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第二皇女ブリジット
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「ギュスターヴ殿下よ! 皇国へよくぞまいった!」
皇宮の謁見の間。
満面の笑みを浮かべるストラスクライド皇国の皇王“エドワード=オブ=ストラスクライド”から、歓迎の言葉を賜った。
彼こそが、ヴァルロワ王国との百年もの長きにわたる戦いにおいて、最も版図を拡大した偉大な王であり、その金色の髪から『金獅子王』との異名を持っている。
一度目の人生では、エドワード王の威圧感と大きな声が苦手で、この謁見とアビゲイル皇女との結婚式以外ではずっと避け続けていた。
だが、この二度目の人生ではそうはいかない。
王国への復讐のためには、アビゲイル皇女と同じとまではいかないまでも、それなりの信頼を勝ち取らないと。
「お初にお目にかかります。ヴァルロワ王国の元第六王子、ギュスターヴにございます」
「ん? ……ハハハハハ! 確かにな!」
僕の自己紹介に一瞬首を捻った後、エドワード王は豪快に笑った。
「ここまでの長旅で疲れたであろう! 今日はゆっくりと身体を休めるがよい!」
「お気遣い、ありがとうございます」
謁見の間の外にまで響き渡るその大きな声で労ったエドワード王は、玉座から立ち上がると、お供の侍従長のみを連れてそのまま退室する。
娘である第一皇女の婚約者との初対面にしては、あまりにも短い時間ではあったけど、ともあれ、
初対面の挨拶は上手くいったみたいでよかった。
「ギュスターヴ殿下、お疲れさまでした。それでは、これからあなたがお過ごしになるお部屋へとご案内します」
「あ……ありがとうございます」
謁見の間を出ると、アビゲイル皇女に案内されたのは。
「素晴らしい、ですね……」
僕が一度目の人生を終えるまでの三年間を過ごした、あの部屋だった。
一人で生活するには大きすぎる部屋と、豪華で歴史ある調度品、その他必要なものが寸分違わず配置されている。
死に戻る前は、ただ豪華なだけの無駄に広い部屋という感想しか抱かなかったけど、改めて見ると、僕がここで生活する上で不自由なく、また、過ごしやすいようにと最大限配慮されていることが窺えた。
「その……この部屋の手配は、アビゲイル殿下が?」
「あ……何か、お気に召さない点がありましたでしょうか……?」
どうやら僕の反応を見て、気に入らなかったのではないかと受け取ったみたいで、アビゲイル皇女がおずおずと僕の顔を覗き込む。
「とんでもありません。部屋が素晴らしいこともさることながら、過ごしやすいようにと心遣いをいただいたことに、是非とも感謝を伝えたいと思い、お尋ねした次第です」
「そうですか……であれば、よかったです」
表情こそ変わらないが、アビゲイル皇女が胸を撫で下ろした。
やはり、部屋の手配も彼女がしてくれたみたいだ。
「アビゲイル殿下、ありがとうございます」
「い、いえ……」
その小さな手を取り、口づけを落とすと、アビゲイル皇女はほんの少しだけ頬を染める。
「そ、それでは、今夜はギュスターヴ殿下の歓迎を催したいと思いますので、それまでどうぞごゆっくりおくつろぎを……」
そう言って、アビゲイル皇女がこの場を立ち去ろうとした、その時。
「まあ! この御方が私の兄になるのですね!」
両手を合わせ、パアア、と満面の笑みを浮かべて現れた、一人の少女。
アビゲイル皇女と同じ金色の髪だが、瞳の色は透き通るようなエメラルド。
愛らしく表情豊かな彼女の名は、“ブリジット=オブ=ストラスクライド”。
ストラスクライド皇国の第二皇女であり、アビゲイル皇女と同い年の、腹違いの妹だ。
「お初にお目にかかります。第二皇女のブリジットと申します」
「これはご丁寧に痛み入ります。僕はヴァルロワ王国のギュスターヴ、この度晴れてアビゲイル殿下の婚約者となりました。どうぞお見知りおきください」
優雅にカーテシーをするブリジット皇女に、僕も胸に手を当ててお辞儀をする。
「ウフフ……せっかくこうしてお会いすることができたのですから、よろしければお茶でもご一緒いたしませんか?」
「ブリジット、ギュスターヴ殿下はお越しになられたばかり。無理を言ってはいけません」
ブリジット皇女と僕の間に割って入り、アビゲイル皇女がたしなめた。
船酔いは問題なかったけど、王都からノランド、そしてこの皇都ロンディアへと休みなく来たから、疲れていることも事実。正直、今すぐにでもベッドの上で寝転がりたい。
だけど。
「アビゲイル殿下、ご心配には及びません。それに、ブリジット殿下も僕を歓迎してのことでしょうから……」
「ですが……いえ、分かりました」
僕がブリジット皇女の肩を持つとは思わなかったのだろう。アビゲイル皇女一瞬目を見開き、かぶりを振る。
「ギュスターヴ殿下、ありがとうございます! では、とっておきの場所へご案内しますね! ……あ、お姉様もご一緒にいかがですか?」
「……遠慮するわ」
アビゲイル皇女は踵を返すと、鋭い視線を向けるクレアを連れてこの場を去った。
思わず彼女を引き留めようと手を伸ばしそうになるが、僕はぐっと堪える。
せっかくの機会。これを逃すわけにはいかない。
「さあ、まいりましょう」
「はい。マリエットは、部屋で荷ほどきなどをしておいてくれ」
「かしこまりました」
僕はブリジット皇女の手を取り、とっておきの場所……皇宮の庭園にある温室へと向かう。
そして。
「ギュスターヴ殿下……あなたは、ストラスクライド皇国の次期女王に誰が相応しいと思いますか?」
テラスの席に座るブリジット皇女は、お茶を口に含み、ニコリ、と微笑んだ。
皇宮の謁見の間。
満面の笑みを浮かべるストラスクライド皇国の皇王“エドワード=オブ=ストラスクライド”から、歓迎の言葉を賜った。
彼こそが、ヴァルロワ王国との百年もの長きにわたる戦いにおいて、最も版図を拡大した偉大な王であり、その金色の髪から『金獅子王』との異名を持っている。
一度目の人生では、エドワード王の威圧感と大きな声が苦手で、この謁見とアビゲイル皇女との結婚式以外ではずっと避け続けていた。
だが、この二度目の人生ではそうはいかない。
王国への復讐のためには、アビゲイル皇女と同じとまではいかないまでも、それなりの信頼を勝ち取らないと。
「お初にお目にかかります。ヴァルロワ王国の元第六王子、ギュスターヴにございます」
「ん? ……ハハハハハ! 確かにな!」
僕の自己紹介に一瞬首を捻った後、エドワード王は豪快に笑った。
「ここまでの長旅で疲れたであろう! 今日はゆっくりと身体を休めるがよい!」
「お気遣い、ありがとうございます」
謁見の間の外にまで響き渡るその大きな声で労ったエドワード王は、玉座から立ち上がると、お供の侍従長のみを連れてそのまま退室する。
娘である第一皇女の婚約者との初対面にしては、あまりにも短い時間ではあったけど、ともあれ、
初対面の挨拶は上手くいったみたいでよかった。
「ギュスターヴ殿下、お疲れさまでした。それでは、これからあなたがお過ごしになるお部屋へとご案内します」
「あ……ありがとうございます」
謁見の間を出ると、アビゲイル皇女に案内されたのは。
「素晴らしい、ですね……」
僕が一度目の人生を終えるまでの三年間を過ごした、あの部屋だった。
一人で生活するには大きすぎる部屋と、豪華で歴史ある調度品、その他必要なものが寸分違わず配置されている。
死に戻る前は、ただ豪華なだけの無駄に広い部屋という感想しか抱かなかったけど、改めて見ると、僕がここで生活する上で不自由なく、また、過ごしやすいようにと最大限配慮されていることが窺えた。
「その……この部屋の手配は、アビゲイル殿下が?」
「あ……何か、お気に召さない点がありましたでしょうか……?」
どうやら僕の反応を見て、気に入らなかったのではないかと受け取ったみたいで、アビゲイル皇女がおずおずと僕の顔を覗き込む。
「とんでもありません。部屋が素晴らしいこともさることながら、過ごしやすいようにと心遣いをいただいたことに、是非とも感謝を伝えたいと思い、お尋ねした次第です」
「そうですか……であれば、よかったです」
表情こそ変わらないが、アビゲイル皇女が胸を撫で下ろした。
やはり、部屋の手配も彼女がしてくれたみたいだ。
「アビゲイル殿下、ありがとうございます」
「い、いえ……」
その小さな手を取り、口づけを落とすと、アビゲイル皇女はほんの少しだけ頬を染める。
「そ、それでは、今夜はギュスターヴ殿下の歓迎を催したいと思いますので、それまでどうぞごゆっくりおくつろぎを……」
そう言って、アビゲイル皇女がこの場を立ち去ろうとした、その時。
「まあ! この御方が私の兄になるのですね!」
両手を合わせ、パアア、と満面の笑みを浮かべて現れた、一人の少女。
アビゲイル皇女と同じ金色の髪だが、瞳の色は透き通るようなエメラルド。
愛らしく表情豊かな彼女の名は、“ブリジット=オブ=ストラスクライド”。
ストラスクライド皇国の第二皇女であり、アビゲイル皇女と同い年の、腹違いの妹だ。
「お初にお目にかかります。第二皇女のブリジットと申します」
「これはご丁寧に痛み入ります。僕はヴァルロワ王国のギュスターヴ、この度晴れてアビゲイル殿下の婚約者となりました。どうぞお見知りおきください」
優雅にカーテシーをするブリジット皇女に、僕も胸に手を当ててお辞儀をする。
「ウフフ……せっかくこうしてお会いすることができたのですから、よろしければお茶でもご一緒いたしませんか?」
「ブリジット、ギュスターヴ殿下はお越しになられたばかり。無理を言ってはいけません」
ブリジット皇女と僕の間に割って入り、アビゲイル皇女がたしなめた。
船酔いは問題なかったけど、王都からノランド、そしてこの皇都ロンディアへと休みなく来たから、疲れていることも事実。正直、今すぐにでもベッドの上で寝転がりたい。
だけど。
「アビゲイル殿下、ご心配には及びません。それに、ブリジット殿下も僕を歓迎してのことでしょうから……」
「ですが……いえ、分かりました」
僕がブリジット皇女の肩を持つとは思わなかったのだろう。アビゲイル皇女一瞬目を見開き、かぶりを振る。
「ギュスターヴ殿下、ありがとうございます! では、とっておきの場所へご案内しますね! ……あ、お姉様もご一緒にいかがですか?」
「……遠慮するわ」
アビゲイル皇女は踵を返すと、鋭い視線を向けるクレアを連れてこの場を去った。
思わず彼女を引き留めようと手を伸ばしそうになるが、僕はぐっと堪える。
せっかくの機会。これを逃すわけにはいかない。
「さあ、まいりましょう」
「はい。マリエットは、部屋で荷ほどきなどをしておいてくれ」
「かしこまりました」
僕はブリジット皇女の手を取り、とっておきの場所……皇宮の庭園にある温室へと向かう。
そして。
「ギュスターヴ殿下……あなたは、ストラスクライド皇国の次期女王に誰が相応しいと思いますか?」
テラスの席に座るブリジット皇女は、お茶を口に含み、ニコリ、と微笑んだ。
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