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汚名の真実
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「ギュスターヴ殿下……あなたは、ストラスクライド皇国の次期女王に誰が相応しいと思いますか?」
テラスの席に座るブリジット皇女は、お茶を口に含み、ニコリ、と微笑んだ。
「誰が相応しい、ですか……?」
「ええ」
あえて惚けて聞き返した僕に、彼女は頷く。
実は、一度目の人生においても同じようにお茶に誘われ、同じ質問を受けた。
というのも、エドワード王の実子はアビゲイル皇女とブリジット皇女しかおらず、二人は皇位継承争いを繰り広げている。
ただ、アビゲイル皇女は知ってのとおり感情表現に乏しく、『ギロチン皇女』との不名誉な二つ名まであり、皇国内外であまり評判がよくない。
一方、ブリジット皇女は笑顔の絶えないその愛くるしさや人懐っこい性格から、貴族や国民から多くの支持を得ている。
つまり、ブリジット皇女が次期皇女王として一歩リードしているのが現状だ。
これを打破するため、アビゲイル皇女の支持者達は、休戦協定においてヴァルロワ王国の王子と結婚させ、姻戚関係を結ぶことで強力な後ろ盾を得ようと考えた。
ただ、その相手がまさか不義の子である第六王子になるとは予想外だったみたいで、一度目の人生でのアビゲイル派の落胆ぶりはすごかったと、今も記憶に残っている。
まあ、戦争では皇国側が有利に進めていたのだから、王国が誠意を見せるものだと軽く考えていたのがそもそもの誤算なんだけど。
「ギュスターヴ殿下もお姉様とお会いしてお分かりになられたかと思いますが、あまり社交的ではありませんし、それに、世間では『ギロチン皇女』などと呼ばれ、不興を買っておられます」
「…………………………」
「もしお姉様が次の皇女王に選ばれたら、ご苦労されるのは目に見えております。私は、お姉様の苦しむお姿を見たくはないのです……」
打って変わって、ブリジット皇女が愁いを帯びた表情を見せる。
「……そのようなお話を僕にしたのには、何か理由があるのでしょうか?」
「いいえ、特にありませんわ。ただ……お姉様の婚約者であるあなたには、私の想いを理解していただきたかったのです」
「そうですか……」
僕は同情するような視線を向け、ゆっくりとお茶を口に含んだ。
「ギュスターヴ殿下……お姉様のことを少しでも想ってくださるのであれば、私の言葉をどうか心に留めておいてください」
ブリジット皇女は席を立ち、カーテシーをして席を後にする。
一人残された僕は、両手で顔を覆うと。
「…………………………プッ」
いけない。あまりにも愉快で、思わず吹き出してしまった。
いやいや、本心ではアビゲイル皇女を蹴落とすことしか考えていないくせに、よくもまああんな演技ができるものだよ。
聖女といいマリエットといい、僕に言い寄ってくる女共には碌な奴がいないね。
まあ、全員が全員、僕を利用しようと考えている連中ばかりなんだから、それも当然か。
あの女も、こんな話をしたのはヴァルロワの王子である僕を引き入れるため。
第六王子で不義の子であることを知りつつも、少しくらいは役に立つと考えてのものだ。
一度目の人生においても、あの女は先程と同じように話を持ちかけてきた。
ただ、あの時の僕は敵である皇国の連中に耳を傾けるはずもなく、ブリジットの話も罠だとしか思っていなかったから、ずっと無視していたんだ。
それもあってか、あの女はすぐに僕を相手にしなくなり、それどころか逆にアビゲイル皇女と同じように皇国の内外に悪評を広めた。
そう……『ギロチン皇女』の噂を広めたのも、全てブリジットの仕業だ。
アビゲイル皇女の配下に扮した連中に、捕虜となった多くのヴァルロワ兵を殺害させ、皇都ロンディアの広場で首を晒してアビゲイル皇女が断頭台で処刑したことを喧伝した。
実際にそんなことをしたのは、ブリジットの手の者だというのに。
おそらくエドワード王も誰の仕業であるか気づいていたはずだが、まだ王国と戦争中でもあったことから、相手の士気を下げさせる意味でもあえて否定も追求もしなかったのだろう。
その結果、アビゲイル皇女は汚名を着せられることになったんだ。
「今回はあえて付き合ってやったんだ。あの女はこれから……早ければ今夜にでも、何かしら僕に接触してくるかもね」
ブリジットの信用を得るためにも、しばらくの間は話を聞いてやるつもりでいる。
そうじゃないと、おそらく真実にたどり着けないだろうから。
ただ。
「……アビゲイル殿下に、僕の真意を伝える術はないものか」
いくら目的のためとはいえ、このままだと彼女に誤解されかねない……いや、誤解されるに決まっている。
だけど、僕の傍には常に監視役のマリエットが控えているし、皇宮の連中だって誰一人信用できない。
その中でもあえてましなのは、アビゲイル皇女の侍女であるクレアだけど……。
「駄目だ。彼女は僕のことを敵視している。きっと、罠か何かと考えるに違いない」
となると、アビゲイル皇女と二人きりの時に話をするしかない。
先程のブリジットとの会話を含め、誤解を解くためにも今夜中に接触しよう。
「少し強引になるかもしれないけど、仕方ないよね……」
別の意味で誤解されてしまうかもしれないと思い、僕は頭を抱えた。
テラスの席に座るブリジット皇女は、お茶を口に含み、ニコリ、と微笑んだ。
「誰が相応しい、ですか……?」
「ええ」
あえて惚けて聞き返した僕に、彼女は頷く。
実は、一度目の人生においても同じようにお茶に誘われ、同じ質問を受けた。
というのも、エドワード王の実子はアビゲイル皇女とブリジット皇女しかおらず、二人は皇位継承争いを繰り広げている。
ただ、アビゲイル皇女は知ってのとおり感情表現に乏しく、『ギロチン皇女』との不名誉な二つ名まであり、皇国内外であまり評判がよくない。
一方、ブリジット皇女は笑顔の絶えないその愛くるしさや人懐っこい性格から、貴族や国民から多くの支持を得ている。
つまり、ブリジット皇女が次期皇女王として一歩リードしているのが現状だ。
これを打破するため、アビゲイル皇女の支持者達は、休戦協定においてヴァルロワ王国の王子と結婚させ、姻戚関係を結ぶことで強力な後ろ盾を得ようと考えた。
ただ、その相手がまさか不義の子である第六王子になるとは予想外だったみたいで、一度目の人生でのアビゲイル派の落胆ぶりはすごかったと、今も記憶に残っている。
まあ、戦争では皇国側が有利に進めていたのだから、王国が誠意を見せるものだと軽く考えていたのがそもそもの誤算なんだけど。
「ギュスターヴ殿下もお姉様とお会いしてお分かりになられたかと思いますが、あまり社交的ではありませんし、それに、世間では『ギロチン皇女』などと呼ばれ、不興を買っておられます」
「…………………………」
「もしお姉様が次の皇女王に選ばれたら、ご苦労されるのは目に見えております。私は、お姉様の苦しむお姿を見たくはないのです……」
打って変わって、ブリジット皇女が愁いを帯びた表情を見せる。
「……そのようなお話を僕にしたのには、何か理由があるのでしょうか?」
「いいえ、特にありませんわ。ただ……お姉様の婚約者であるあなたには、私の想いを理解していただきたかったのです」
「そうですか……」
僕は同情するような視線を向け、ゆっくりとお茶を口に含んだ。
「ギュスターヴ殿下……お姉様のことを少しでも想ってくださるのであれば、私の言葉をどうか心に留めておいてください」
ブリジット皇女は席を立ち、カーテシーをして席を後にする。
一人残された僕は、両手で顔を覆うと。
「…………………………プッ」
いけない。あまりにも愉快で、思わず吹き出してしまった。
いやいや、本心ではアビゲイル皇女を蹴落とすことしか考えていないくせに、よくもまああんな演技ができるものだよ。
聖女といいマリエットといい、僕に言い寄ってくる女共には碌な奴がいないね。
まあ、全員が全員、僕を利用しようと考えている連中ばかりなんだから、それも当然か。
あの女も、こんな話をしたのはヴァルロワの王子である僕を引き入れるため。
第六王子で不義の子であることを知りつつも、少しくらいは役に立つと考えてのものだ。
一度目の人生においても、あの女は先程と同じように話を持ちかけてきた。
ただ、あの時の僕は敵である皇国の連中に耳を傾けるはずもなく、ブリジットの話も罠だとしか思っていなかったから、ずっと無視していたんだ。
それもあってか、あの女はすぐに僕を相手にしなくなり、それどころか逆にアビゲイル皇女と同じように皇国の内外に悪評を広めた。
そう……『ギロチン皇女』の噂を広めたのも、全てブリジットの仕業だ。
アビゲイル皇女の配下に扮した連中に、捕虜となった多くのヴァルロワ兵を殺害させ、皇都ロンディアの広場で首を晒してアビゲイル皇女が断頭台で処刑したことを喧伝した。
実際にそんなことをしたのは、ブリジットの手の者だというのに。
おそらくエドワード王も誰の仕業であるか気づいていたはずだが、まだ王国と戦争中でもあったことから、相手の士気を下げさせる意味でもあえて否定も追求もしなかったのだろう。
その結果、アビゲイル皇女は汚名を着せられることになったんだ。
「今回はあえて付き合ってやったんだ。あの女はこれから……早ければ今夜にでも、何かしら僕に接触してくるかもね」
ブリジットの信用を得るためにも、しばらくの間は話を聞いてやるつもりでいる。
そうじゃないと、おそらく真実にたどり着けないだろうから。
ただ。
「……アビゲイル殿下に、僕の真意を伝える術はないものか」
いくら目的のためとはいえ、このままだと彼女に誤解されかねない……いや、誤解されるに決まっている。
だけど、僕の傍には常に監視役のマリエットが控えているし、皇宮の連中だって誰一人信用できない。
その中でもあえてましなのは、アビゲイル皇女の侍女であるクレアだけど……。
「駄目だ。彼女は僕のことを敵視している。きっと、罠か何かと考えるに違いない」
となると、アビゲイル皇女と二人きりの時に話をするしかない。
先程のブリジットとの会話を含め、誤解を解くためにも今夜中に接触しよう。
「少し強引になるかもしれないけど、仕方ないよね……」
別の意味で誤解されてしまうかもしれないと思い、僕は頭を抱えた。
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