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醜い兄二人

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「ギュスターヴ殿下。敵司令官のルイ王子と、騎士団長のフィリップ王子を捕らえました」

 城門前で戦闘の様子をうかがっている僕の元に、騎士のテリーが報告に来てくれた。

「ご苦労だったね。それで、聖女セシルはどうなった?」
「尋問したところ、今回の遠征には聖女は帯同していないそうです」
「なんだって?」

 おかしい……一度目の人生・・・・・・では、ルイに付き従い、皇都へとやって来た。
 できる限り同じ状況を作ってみたけど、やはり展開が変わってしまったということか……。

「分かった、ありがとう」
「はっ!」

 テリーは少しおどけて敬礼し、持ち場へと戻る。
 なお、サイラス将軍とグレンは元気が有り余っているようで、馬に乗ってヴァルロワ兵を蹴散らしに向かった。

 そして。

「やあ、二人共」
「「…………………………」」

 縄で縛られて膝をつくルイとフィリップに、僕はにこやかな笑顔で声をかけた。
 二人共、忌々いまいましげに僕を睨んでいるけど、オマエ達の命は風前のともしびなんだよ。

「それにしても、やってくれたね。王国が一方的に休戦協定を破棄したことによって、西方諸国の各国はどう見るだろうね」
「…………………………」
「ヴァルロワ王国は平気で約束を破る最低の賊だと揶揄やゆされ、今後は諸国から取引に応じてもらえなくなるだろう。この百年の戦争で疲弊している王国としては、かなり致命的なんじゃないかな」

 それでも、肥沃ひよくな土地を持つ王国を滅ぼすには、まだ足りない。
 もっと、絶望に追い込まないと。

「もちろん皇国も、休戦協定が破棄されたわけだから、早速明日からでも侵略を再開することになる。でも、その前に」
「っ!?」

 サーベルを首に当てると、ヒュ、とルイの喉が鳴った。

「その首、無様に皇都の広場でさらしてやる」
「ま、待ってくれ! 僕は第二王子で、今回の作戦の総司令官だったんだ! 生かしておけば、王国との交渉に役に立つぞ!」
「へえ……じゃあ、こっちはいらないか」
「ままま、待て! お、俺だって第三王子だ! しかも、たまたま・・・・総司令官に選ばれただけのルイ兄上と違い、俺は騎士団長! 平時の王国の軍権を握っているのはこの俺だ!」
「それで?」
「な、なら、王国としても俺を優先的に生かすに決まっている! 人質として使えるのは考えるまでもないだろう!」
「フィリップ! 貴様!」

 面白いことにこの二人、自分が助かるためにお互いを蹴落としはじめたぞ。
 醜いことこの上ないけど、別に不義の子とか関係なく、コイツ等もまた兄弟じゃなかったってことだね。

「いずれにせよ、オマエ達をどうするかは僕なんだ。譲り合い・・・・もいいけど、僕が結論を出すまで残された命を噛みしめるんだな」
「ま、待て! 待ってください!」
「い、い、今までのことだったら全部謝る! だから……だから、俺だけは助けてくれ!」

 必死に呼び止める二人を無視し、後のことは騎士達に任せてその場を離れた。
 僕達の策略によって王国の連中を招き入れたとはいえ、皇都ロンディニアを危険にさらしたことも事実。

 夜が明ける前に、何事もなかったように明日を迎えられるようにしないと。

 今も一部で戦闘が続く中、僕は各方面に指示を出して対応に追われた。

 ◇

「……報告は以上になります」

 僕、サイラス将軍、グレンは、謁見の間にて昨夜の王国軍の襲撃の結果についての報告を行った。
 エドワード王は玉座にひじ掛け、愉快そうに頷く。

「では、捕らえた第二王子のルイと、第三王子のフィリップはどうするのだ?」
「もちろん、皇都の広場にて処刑を行います。王国に対する恨みは、まだまだ根深いですから」

 百年以上も続く戦争によって、家族を失った皇国民も大勢いる。
 敵国であるヴァルロワ王国を仇としている者は少なくない。

「ふむ……一応聞くが、あの者達はお主の兄でもある。肉親を殺すことに、戸惑いは……」
「お言葉ですが陛下、僕はあの者達を兄弟だと思ったことはありません。憎き敵です」
「そうか……」

 エドワード王は、僕の答えを聞いて視線を落とした。
 いつも豪快な彼にしては、珍しく感傷的だな……。

「……分かった。以前から言っているように、捕らえた者達の処遇は全てギュスターヴに任せる」
「かしこまりました」

 こうべを垂れる僕達を見やり、エドワード王は謁見の間から退室した。

「ふう……陛下も心中複雑、ですな」
「サイラス将軍?」
「親であれば、子が争うのを喜びはしないものですぞ」

 そういうことか。
 僕とルイ達の関係を、アビゲイル皇女とブリジットの関係に照らし合わせたというわけだ。

 確かに、今回の件でさらに溝が生まれるばかりか、最悪の結末を迎える危険もあるのだから。

「とはいえ、我等はできることをするだけ、だがな」
「グレン卿……そう、だな」

 グレンの言葉に頷き、僕はエドワード王が出て行った扉を見つめた。
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