものじゃないですよ……」

 ハンナさんはしきりに感心しているが、結局のところ、材料がなければ作れはしないし、あったところで簡単なものしか作れない。
 ましてや、例えば名剣を作ろうと思えば、ライラ様の身体を作った時程じゃないにしろ、僕の身体はボロボロになるだろう……。

「そんなことはありません! つまり、アデル様がいれば武器や防具の破損も気にする必要がない訳ですから! すごいです!」

 僕の言葉を否定し、手放しで褒め讃えるライラ様。
 だけど。

「いえ……今ライラ様がお使いになられているその剣が、安物の剣だからできるだけで、それが名剣だったりすれば、僕には復元は……」
「で、ですが! 私には名剣なんて不要ですから! わ、私にはアデル様の直してくださるこの剣があれば……!」
「はは、ありがとうございます」

 僕だって、こんなに真っ直ぐに好意を向けられれば、その……嬉しくない訳がない。
 でも……こんな程度で果たして本当に彼女の復讐の力になれるんだろうか。

 それに……。

「あはは……一度、ライラ様専用の武器と防具、作ってみてもいいかもしれませんね……」
「っ!? そ、それは……」

 僕がそう呟くと、ライラ様が不安そうな眼差しを向ける。

「……大丈夫ですよ。さすがにただの武器や防具であれば、あんなことにはならない筈ですから」
「は、はあ……」

 うん……屋敷に戻ったら、早速作ってみよう。

 そんなことを考えていると。

「……アデル様」
「うわ!?」

 いきなり左側から・・・・ハンナさんが現れ、僕は驚きの声を上げた。

「どうなさいました?」
「あ、い、いえ……その、いきなりハンナさんが現れたもので、つい……」
「? 私は先程からこちらにおりましたが……」
「あ、そ、そうでしたね……」
「?」

 不思議そうに首を傾げるハンナさん。

 ふう……危なかった。

「さて……ゴブリン討伐もこれくらいすれば充分でしょう。そろそろ戻……っ!?」
『ゴアアアアアアア!』

 突然、茂みの中から三メートルを超える巨躯を誇る“ビッグベア”が現れた。
 だけど……ところどころ身体に傷がある。

「ライラ様、お気をつけください! このビッグベア、手負いで狂暴になってます!」
「はい!」
『グオアアアアアア!』

 僕達はビッグベアから距離を取り、すぐに武器を構える。
 僕のボウガンじゃ手傷を与えるのは難しいけど、牽制くらいなら……っ!?

「ライラ様!?」
「ハアアアアアアア!」

 ライラ様が猛スピードでダッシュすると、あっという間に距離を詰め、ビッグベアの懐に潜りこむ。

 だけど。

『ゴアアアアアアア!』

 まるでそれを見計らったかのように、ビッグベアがその丸太のような腕をライラ様に振り下ろした。

「ライラ様!」
「お嬢様!」

 僕とハンナさんはライラ様を助けようと、慌てて駆け出す。
 でも……無用の心配だったみたいだ。

『グア!?』

 なんとライラ様はビッグベアの腕をあっさりと受け止め、そして。

 ——ベキ、ボキ。

『ガアアアアアアアア!?』

 まるで枯れ木の枝を折るかのように、ビッグベアの腕をあらぬ方向へと折り曲げた。

「フッ!」

 続けざま、右手に持つ剣をビッグベアの首元に突きつけると……ゴブリン達と同様、首周辺が爆散した。

「アデル様!」

 そして、嬉しそうな声で僕を呼ぶライラ様。

 ビッグベアの鮮血を全身に浴び、鋼の輝きと相まったその姿は……まるで、血だまりの中にたたずむ、おとぎ話に出てくる“死を司る女神”のようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...