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卑劣な妖精王子と皇都襲撃作戦の全貌
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「ジャン……ジャン=デュ=ヴァルロワですッッッ!」
まさかマリエットの口から、第五王子のジャンの名前が出てくるとは思わなかった。
あの男は『妖精王子』と呼ばれ、眉目秀麗な見た目以外は無能な男だと高を括っていたんだけどな……。
「あの男は、確かに約束したんです! 『第五王子の名にかけて、絶対にジョルジュ令息を救う』って! 『マリエット嬢の代わりに、僕が一生面倒を見る』って!」
マリエットの弟を救うための薬は、ただの伯爵家程度では手に入らないような特別なもの。
正直、こんな都合のいい言葉を信じてしまったマリエットに思うところがないわけでもないが、彼女にとっては藁にも縋る思いだったに違いない。
「……君は、弟をとても大切にしていたんだな」
「当たり前です! ジョルジュは……ジョルジュは、私の全てなのですから!」
マリエットがここまで弟のことを想うことに、僕は違和感しか覚えない。
だけど……本当の家族だったら、それも当然なのかな。
残念ながら、僕もアビゲイル皇女も、そんなものは望めなかったけど。
「それで、どうする? この事実を知ってもなお、君は王国に忠誠を尽くすのか? それとも……僕達と共に王国打倒を掲げ、君の弟の仇を討つのか」
さあ、ここからはマリエットが決断を下さなければいけない。
もし共に王国を倒すことを選ぶのであれば、その時は僕もオマエを赦し、力を貸すことを約束しよう。
だが、それでもなお王国に与するのであれば、その時は……。
「そんなの」
「マリエット……?」
「そんなの決まっています! 私は絶対に……絶対にあの男を……王国を許さないッッッ!」
「そうか……なら、僕達もまた、そのために全力を尽くそう」
これでマリエットは、僕達と共に王国を打ち滅ぼすことを誓った。
僕と同様に裏切られ、大切な人を奪われた者として。
「じゃあ、教えてくれ。ヴァルロワ王国による、皇都制圧作戦の全容を」
「はい!」
マリエットは、僕達に全てを語ってくれた。
ヴァルロワ王国は皇都襲撃を計画するに当たり、まずは皇国との休戦協定を持ちかけることにした。
全ては、皇国が優位であると信じ込ませ、油断を誘うために。
また、皇都襲撃のためには内通者を用意する必要があるが、その人選は難航した。
休戦協定締結のための条件でもある、王族を人質に差し出す必要があるからだ。
当初は僕を除く五人の王子のいずれかで調整が進められていたみたいだが、第一王子のアンリと第二王子のルイは、既に王国の政治の中枢で必要不可欠な人材となっているため、最初に対象から除外される。
次にフィリップだが、ご存知のとおりあの男は武力一辺倒(それでも大したことはないが)で知恵も回らず、性格も相まって不適格の烙印を押され、幸か不幸かこちらも除外。
第四王子のローランもまた、錬金術師として様々な研究を行っていることもあって知能こそ高いものの、人格的にはフィリップ以上に破綻している。
最後に残されたのは、第五王子のジャン。
消去法によって皇国への人質として最有力候補となったジャンだったが、あろうことかこの男、自分が皇国に行かなくても済むように、最も不要な存在である僕を新たに人質候補として加えるよう画策したのだ。
その一つが、マリエットの懐柔。
弟のジョルジュが病弱で余命いくばくもないことを知ると、リアンノン聖教会を通じて入手困難な薬を確保し、マリエットと接触。薬の提供を条件に、人質となる僕に同行させたのだ。
ジョルジュはマリエットが同行してサポートすることを告げ、僕を人質にするようにシャルル国王に進言。自分の息子達を生贄にしたくなかった国王はそれを了承し、晴れて僕が人質となったわけだ。
加えて、都合よく皇国側が第六王子を人質に求めたことで、それは決定的となった。
皇国に差し出す人質が決まり、次に準備したのは皇国内での協力者。
こちらについて、王国は当初、僕とマリエットだけで事足りると考えていたが、知らない土地で僕の皇女の配偶者としての権限を活かしてマリエットが動いても、必ずしも成功するとは限らないことを理由として。
ところが、この問題はすぐに解決した。
何故なら。
「……リアンノン聖教会が、皇国の有力者から協力を取り付けたと王国に提示したんです」
「有力者、ね……」
つまり、その有力者ことがブリジットであると、僕達は睨んでいる。
そうでなければ、皇都襲撃における手際の良さなどが説明できない。
といっても。
「その有力者の名前は?」
「ストラスクライド皇国の伯爵、シドニー=ゴールトン」
やっぱりね。そう簡単に尻尾をつかませないために、別の者の仕業に見せかけるに決まっている。
だけど、ゴールトン伯爵がブリジット派の貴族であることは、既に明らかになっているから、僕達が求める最高の答えではないにしろ、あの女の足元を崩すには充分だ。
少なくとも、王国使節団のエドワード王の謁見では、ブリジットを牽制して身動きを取れないようにすることができる……って。
「マリエット、どうした?」
「……協力者に関して、続きがあります。私はゴールトン伯爵から、皇都制圧作戦における海路及び陸路の確保、それに各都市や検問を回避すルートを提供してもらい、王国に報告していました。ですが」
マリエットは一旦言葉を切ると、意を決したように頷く。
そして。
「私はゴールドン伯爵から王国へ宛てた書簡の一つを、あえて王国には報告せず、保険として手元に置いています」
まさかマリエットの口から、第五王子のジャンの名前が出てくるとは思わなかった。
あの男は『妖精王子』と呼ばれ、眉目秀麗な見た目以外は無能な男だと高を括っていたんだけどな……。
「あの男は、確かに約束したんです! 『第五王子の名にかけて、絶対にジョルジュ令息を救う』って! 『マリエット嬢の代わりに、僕が一生面倒を見る』って!」
マリエットの弟を救うための薬は、ただの伯爵家程度では手に入らないような特別なもの。
正直、こんな都合のいい言葉を信じてしまったマリエットに思うところがないわけでもないが、彼女にとっては藁にも縋る思いだったに違いない。
「……君は、弟をとても大切にしていたんだな」
「当たり前です! ジョルジュは……ジョルジュは、私の全てなのですから!」
マリエットがここまで弟のことを想うことに、僕は違和感しか覚えない。
だけど……本当の家族だったら、それも当然なのかな。
残念ながら、僕もアビゲイル皇女も、そんなものは望めなかったけど。
「それで、どうする? この事実を知ってもなお、君は王国に忠誠を尽くすのか? それとも……僕達と共に王国打倒を掲げ、君の弟の仇を討つのか」
さあ、ここからはマリエットが決断を下さなければいけない。
もし共に王国を倒すことを選ぶのであれば、その時は僕もオマエを赦し、力を貸すことを約束しよう。
だが、それでもなお王国に与するのであれば、その時は……。
「そんなの」
「マリエット……?」
「そんなの決まっています! 私は絶対に……絶対にあの男を……王国を許さないッッッ!」
「そうか……なら、僕達もまた、そのために全力を尽くそう」
これでマリエットは、僕達と共に王国を打ち滅ぼすことを誓った。
僕と同様に裏切られ、大切な人を奪われた者として。
「じゃあ、教えてくれ。ヴァルロワ王国による、皇都制圧作戦の全容を」
「はい!」
マリエットは、僕達に全てを語ってくれた。
ヴァルロワ王国は皇都襲撃を計画するに当たり、まずは皇国との休戦協定を持ちかけることにした。
全ては、皇国が優位であると信じ込ませ、油断を誘うために。
また、皇都襲撃のためには内通者を用意する必要があるが、その人選は難航した。
休戦協定締結のための条件でもある、王族を人質に差し出す必要があるからだ。
当初は僕を除く五人の王子のいずれかで調整が進められていたみたいだが、第一王子のアンリと第二王子のルイは、既に王国の政治の中枢で必要不可欠な人材となっているため、最初に対象から除外される。
次にフィリップだが、ご存知のとおりあの男は武力一辺倒(それでも大したことはないが)で知恵も回らず、性格も相まって不適格の烙印を押され、幸か不幸かこちらも除外。
第四王子のローランもまた、錬金術師として様々な研究を行っていることもあって知能こそ高いものの、人格的にはフィリップ以上に破綻している。
最後に残されたのは、第五王子のジャン。
消去法によって皇国への人質として最有力候補となったジャンだったが、あろうことかこの男、自分が皇国に行かなくても済むように、最も不要な存在である僕を新たに人質候補として加えるよう画策したのだ。
その一つが、マリエットの懐柔。
弟のジョルジュが病弱で余命いくばくもないことを知ると、リアンノン聖教会を通じて入手困難な薬を確保し、マリエットと接触。薬の提供を条件に、人質となる僕に同行させたのだ。
ジョルジュはマリエットが同行してサポートすることを告げ、僕を人質にするようにシャルル国王に進言。自分の息子達を生贄にしたくなかった国王はそれを了承し、晴れて僕が人質となったわけだ。
加えて、都合よく皇国側が第六王子を人質に求めたことで、それは決定的となった。
皇国に差し出す人質が決まり、次に準備したのは皇国内での協力者。
こちらについて、王国は当初、僕とマリエットだけで事足りると考えていたが、知らない土地で僕の皇女の配偶者としての権限を活かしてマリエットが動いても、必ずしも成功するとは限らないことを理由として。
ところが、この問題はすぐに解決した。
何故なら。
「……リアンノン聖教会が、皇国の有力者から協力を取り付けたと王国に提示したんです」
「有力者、ね……」
つまり、その有力者ことがブリジットであると、僕達は睨んでいる。
そうでなければ、皇都襲撃における手際の良さなどが説明できない。
といっても。
「その有力者の名前は?」
「ストラスクライド皇国の伯爵、シドニー=ゴールトン」
やっぱりね。そう簡単に尻尾をつかませないために、別の者の仕業に見せかけるに決まっている。
だけど、ゴールトン伯爵がブリジット派の貴族であることは、既に明らかになっているから、僕達が求める最高の答えではないにしろ、あの女の足元を崩すには充分だ。
少なくとも、王国使節団のエドワード王の謁見では、ブリジットを牽制して身動きを取れないようにすることができる……って。
「マリエット、どうした?」
「……協力者に関して、続きがあります。私はゴールトン伯爵から、皇都制圧作戦における海路及び陸路の確保、それに各都市や検問を回避すルートを提供してもらい、王国に報告していました。ですが」
マリエットは一旦言葉を切ると、意を決したように頷く。
そして。
「私はゴールドン伯爵から王国へ宛てた書簡の一つを、あえて王国には報告せず、保険として手元に置いています」
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