マリベール

amaoh

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はじまり

想いをのせて

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ハッと目が覚め遅刻!と飛び起きる。が、今日はお休みだった。マリベールの休日は決まってある場所に行く。顔を洗い髪をセットし街の外れにある今は使われていない高台の建物へ。そこにお弁当とノートを持って行く。

お弁当はもちろんお昼の為だがノートは風景画を書くわけではない。歌詞を箇条書きにしているのだ。歌詞といっても決まったフレーズなどなくただ風の吹き抜ける草原を眺めて自分が歌姫になったら伝えたい想いなど思いつく限り書いている。

彼女は声が出せないだけで心がないわけじゃない。言葉も理解出来るし感情を表現する事だって普通にする。笑う事も泣く事も。常人となんら変わらない。

戦争は無差別に全てを奪う。生命や住む場所だけじゃない。目に見える物、見えない物。マリベールにとっては両親、家、そして声。彼女にとっての声は未来と希望と夢。それらを奪われた。だけどそれでも生きている。ならどうするか。諦めたくなかったから彼女は多くの医者に相談した。最高の医療機関である国立の魔法科学治療院にも通ったが医師達の返事は難しいの一言だった。精神的理由にて言葉を失っていたマリベールの声は治らない病と診断された。

そんな戦争を恨んで恨んで絶望している時に出会ったのがカシミアの歌声だった。当時生きている意味さえ見出せないマリベールに光を差し伸べたたった一曲。一軒の酒場から聴こえてくるその歌声は一人の人生を変えるには充分なものだった。
それからは歌姫セイレーンで働き出し夢も希望も取り戻したのだった。

お昼を食べ、ある程度歌詞を書き出したらつぎは歌を歌う。頭の中で曲も歌詞も完成している。声にならない歌は誰かに届いているのだろうか?…きっと届いているだろう。各地に残る伝説の歌姫セイレーン。彼女の様に声はなくとも魔力がもしかすると歌を伝える手段の一つになるかもしれない。いや、既になっているのかもしれない。それを気付くはずもなく、知るよしもなくマリベールは歌う。
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