マリベール

amaoh

文字の大きさ
上 下
8 / 9
はじまり

グランバニアへ

しおりを挟む
「お待ちしておりました。」

そこにはグランバニアの紋章が刻まれた魔導船が待ち受けていた。船と呼ぶが飛空艇である。
艦内に案内された二人はまず今回の責任者に会う事になった。

「お久しぶりですね。」

すぐには思い出せないがその男は続ける。

「フフッあの時フードを被っていたので分かりませんか?魔法陸軍が…」

「ええっ!!あの時マールを助けてくれた方!」

にこっと笑みをこぼしながら

「はい!私はギデオンと申します。皇国グランバニアの聖詠隊の長を務めております。説明時にお伺い出来なくて申し訳ありませんでした。お使い…ゴホン国主により他の任務がありましたので。歌姫カシミア殿。世界をどうかよろしくお願い致します。」

「世界を救うとかまだ意味が分からないのですが切羽詰まった事情があるのでしょう?皇国の国主様から直々の書状でしたし私に出来ることがあるならなんでも致します。それに一人じゃないですし!」

マリベールをみてカシミアは微笑む。

「そうですね。マリベールさんもお久しぶりです。何か不便が有れば即座に言って下さい。声の事は皆に話してありますので。」

マリベールは頭を丁寧に下げた。

「そろそろ出発の時間となります。グランバニアまでは空路で約十日かかりますので到着まで艦内ではご自由にされて下さい。食堂や湯殿は二十四時間ご利用できますし、図書室等様々な施設があります。また侍女たちによるマッサージも受けれますのでその都度申し付けて下さい。もちろん全て無料ですよ。」

(ごはんごはんごはんごはんごは…)

そしてそれぞれ個室に案内され一息つく。侍女がお茶をいれてくれるのを姿勢を正しながらマールは待っていた。

「どうぞ。何かございましたらお声がけください。」

一つの乱れもない立ち姿に惚れ惚れしながらペコリと頭を下げる。

(フフッワタクシはお姫様ですのことよ)

と、淹れてもらったお茶を飲みながら意味の分からない言葉を使ってそのひとときを堪能していた。

(それにしても魔法科学とはすごいものね。空を飛ぶ船か。それも十日で行けるなんて)

マリベールが驚くのも無理はない。皇国グランバニアへは通常彼女達がいた街から西の港まで陸路で六日、海路で二十日かかっていた。しかも海路は天気が悪くなりやすく方位を乱す磁場があり仮に夜空の星を目安に進もうとしても厚い雲に覆われてる空は滅多にその顔を見せなかった。なので渡航にはそれなりの覚悟が必要である。

(船乗りを導くセイレーンの歌声か…。)

唐突にギデオンの話を思い出して窓から空を眺めるマリベール。

(私も歌いたい。ただ心を込めて、誰かにきいて貰っていずれは歌姫に!)

渡航中もマリベールは空いた時間が有れば歌う練習をしていた。間違いなく聴ける者には届いていた。


人はいつから当たり前のように耳だけでしか歌を聴いていないと錯覚したのだろう。心のこもった歌とは歌い手の歌のうまさ、歌詞や曲調が自分の心境や、自分自身と重ねたとき共感でき感情移入がしやいとそう感じる。だが、本当にそうだろうか?いや気づかないだけなのだろう。

人はちゃんと心でも歌を聴いている。響いているのだ。それが普通だと感じてしまい実際的に耳に頼ってしまう。
マリベールの歌は聴く全ての人々に聴こえている。歌姫カシミアと変わらない程の歌が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

闇に堕つとも君を愛す

咲屋安希
キャラ文芸
 『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。  正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。  千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。  けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。  そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。  そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

†レクリア†

希彗まゆ
キャラ文芸
不完全だからこそ唯一の『完全』なんだ この世界に絶望したとき、世界中の人間を殺そうと思った わたしのただひとつの希望は、ただあなたひとりだけ レクリア───クローンの身体に脳を埋め込み、その身体で生きることができる。 ただし、完全な身体すぎて不死になるしかない─── ******************** ※はるか未来のお話です。 ストーリー上、一部グロテスクな部分もあります。ご了承ください

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

カラフル*レイヴン♪~アホの相手は面倒ですね~

月白ヤトヒコ
キャラ文芸
黒髪黒瞳の容姿が鴉のようで不吉だと称されているが、中身は能天気でアホなお子様主と、容姿端麗な毒舌従者の二人旅。 そんな二人がやって来たのは、吸血鬼の住むと言われている城で・・・ 少しシリアス。ちょっとミステリー風味。でも、多分コメディ。 美形従者はアホを雑に扱います。

処理中です...