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忍び寄る、死神のように

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「げ……ふ……っ」

 喉を一突きし、すぐに息の根を止めた。

「さあ、次は誰の番だ?」
「「「「…………………………」」」」

 騎士達が邪魔になるテュラム伯爵の死体を片づける中、残る四人に向かって尋ねる。
 だが、フィリップ達はともかくルイまでもがおののいてしまい、誰も出てこなかった。

「困ったな……誰も僕と戦わないんじゃ、温情はやめにしてすぐに首をねるしかないんだけど」
「っ!? き、貴様、行け!」
「な、何を申されますか! ここは騎士団長であるフィリップ殿下が……!」

 このままでは生き残る最後の機会さえも奪われると考えた四人は、醜く順番を押し付け合う。

「早くしろ」
「バ、バラケよ! 貴様が行くんだ!」
「ヒ、ヒイッ!?」

 フィリップに強引に背中を押され、よろけながら出てきたのは副団長のバラケ。
 それを見た僕は思わず、口の端を持ち上げた。

「やあ、バラケ副団長。久しぶりだな」
「あ……え、ええ……」

 親しげに声をかけてやると、バラケは愛想笑いを浮かべる。
 ひょっとしたら、昔のよしみで手加減してもらえるとでも思ったのだろうか。

 オマエとの関わりなど、レナルドの無残な死体を下卑げひた笑みで僕に見せつけたことだけなのに。

「それにしても……王国使節団としてこの皇都に来た時は、大変だったな。サイラス将軍に、全身の骨を砕かれてしまったんだから」
「は、はい! ですが、聖女様のおかげでこのとおり!」

 頼んでもいないのに、バラケは身体が完治していることをアピールする。

「それはいけない。また、僕が元どおり・・・・にしてあげるよ」
「へ……!?」

 僕は一気に間合いへと入ると、サーベルをくるり、と返して、峰でバラケの右肩を思いきり叩きつけた。

「あぐあああああああああッッッ!?」
「ああ、肩だけじゃ駄目だよね。腕も脚も、指の一本一本からあばら骨、背骨、全て砕いてあげないと元どおり・・・・とは言わないよね」
「ヒイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアッッッ!?」

 泣き叫ぶバラケを無視し、僕はサーベルの峰で丁寧に骨を砕く。
 何度も、何度も。

「あううう……あああああ……っ」

 全身の骨を砕き終えた頃には、バラケは虚ろな瞳でうめくだけになった。
 棺に納められていたレナルドと同じように、身体をあらぬ方向に曲げて。

「おっと、まだ頭蓋骨は砕いていなかったか」
「うああ……ああああ……や……やめ……」

 ――ぐちゃ。

 鈍い音とともに頭がザクロのように砕け、何度か痙攣けいれんを繰り返した後、バラケは動くのをやめた。

「さあ、次だ」
「ヒイイイイイイイイイイッッッ! 嫌だ……嫌だあああああああああああッッッ!」

 とうとう耐えきれなくなったのか、もう一人の副団長であるデュガリーが武器を振り回してこの場から逃げようとする。
 ああもう、そんなことをされたら興ざめじゃないか。

 僕は素早く追いかけ、デュガリーの背後につくと。

「あああああああああああああああああああああああッッッ!?」
「逃げるなんて無理だってことくらい、分かっているだろう?」

 テュラム伯爵と同じように両足を切り落とし、デュガリーは地面に転がる。

「大丈夫。貴様のことはよく知らないから、テュラム伯爵みたいにすぐに楽にしてやるから」
「ああああああああああああああああ……あえ?」

 左目にサーベルを突き刺し、僕はぐりん、とねじってやると。

「あえええええええええええええ!?」

 変な声を上げ、サーベルを引き抜いた瞬間、デュガリーは前のめりに地面に顔を打ちつけ、あっけなく死んだ。

「いやあ、待たせたね。残るはオマエ達だけだよ」
「あ……ああ……」
「う……う……っ」

 デュガリーの返り血を浴びて微笑む僕を見て、ルイとフィリップは一歩、また一歩と後ずさる。
 気づけば、民衆達も誰一人声を上げる者はおらず、これだけの人数がいるのに処刑場となった広場は静寂に包まれていた。

「心配しなくてもいい。オマエ達は、他の三人よりもより丁寧に、念入りに、ぎりぎりまで死なせずにすり潰してやるから」
「あ……ああああああああ……」

 尻もちをついたルイは、無様にも失禁し地面を濡らす。
 フィリップはというと、もはや声を発することすらできず、全身を震わせてカチカチと歯を鳴らしていた。

「うーん……この甲冑、僕のサーベルで両断できるかな……」

 無造作に二人に近づいた僕は、フィリップの甲冑をしげしげと眺めて呟く。
 その姿が、隙だらけに見えたのだろう。

「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」

 フィリップは、割れんばかりの声で絶叫し、右手のツーハンデッドソードを振り下ろ……すことはできなかった。

「あはは、簡単に斬れるじゃないか」
「あがあああああああああああああああああッッッ!?」

 右手が肘から切り落とされ、切断面から鮮血が噴き出す。
 やれやれ……もっと趣向を凝らして殺してやろうと思ったのに、これじゃ台無しだね。

「まあいいや。さあ、二人共……僕が、丁寧に殺してあげるからね?」

 僕は怯える二人を見据え、三日月のように口の端を吊り上げた。

 そう……ひた、ひた、と忍び寄る、死神のように。
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