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対抗戦、決定

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「そこで、双方納得がいくように、当事者同士による試合にて決着をつけてはいかがかと」

 そう言うと、グレンは口の端を持ち上げた。
 これこそが、僕達の真の目的。

 大勢の民衆達の眼前で、フィリップをはじめとした王国騎士団の面々をひねり潰してやれば、皇国民も溜飲りゅういんが下がる上、王国に恥をかかせることができる。
 それに、ヴァルロワの第六王子である僕が王国の連中を容赦なく叩き伏せることにより、王国との関係を疑われる可能性も今よりはまりになるだろう。

 一番の目的は、他にあるけどね。

「ギュスターヴ殿下、サイラス、そしてフィリップ殿下よ。グレンの提案を受けるか?」
「はい。僕も名誉のため、戦いたく存じます」
「陛下! もちろん私もですぞ!」
「フン! ……ギュスターヴなど物の数にも入らんが、よもや二対一で戦うつもりではないだろうな? まあ、卑怯な皇国のやり口ではあるが」

 なるほど、二対一では勝ち目がないからと、先手を打ってきたわけだ。普段は尊大で傲慢なくせに、いざとなれば小さい男だ。

「ならば、王国側ももう一人出すがよい。それで……」
「陛下、お待ちください。この王国との試合、是非この私も参戦いたしたく」
「お主もか?」
「はっ! 皇国を侮辱され、許せないのはこの私も同じです」

 さあ、これで皇国の代表は、サイラス将軍とグレン、そして僕になった。
 あとは、王国がフィリップ以外の二人を出してくるだけだろう。

 となると、一人は副団長のバラケ、もう一人の副団長……“ディディエ=デュガリー”になるだろうな。

 バラケの実力は大したことはなく、誰が相手をしても無様な結果になるだろうけど、デュガリーの実力は何とも言えない。
 少なくとも、一度目の人生・・・・・・においては王国最強の武人とうたわれていた。警戒すべきは、この男だけだろう。

「分かった。グレン、お主の参戦を認めよう。では、明日の式典の前、双方三対三の試合を行う! いずれにせよ、兄弟同士の問題は兄弟で決着をつけるがよい!」

 これで、僕とフィリップの試合が確定した。

「フン! この俺に楯突いた罪、皇国の者共の面前で貴様の醜悪な姿をさらしてやろう!」

 対戦相手が僕になったことで気が楽になったのか、フィリップの表情に余裕が生まれ、舌もよく回るようになったみたいだ。
 逆に、これまで虐げてきた僕に恥をかかされる結果になるとも知らずに。

「聖女、行くぞ!」
「は、はい……」

 聖女に声をかけ、こんなところにいたくないとばかりに、フィリップは会場を後にする。
 一方で、聖女はフィリップに返事こそするものの、僕に身体を寄せると。

「……どうか、ご無事で。決して、死んではなりませんよ? 万が一の時は、この私の治癒の力で……」
「ありがとうございます。聖女様のお手を煩わせないよう、頑張ります」

 耳打ちをする聖女に、僕は謙遜して頭を下げた。
 まあ、聖女の力でフィリップが死ななければいいけどね。

 フィリップの後を追いかける聖女の小さな背中を見送り、僕は口の端を吊り上げた。

 ◇

「……いよいよ、明日」

 その日の夜、僕は自分の部屋でサイラス将軍からいただいたサーベルの手入れをし、ポツリ、と呟く。
 不義の子として生まれた僕は、味方なんて一人もいなくて、親兄弟から……いや、王国の全ての者からさげすまれ、聖女セシルに裏切られて一度目の人生・・・・・・を終えた。

 そんな僕に、絶対にあり得ない奇跡・・が起こり、これまで虐げてきた王国に復讐を誓って今、ここにいる。

 その第一歩を、明日の試合で飾るんだ……って。

「ギュスターヴ殿下……」

 隠し通路を通ってやって来たのは、もちろんアビゲイル皇女。
 僕はサーベルを置き、彼女を迎える。

「その……お邪魔でしたでしょうか」
「まさか。あなたならいつだって大歓迎ですよ」

 おずおずと尋ねるアビゲイル皇女に、僕は笑顔で少し大袈裟に振る舞った。

「ふふ、よかったです」

 いつものように、僕達はベッドに並んで腰かける。
 少し触れる、彼女の小さな身体の温もりを感じて。

「ひょっとして、眠れないのですか?」
「はい。明日のことを思うと、目が冴えてしまいまして」

 僕達にとってのメインは、王国の連中に屈辱を味わわせることではあるけど、元々は彼女が王族の証である『アイリスの紋章』を授与されるための式典なんだ。
 そう考えると、一応は・・・彼女の晴れ舞台ではあるんだけど、そのせいで……ということはないか。

「だって、明日はあなた様を虐げてきた者達が、後悔をする記念日となるのですから」

 そう言うと、アビゲイル皇女は妖しくわらった。
 彼女もまた、僕と同じ思いでいてくれていたんだ……。

「あ……」
「……もちろん、フィリップをはじめとした王国を苦しめることが目的ですが、明日はあなたが皇国で最も輝く日であることを、決して忘れないでください」
「? はい」

 僕の言葉の意味が分からず、アビゲイル皇女は首を傾げつつも頷いた。
 そう……明日は、彼女が輝く日。
 だから、楽しみにしていてほしい。

 ――あなたが、『ギロチン皇女』ではなくなる瞬間を。
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