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皇都ロンディニア制圧に向けて ※ルイ=デュ=ヴァルロワ視点

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■ルイ=デュ=ヴァルロワ視点

「皆の者、おもてを上げよ」

 王宮の謁見の間、シャルル国王の言葉を受け、僕達は全員顔を上げた。
 そう……いよいよ、国王から下知が下されるのだ。

 王国の全ての者が待ち望んでやまなかった、宿敵ストラスクライド皇国への侵略を。

「既に聞き及んでいる者もおるかと思うが、皇国に派遣しているマリエット=ジルーより、『全ての準備が整った』との連絡があった」
「「「「「おお……!」」」」」

 僕を含めた五人の兄弟や居並ぶ大臣達が、感嘆の声を漏らす。

「うむ。そこで、皇都ロンディニア制圧作戦の実行に当たっての、総司令官を決めなければならぬのだが……」

 シャルル国王は、僕達兄弟の顔を見回した。
 僕も、他の兄弟の様子をうかがっていると。

「陛下! どうかこの俺に、ロンディニア制圧の先陣を切らせてくだされ!」

 一番に名乗りを上げたのは、フィリップだった。
 先日の『アイリスの紋章』授与のため使節団の一員として皇国に渡ったが、あろうことかあのギュスターヴに試合で敗れた、情けない弟。

 普段は己の武力を自慢していた乱暴者が、おめおめと帰ってきたのだ。
 汚名返上とギュスターヴへの復讐に燃えるフィリップが、このように手を挙げるのは分かり切っていた。

「もちろんだ。先陣としての・・・・・・お主の活躍、期待しておるぞ」
「ははっ!」

 はは……思ったとおり、シャルル国王はフィリップに全軍の指揮を任せるつもりはないみたいだな。
 ならば、誰が司令官を務めるか、というころだが……そんなもの、この僕をおいて他にいるはずがない。

 兄のアンリは優秀だけど、あくまでも内政面においてであり、軍事に関しては明るくない。
 弟のローランは王国にとって何の役にも立たない錬金術に夢中だし、ジャンが優れているのは容姿だけ。

 となれば、総司令官の役目を果たせるのは、この僕しかいない。

「ルイよ」
「はっ!」
「ロンディニア攻略の総司令官、頼まれてくれるか?」

 ほらね。
 というより、そうなるように準備をしておいただけなんだけど、ね。

「もちろんでございます。このルイ=デュ=ヴァルロワ、必ずや王国に勝利をもたらしてみせましょう」
「うむ、期待しておるぞ」

 僕の言葉に、シャルル国王は満足げに頷く。
 それにしても、楽しみで仕方ないな。

 最初から、勝利が約束された戦いというのは。

 ◇

「明日の朝、いよいよ皇国へ向かうこととなったよ」
「ウフフ、おめでとうございます」

 早速僕は教会に向かい、最愛の女性ひとである聖女セシルにロンディニア攻略作戦について告げた。
 もう一つの、思惑を内に秘めて。

「この戦に勝利すれば、その功績で第一王子のアンリを抑えて僕が次期国王に認められるだろう」
「まあ、それは素晴らしいですね」
「ああ……そこで、だ」

 僕は高鳴る胸を押さえ、セシルを見つめると。

「よければ、僕の雄姿を一番そばで見守ってはくれないだろうか。今回の戦だけではない、この先も……王となってからも、ずっと」
「ルイ殿下……」

 アクアマリンの瞳を潤ませ、僕を見つめるセシル。
 その美しさに、甘くとろけるような声に、僕は……。

「……申し訳ありません。私には、聖女としての役目がございます。ここであなた様のご無事をお祈りし、吉報をお待ちしております」
「あ……」

 深々と頭を下げるセシルへと伸ばした手を、ゆっくりと引き戻す。
 はは……断られてしまったか。

 まあ、さすがに戦場になどついてきたいはずもないか。
 彼女が断るのも、無理はない。

「分かった。僕の帰りを、待っていてくれ」
「はい……どうかご無事で」

 セシルに見送られ、僕は教会を後にする。
 そうだとも。僕は決して、彼女に拒否されたわけではない。

 そう言い聞かせ、僕はかぶりを振った。

 ◇

「ルイ兄上! こちらの準備は万端だ!」

 軍船に全ての荷物を積み終え、フィリップは拳で胸を叩いた。

「はは、気合いが入っているじゃないか」
「当然だ! あの……あのギュスターヴを、俺の手で八つ裂きにする機会が、もうまもなく訪れるのだからな!」

 今まで見たこともないような醜悪な顔で、フィリップは犬歯をき出しにする。
 セシルから聞いた話によると、フィリップは両腕を切り落とされ、情けなくも涙や鼻水、よだれで顔中を汚すその姿は、地面にうごめ蛆虫うじむしのようだったそうだ。

 それを、皇国の大勢の連中の前でさらしたのだから、これ以上ない恥辱を味わったことだろう。
 何より、くずにも等しいギュスターヴが張本人なのだからな。

「フィリップ、頼もしいよ」
「任せてくれ! そして、この戦が終われば聖女殿と……」

 命を救われたこともあって、ますますセシルにご執心じゃないか。
 だが、残念だったな。彼女は、この僕の妻となるのだから。

「さあ、行こうじゃないか。ヴァルロワ王国の、輝かしい未来のために!」
「おう!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおーッッッ!」」」」」

 僕達は船に乗り込み、意気揚々と出航した。

 皇国を手中に収め、国王の座と聖女セシルを手に入れるために。
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