上 下
75 / 101

温情とは名ばかりの処刑方法

しおりを挟む
「その不届きな王子の登場ですよ」

 現れたのは、八頭もの馬にゆっくりと引かれる荷馬車。
 荷台には、ルイとフィリップに加え、将兵……副団長のバラケやデュガリーの姿もあった。
 そのことからも、あの二人の副団長も聖女の治癒の力で回復してもらえたみたいだな。

 僕としては好都合。
 これでいよいよ、レナルドの元に送りつけてやることができるから。

「王国め、くたばれ!」
「よくもこの皇都を狙ってくれたな!」

 今日の処刑を見ようと集まった大勢の民衆が、荷台に乗るルイ達に向かって石を投げつける。
 それから逃れるために連中はうずくまって叫んでいるが、どうせ『やめろ』だの『俺を誰だと思っている』だの、意味のない言葉を吐いていることだろう。

 とにかく、広場に到着するまで、できるだけ怪我を負わないでくれよ。
 そうじゃないと、この後の処刑が白けてしまうから。

 そして。

「ヴァルロワ王国第二王子ルイ=デュ=ヴァルロワ、並びに第三王子フィリップ=デュ=ヴァルロワ以下五名、到着いたしました」
「うむ、ご苦労」

 連中を運んできた騎士の報告に、エドワード王が頷く。

「さて……諸君! 無謀にも女神アリアンロッドの加護を受ける神聖なる皇都、ロンディニアを狙った共の処刑を行う!」

 エドワード王の宣言により、民衆の興奮が最高潮となる。
 ……いや、彼等の表情や怒号を聞く限り、もはや狂気と言ってもおかしくはない。

 それもそのはず。百年以上にも及ぶ長い戦いの中で、いずれかの国の王族が敵国によって処刑をされるのは、これが初めてなのだから。
 もちろん、過去に戦争により亡くなった王族はいたが、いずれも戦場で命を落とした者ばかり。

 つまり、ルイとフィリップは、敵の手によって衆人環視のもと処刑されるという屈辱を味わうのだ。
 この不名誉な出来事は、永く歴史に刻まれることだろう。

「それで、この者共の処刑に当たってなのだが……」

 エドワード王は顎に手を当て、僕に意味深な視線を向けると。

此度こたびの王国による皇都襲撃を阻止した立役者である皇国の剣、ギュスターヴのたっての願いにより、温情・・を与えてやることにした」
「「「「「っ!?」」」」」

 まさかの発言に、僕とエドワード王を除く全ての者が息を呑んだ。
 ルイとフィリップに至っては、ひょっとしたら助かるのではないかと色めき立つ。

 だが。

「野良犬にも等しい王国の者共よ。皇国の剣ギュスターヴをその手でほふることができたならば、その命助けてやろう」
「「「「「え……?」」」」」

 エドワード王の言葉に、ルイ達は呆けた声を漏らす。
 ただし、その意味合いは違っているが。

 おそらくルイは、僕ごときを倒すことなど簡単だと思っているのだろう。その証拠に、表情がますます明るくなっている。
 一方で、王国使節団として皇国にやって来て痛い目に遭ったフィリップ達は、僕の実力を知っているから、その顔は血の気を失っていた。

「ギュ、ギュスターヴ殿下……!?」
「アビゲイル殿下、行ってまいります」

 困惑するアビゲイル皇女の小さな手を取り口づけを落とすと、僕はサーベルを持ってルイ達の元へゆっくりと歩を進める。

「この者達のかせを解き、武器を持たせてやってくれ」
「「はっ!」」

 僕の指示を受け、騎士達は剣や槍、盾などを用意した。
 フィリップには特別に、襲撃の際に着用していた甲冑までくれてやる。

「さあ、観客達が待っている。早く準備しろ」
「あ、ああ……」

 ルイ達は各々得意とする武器を取り、横一線に並んだ。

「さあ皆の者よ! ギュスターヴが王国の賊をほふる様を、見届けるがいい!」

 あはは……エドワード王、それじゃ温情・・とは言いませんよ。
 もちろん、最初から生かしておくつもりはないですが。

「それで、誰が先に戦うんだ?」

 手招きするが、連中は動こうとも……いや、僕のことを『不義の子の第六王子』としか認識していない将兵が一人、一歩前に出た。

「貴様、名は?」
「ヴァルロワ王国伯爵、オリヴィエ=テュラム」

 まあ、貴族が従軍していてもおかしくはないけど、テュラム伯爵というのは聞いたことがないな。
 といっても、一度目の人生・・・・・・を含めて貴族連中と関わり合いになる機会なんてなかったのだから、知らないのも当然か。

「さあ……かかってこい」
「御免ッッッ!」

 バスタードソードを上段に構え、テュラム伯爵は一気に詰め寄る。

 だが。

「ぬおッッッ!?」

 僕と肉薄した瞬間、バランスを崩して地面に倒れた。
 それもそのはず。だって、踏み込んだはずの右足が僕の一振りによって斬り落とされているのだから。

「あ、足が……っ!?」
「片足じゃ寂しいだろうから、揃えてやろう」
「っ!? うわああああああああああああッッッ!?」

 残る左足も斬り落とし、テュラム伯爵が地面を転げまわる。
 別に僕は羽虫をいたぶる趣味はないし、そもそも王国に恨みを持つものの、知らない者に対してまでそこまでの感情は持ち合わせていない。

 なので。

「げ……ふ……っ」

 喉を一突きし、すぐに息の根を止めてやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...